長良しの@純文学vtuber

純文学vtuberの長良しのと申します。 こちらのnoteでは、読んだ小説のメモとか書…

長良しの@純文学vtuber

純文学vtuberの長良しのと申します。 こちらのnoteでは、読んだ小説のメモとか書いています。

最近の記事

『遠くから来ました』白鳥一ー読書メモ#18

『遠くから来ました』白鳥一 群像2024年6月号 純文学度:65 キャラ:2 テーマ:1 コンセプト:5 展開:3 文体:4 なんだか不思議な読書体験したなーって感覚だった。 漫然と流れている日常でも、異郷の地の観測者を置くことで、何か特別なものになるみたいな。 うーん、このなんかそれっぽいこと言ってるようで何も言ってないような微妙な感想笑 でも、感覚的には日常アニメを見終わったときのような穏やかさなんだよな。 似たような読後感を覚えた小説だと、『三の隣は五号室』があるね。

    • 『バリ山行』松永K三蔵ー読書メモ#17

      『バリ山行』松永K三蔵 群像3月号 純文学度:45 キャラ:4 テーマ:5 コンセプト:2 展開:3 文体:1 「バリ山行」っていう、あえて正規のルートから外れて登山するっていう方法を教えられた主人公が、社会における「正規ルート」にも疑いを持つようになるという話。 主人公が敷かれたレールを走っているという事実に気づき、それに対してリアクションをする、っていう構成の物語はある意味鉄板なんだけど、その気づきに使うモチーフがバリ山行っていうのは新しいか。 バリ山行っていうモチーフ

      • 『旧岩淵水門』吉田修一ー読書メモ#16

        『旧岩淵水門』吉田修一 新潮2024年6月号 純文学度:65 キャラ:2 テーマ:4 コンセプト:5 展開:3 文体:1 いつものランニングコースに水死体を見つけたけれど、結局通報もせずいつも通りのコースを走って帰ったという話。 こうして小説内で起きた出来事だけ話すと、こうも味気のない文章になるのか。 実際、読んだ感覚だと、短編特有の切れ味の鋭さというか、「おぉ...」って思わず声が出るような、素敵な読後感だった。 この小説のテーマは、「普通の呪い」というか「普通がもたら

        • 『海岸通り』坂崎かおるー読書メモ#15

          『海岸通り』坂崎かおる 文學界2024年2月号 純文学度:75 キャラ:4 テーマ:5 コンセプト:1 展開:3 文体:2 長良がこの小説を読んで真っ先に感じた、というか語りたくなったのは「見下し」についてなんだよね。 他にも注目すべきところはいっぱいあるんだろうけど、まあ、思っちゃったことは仕方ないので、見下しについて考えたことを書こう。 まず前提として、長良は見下すっていう行為については善も悪もないと思ってて、何なら対等な関係って尊敬と見下しのバランスが取れてる状態であ

        『遠くから来ました』白鳥一ー読書メモ#18

          『ふたご理論』二瓶哲也ー読書メモ#14

          『ふたご理論』二瓶哲也 すばる2024年6月号 純文学度:50 キャラ:1 テーマ:4 コンセプト:3 展開:5 文体:2 脳梗塞で体の一部が麻痺してしまった元俳優が、グループホームの歯科衛生士に自分の撮影をお願いする、みたいなストーリー。 最初は何となく様子を撮っているだけだった撮影が、主人公たちの周りの人物の話を聞くうちに段々意味を持ち始め、最終的には1本の映画になるぐらいの物語が出来上がっていきます。 この、一見なんの関係もなさそうだった物事や人物たちが次々繋がる感じ

          『ふたご理論』二瓶哲也ー読書メモ#14

          『月ぬ走いや、馬ぬ走い』豊永浩平ー読書メモ#13

          『月ぬ走いや、馬ぬ走い』豊永浩平 群像2024年6月号 純文学度:70 キャラ:1 テーマ:2 コンセプト:3 展開:5 文体:4 うひぇー、めちゃくちゃ読み応えあったな。 最初、それぞれの語りに繋がりはないんかなって思ってたら、めっちゃ繋がる繋がる。 感覚的には、伊坂幸太郎の『アイネクライネナハトムジーク』とか、川上弘美の『大きな鳥にさらわれないように』みたいな。 連作短編ぽい味わい。 この小説全編に通底するテーマとしては、タイトルの「月ぬ走いや、馬ぬ走い」だろうね。

          『月ぬ走いや、馬ぬ走い』豊永浩平ー読書メモ#13

          『転の声』尾崎世界観ー読書メモ#12

          『転の声』尾崎世界観 文學界2024年6月号 純文学度:50 キャラ:2 テーマ:5 コンセプト:3 展開:4 文体:1 転売をモチーフにした、思考実験的小説。 科学ではないから、SFではないんだけど、なんとなくそれに近い楽しさがあった。 転売っていう社会問題(?)を扱ってるから、ソーシャルフィクションという意味でSFと言えるかもしれない。 SFっぽい設定として、この小説では2024年現在より、転売ヤーが世間に受容されている社会が舞台となっています。 この社会においては、転

          『転の声』尾崎世界観ー読書メモ#12

          『しんせかい』山下澄人ー読書メモ#11

          『しんせかい』山下澄人 新潮文庫 純文学度:85 キャラ:5 テーマ:1 コンセプト:2 展開:3 文体:4 こういう小説(と、あとがき)を読むと、解説とか解釈って野暮なのかな、とも思っちゃうんだけど、だからといって何も残さないのはもったいないので、残す。 話の筋としては、【谷】と呼ばれる俳優・脚本家の修行をする場所での生活を書く、って感じ。 とはいえ、この主人公は別に俳優になりたいわけでもなく、ただ今より遠い場所に行きたいからという理由で、この【谷】にやってきてます。 そ

