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ショートショート:『すてる者とひろう者』-ひろい猫(1800字)


僕は今
洗濯かごに ぽつんと一人座っている。

小さい子猫がおびえていたから
泥だらけになった白猫にみつめられたから
クッキーの欠片に首をかしげてついてきた…
そんな猫たちを
僕は家に連れて帰った。

お母さんもお父さんも
ぶんぶんと何度も何度も首を横に振ったけれど、
僕は
何度も何度も連れて帰った。

「すて猫ひろいの子供なんてもういらない」


段ボールには大きすぎた僕は
洗濯かごに入れられて
大きな紙に

【捨て子です。だれか拾ってください】

かごにテープでぺたっととめられた。


小さな赤いビートルは、
お母さんとお父さん2人だけを乗せて
大通りを背にして ぶぉ~んと走り去っていった。


道行く人たちが ちらっちらっとこっちを見るけれど、
僕を指さす小さな子供の手を
大人たちはグイっと引っ張りながら過ぎ去っていく。

優しそうな女の人が僕を抱き上げたけれど、
眉をしかめて
「もう…大きいから懐かないわよねぇ」
そういって、
僕はまた洗濯かごの中にぽんと入れられた。


お店を出てきたおじさんが僕の前に
牛乳とくりーむパンを置いていった。
「いい里親みつかるといいな」
そう言い残して。

辺りもだんだん暗くなって
着替えも歯ブラシもないけれど
お腹だけはいっぱいになった。
あのおじさんについていったらお父さんになってくれたかな?

街灯がふっとついて
洗濯かごに座ったままの僕が
スポットライトを浴びると
虫が目の前をちらつき始める。

行き交う人もいなくなって
みなあったかいお家の中でパジャマ姿でいるのかな。
涙がほろり、かごの底をパツンとうちつけた。

するとビルの間から小さな人が集まって来た。
僕よりも全然ちいさい
人差し指くらいの人たちが。

かごの紙に書かれた大きな文字を見上げるようにして読むと
皆でひそひそ耳打ちをする。
僕は初めて目にする小さな人たちを前に
何が起こっているのか分からなかった。
目を真ん丸にして
膝をかかえたまま、ただじーっとしていると
小さい人達もまた
昼間の人たちの様に僕の前からビルの間へと消えて行った。

空を見上げると満点の星空。
このままずっとここにぽつんといるのかな…
またパツン パツンと音を鳴らす。

「おっ!みずだ」
小さな声が耳元で聞こえると
目の前を飛んでいた虫がびゅんとかごの中へと落ちきて
僕の涙のふちに顔をつっこむ。
涙を飲み干しおなかがいっぱいになった虫が
僕を見てこういった。
「心配するな。さっきの小人たちがすぐに戻ってくるから」

辺りを見回しても僕と洗濯かごと虫しかいない。
やっぱり虫がしゃべってる。
不思議そうに見つめる僕に
「この辺りは海風が月明りに光る『つきうみ時間』があるってしらないのかい?」
口を尖らせてぶぅ~んと飛んでいってしまった。


僕はまたひとり洗濯かごの中。
静まりかえる夜にざざーっと波のうちつける音。
そんな波音にトテトテと小さな足音が重なると
僕の前に一匹の黒猫と
無数の子猫たちがお行儀よく座っていた。
猫たちの背中からさっきの小さな人たちが
よっこいしょと降りてくる。

「この人間の子なんだけど」
小さな小さな綿帽子をかぶった小さな人がそう言うと
黒猫が体をすり付けながら、かごのまわりを一周する。
僕の頭も黒猫とともに、かごをぐるっと一周する。
黒猫がくびをかしげるから
僕もくびをかしげてみた。

ぱぱー この子かっていい?
ねぇー つれてかえっていい?

