『死刑待ち』山田詠美ー読書メモ#6

『死刑待ち』山田詠美 新潮2024年6月号
純文学度:50
キャラ:4
テーマ:5
コンセプト:1
展開:2
文体:3
数字の意味については、以下の記事を参照ください。

初、山田詠美作品。
最初に抱いたシンプルな感想は、救いようがない話だなーってこと。
登場人物、誰も幸せになってない。
まあ、それは結果的にそうなったというだけで、そういうこともあるかって感じなんだけど。

次に考えたのが、女の愛。
単純な愛じゃなくて、女の愛ね。
男と女の差を無くすことに必死な世間ではあるけど、長良はやっぱり差はあると思う派だし、そう考えた方が色々考察は捗るから、あえてこういう言い方をするね。
女性の愛って男の愛と比べると、何もかもが大きいっていうのが特徴だと思う。
この特徴のポジティブな面が発揮されると、慈しみ深い愛とか全てを包み込むような愛、みたいな世の男性が追い求める愛っぽくなる。
逆にネガティブな面が発揮された場合っていうのが、今回の小説のような場面で、最悪の場合、愛の過剰摂取によって中毒死してしまう。
今語ってるのって愛の話だから、本来は同性間に適応されてもおかしくないんだけど、女性の大きすぎる愛を受けてどうこうなるのって、男のパターンが多い気がする。
同性が同性に抱く愛は、どっちかってと友愛的な?あんまり重くならない気がする。
ここで、同性とか異性とかを気にしだしたのは、家族の中における愛を考えたかったからですね。
家族の中で愛が歪んで問題になるのって、異性間での事が多い気がする。
この辺のパターンまとめてみるとおもしろそうですね。

今回の小説でも、二種類の女から男への愛が観測されます。
1つは言わずもがな、母から息子への愛。
もう1つは妹から兄への愛です。

1つ目の母から息子の愛は、今回の小説のメインテーマになります。
主人公のお母さんから主人公の兄への愛は、重いなんてもんじゃなくて、それこそ死へと追い込みます。
この母から息子への重すぎる愛って、他の小説でもよく見られるパターンですね。
長良がパッと思いついたのは、『殺戮にいたる病』。
あれは、どちらかというと舞台装置としての側面が強いですが、むしろ舞台装置として使えるほどありふれた関係と言うこともできます。
これ、父から娘への過剰な愛になると性愛っぽいわかりやすい気持ち悪さになるのに、母から息子への過剰な愛となると得体の知れない気持ち悪さになるのがおもしろいですね。

2つ目の妹から兄への愛は、主人公から兄への愛のことです。
実は、母から息子への愛に負けず劣らず、主人公の兄に対する愛は大きいものと思われます。
なぜかというと、主人公って今生きている息子よりも40年も前に死んだ兄の方を大事に思ってるからです。
悲しいことですが、どれだけ大事に思っていた人であっても、40年もの歳月があれば愛情とか思い出は風化してしまいます。
それが、当時と同じ熱量で今も保存されているというのは、結構すごいというか、重たい愛といっても過言ではないでしょう。
その代償が息子の放任です。
息子を普通の母親程度に愛してしまったら、何十年も前に亡くなった兄への愛を保存することは不可能ですからね。

そう考えると、この小説のテーマは「愛が人を殺す」、もしくはもう少しタイトルに寄せると「愛こそが死刑を執行する」とかになってくんのかな。
愛と死の関係を語った本って色々ありそうなんで、その辺を研究するとおもしろそうですね。

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