          『しんせかい』山下澄人ー読書メモ#11

          『神さまショッピング』角田光代ー読書メモ#10

          『神さまショッピング』角田光代 新潮2024年6月号 純文学度:60 キャラ:3 テーマ:5 コンセプト:3 展開:2 文体:2 タイトルの神さまショッピングとは、許しを求めて、様々な神さまの元にお参りすること。 診療の結果に納得いかない人が、次々と医療機関を変えて受診することをドクターショッピングと言うらしく、それが元ネタになっている。 罪悪感というのは小説でもよく取り扱われるテーマで、それはすなわち、多くの人が人生で向き合うことになる問題ともいえる。 今多くの人って書

          『神さまショッピング』角田光代ー読書メモ#10

          『いなくなくならなくならないで』向坂くじらー読書メモ#9

          『いなくなくならなくならないで』向坂くじら 文藝2024年夏季号 純文学度:70 キャラ:4 テーマ:3 コンセプト:2 展開:5 文体:1 タイトルからして、アンビバレントな感情が溢れ出てる小説。 主人公の時子と、自殺したと思われていた高校時代の友人である朝日が再会するところから物語が始まって、そこから二人の関係はどうなるかを追っていく、みたいな話。 割と堂々と他人に頼れる朝日と、他人に頼られることで自分の存在理由を確かめがちな時子の、有り体にいえば共依存関係が軸になって

          『いなくなくならなくならないで』向坂くじらー読書メモ#9

          『ひとことひとし』いしいしんじー読書メモ#8

          『ひとことひとし』いしいしんじ 新潮2024年6月号 純文学度:60 キャラ:2 テーマ:5 コンセプト:4 展開:3 文体:1 パラレルワールドがモチーフのお話。 主人公ひとしは、小さい頃に双子の姉であるひとこを亡くしている。 しかし、ひとしは自分の部屋のPCでのみ、亡くなったはずのひとこと対話することができる。 モニター越しのひとこは、自分と同じ造りの部屋にいて、ひとこの世界では、ひとしが小さい頃に亡くなっている。 つまり、ひとこ目線では、小さい頃に亡くなったはずの双子

          『ひとことひとし』いしいしんじー読書メモ#8

          『ひなんくんれん』多和田葉子ー読書メモ#7

          『ひなんくんれん』多和田葉子 新潮2024年6月号 純文学度:65 キャラ:1 テーマ:2 コンセプト:4 展開:4 文体:4 なんとも不思議なお話で、ユーモアに溢れた小説。 学校の教室で避難訓練が行われていると見せかけて、実は本当に事件が起きているっぽいんだけど、どうにも要領が掴めないと思っていたら、やっぱ避難訓練だったっていう。 この小説に解釈を加えるのって、自分の見た夢に何らかの意味を見出そうとするような行為だと思うんだけど、なんかこじつけることできないかな笑 少な

          『ひなんくんれん』多和田葉子ー読書メモ#7

          『死刑待ち』山田詠美ー読書メモ#6

          『死刑待ち』山田詠美 新潮2024年6月号 純文学度:50 キャラ:4 テーマ:5 コンセプト:1 展開:2 文体:3 数字の意味については、以下の記事を参照ください。 初、山田詠美作品。 最初に抱いたシンプルな感想は、救いようがない話だなーってこと。 登場人物、誰も幸せになってない。 まあ、それは結果的にそうなったというだけで、そういうこともあるかって感じなんだけど。 次に考えたのが、女の愛。 単純な愛じゃなくて、女の愛ね。 男と女の差を無くすことに必死な世間ではあるけ

          『死刑待ち』山田詠美ー読書メモ#6

          『清心館小伝』奥泉光ー読書メモ#5

          『清心館小伝』奥泉光 新潮2024年6月号 純文学度:40 キャラ:2 テーマ:3 コンセプト:5 展開:3 文体:2 数字の意味については、以下の記事を参照ください。 江戸時代にありそうな剣術道場、清心館について書かれた小説。 ありそうな、ってとことは実際には存在しない道場ってことですね。 こういう100パーセントのホラ話を、実際に存在してそうな人名とか本の名前とかを出して、あたかも本当のことかのように語るっていう形式、長良は結構好きです。 何というか、純粋に虚構を楽しめ

          『清心館小伝』奥泉光ー読書メモ#5

          『夢の切れはし』金井美恵子ー読書メモ#4

          『夢の切れはし』金井美恵子 新潮2024年6月号 純文学度:85 キャラ:1 テーマ:4 コンセプト:3 展開:2 文体:5 ※数字の意味については、以下の記事を参照ください。 金井美恵子さん初小説。 久しぶりにむじー小説を読んだ。 内容は、何十年も前になくなった母が、30代の姿で歩いているのを目撃したのをきっかけに、当時の思い出を語る、みたいな感じ。 たぶん、50年以上前の日常的な描写をしていると思うんだけど、さらっと読むだけでは頭にしっかり入ってこなかった。 当時を知

          『夢の切れはし』金井美恵子ー読書メモ#4

          『革命前夜』小川哲ー読書メモ#3

          『革命前夜』小川哲 新潮2024年6月号 純文学度:30 キャラ:4 テーマ:3 コンセプト:5 展開:1 文体:2 数字の意味については、以下の記事を参照ください。 これ、もしかして小説だったのか? っていうのが、読了後直後の感想。 読んでいる途中は、エッセイにしてはおもしろい文章だなーさすが小説家。 みたいに思ってんだけど、特にエッセイとは書かれてないし、他に掲載されている小説と同じレイアウトだし、もしかして小説か!?と思って、電報をくれたという先生の名前を調べたら、案

          『革命前夜』小川哲ー読書メモ#3