子猫たちが目をキラキラさせながら黒猫におねだりをしている。


あっ…僕もしてた。

だめって。。。いつも言われてた。
そして今は 洗濯かごの中にいる。

黒猫がなんていうか僕には考えなくても分かっちゃって
きゅっと胸がひっぱられた。



「お前、この子たちの兄弟になるか?」


顔を上げると、黒猫パパが優しく笑っていた。
目をぎゅんと細めて
しっぽをポンと跳ねながら
僕に そう言ってくれた。



その夜…
町の大通りには
空っぽの洗濯かごが
嬉しそうにのじゅくしていた。




暖かくてフワフワの兄弟たちの寝息に囲まれて
大きくふぅーと呼吸を刻む黒猫パパの胸に耳を当てる。

「名前はなんて呼べばいい?」

黒猫パパの優しい声

「黒猫パパが名前をつけて…」

ふっと海が明るくなってお月様がおやすみを囁くと
海風が甘くかおり
今夜の『つきうみ時間』が幕を閉じる。


「黒猫…パパ?」

顔を上げると黒猫パパがじっと僕を見つめ
そして頬に頭を擦り付ける。

「僕の名前は?」

片手をパパの背中にはわすと
黒猫パパは気持ちよさそうに背中を丸める。
ゆっーくりと目を閉じてしっぽをぱたんぱたんと振った後
僕の名前を囁いた。

「うん!いい名前だね」

黒猫パパが何度も何度も僕の名前を口にして
そしていつしか一緒に眠りについた。



今日から僕は【にゃ~お】

「元」捨て子だ。



(おわり)*********



ぼんやりさんの「ウミネコ」応援させていただきます:)

ぼんやりさんが始めていらっしゃる「ウミネコ」雑誌計画。
第一冊目 完成間近:):)ふふふ。
まだご覧になっていない方は是非ぼんやりさんの進捗状況を追ってみてください!!
第一冊目には皆さんもご存じの素敵なノーターさん達の名が沢山:)
私もネコ記事かきたぁーい!!ふふふ。


今回は「捨て猫」がもし「捨て子」だったら…
猫ちゃんでも子供でも、寂しい気持ちは一緒。
悲しい気持ちも一緒。
箱の中で眺める光景もきっと一緒。
そして手を差し伸べる暖かさも。
人の視線で捨て猫ちゃんを読んで、はっと何かに気づいてもらえたら嬉しいです:)


そして、ぼんやりさんの「ウミネコ」応援隊
「こびと部」が穂音さん、ねじりさん、Marmaladeさん達によって結成させました:)

よりまして、こちら「こびと部」応援も兼ねまして、
こびと部企画#こびと部公式ウミネコ応援
参加させていただきます:)
Marmaladeさんの上の記事にどうやって書いたらいいのか、
応援の仕方が載っています:)


●穂音さんの記事 

テーマソング!!もうですね、「ねこふんじゃった」なのですが…
ウミネコなんです音楽が!!
でも、鳥のウミネコではなくて、
「海を飛ぶ羽の生えた猫」のような!!
私これ聴いて、空飛ぶネコのお話を作りたいと思って…
でも、ぼんやりさんから依頼もらえたら描きたいなぁ~…なんて。ふふふ。
穂音さんの この記事のURLをくっつけて音楽付きの物語にしたら
最高!!と一人で夢を膨らませていたりしました。ふふふ。



●ねじりさんの記事

ねじりさんも第一冊目に名を連ねられた方の一人です:)
ねじりさん作「ねこのライオン」が収録されるようなのですが、
「ウミネコ」乗り遅れた私、まだねじりさんの作品読めていないのです。。。が、読みに参ります:)ふふふ。
ねじりさんの記事にぼんやりさんの記事が載っていて、
そこには しめじさんの第一冊目に載る作品も書かれているので
是非チェックしてみてください:)という私も…まだまだ追いかける記事が沢山ですが。。。ふふふ。
ヘッダーのアートはねじりさん作です:)
ねじりさん…絵をダウンロードしたのですが、ノートにつけようと思うと毎回エラーが出てしまい、勝手にCanvaでアートを張り付けさせてもらったのですが、
もしご都合が悪い時には言って下さい:)


それでは、

ぼんやりさん!!!海の上の大空に

はばたけ!!!



七田 苗子

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