『月ぬ走いや、馬ぬ走い』豊永浩平ー読書メモ#13

『月ぬ走いや、馬ぬ走い』豊永浩平 群像2024年6月号
純文学度:70
キャラ:1
テーマ:2
コンセプト:3
展開:5
文体:4

うひぇー、めちゃくちゃ読み応えあったな。
最初、それぞれの語りに繋がりはないんかなって思ってたら、めっちゃ繋がる繋がる。
感覚的には、伊坂幸太郎の『アイネクライネナハトムジーク』とか、川上弘美の『大きな鳥にさらわれないように』みたいな。
連作短編ぽい味わい。

この小説全編に通底するテーマとしては、タイトルの「月ぬ走いや、馬ぬ走い」だろうね。
黄金言葉(くがにことば)っていう沖縄のことわざ?みたいな表現で、「月日は馬のように早く過ぎる」みたいな意味。
この言葉は、戒めのために使われることもあれば、希望のために使われることもある。
本作では、希望の意味で使われることが多いかな。
辛いことがあっても、月日は流れて、その時の苦悩はあっという間になくなる、的な。
物語全編を通してもそうだし、各語りについても、この言葉と絡めて論じることはできると思う。

この小説は色んなキャラクターが各1回、自分視点で色んなシーンを語ってるんだけど、良くも悪くも浮いてるのが8人目の語り手です。
というのも、この語りに出てくる人物たちだけ、他の語りの人物と繋がりが見えないんだよね。
もしかしたら長良が見落としてるだけかもしれないけど、他の語り同士の繋がりほど、わかりやすくは書かれていない。
ここの語りについては、まだ自分の中で上手く落とし込めていないんだけど、ひとつ思ったことがあるって、それは、『限りなく透明に近いブルー』の世界観ぽいなってこと。
アメリカ人に体を売るボクって構図とか、ドラッグまみれの部屋とか、細かいとこだとパイナップルとか。
オマージュ感はあるんだけど、そこから何か導き出せるレベルまで考察は進んでないので、アイデアレベルですね。

後メモしておきたいのは、作中に出てくるベンヤミンの歴史観。
たまには引用というものを使ってみるか。

歴史をエピソードの繋がりとしてみるのではなく、ひとつひとつの破壊された瓦礫の積み重なった、できあいのものとしてみること。

群像2024年6月号 P.42

これですね。
この小説はこの哲学に則って記述されていると思われます。
だからこそ、時代、人物がてんでバラバラに配置されてても問題ないし、どことの繋がりもなさそうな語りが間に入るのも許される。
そして、長良がこの哲学に惹かれるのは、長良が小説を解釈するときの方法と親和性があるから。
こんなこと言ったら方々から怒られるかもしんないけど、歴史も小説もこのように解釈した方が楽しいんよね。
瓦礫で自分のお城を作る楽しさというか。
なので、恐らくベンヤミンが伝えたかった高尚な目的とは異なるのでしょうが、特にこの小説の解釈を深めたいときなんかには、ベンヤミンの思想について学びたいと思いました。

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