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短編小説 

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【短編小説】

【短編小説】

 二月下旬のことだった。O 駅から路線バスに乗り込んで、ひとり座席に腰かけていた。バスは停車していた。次の発車まで後五分だった。時刻はちょうど二十一時を差し、これが最終の便だった。
冬も終わりを迎えていたが、窓硝子からはまだ微かに冬の匂いが感じられた。夜なのに街は明るく、ネオンの光が鬱陶しかった。私は街ゆく人の姿を目で追い、発車を待っていた。皆揃ってより強い光に向かうように、駅やビル、ロータリーで

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【短編小説】I'll be there

【短編小説】I'll be there

❄︎
「ちょっと、コンビニ行ってくるから。」

眠っている母に、私はそっと囁いた。
その癖、聞こえていないことを望んだが、母には寝ぼけた調子で「ふあぁい」と返事をされた。

少しだけ急いで靴を履くが、途中で鍵を持っていないことに気づいて肩を落とす。
仕方ない。小さく呟き、再び部屋へ戻る。

鍵を見つけ、部屋を出ると、母が台所の換気扇の下で煙草に火を付けていた。開けているんだか閉じているんだかわから

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