『ふたご理論』二瓶哲也ー読書メモ#14

『ふたご理論』二瓶哲也 すばる2024年6月号
純文学度:50
キャラ:1
テーマ:4
コンセプト:3
展開:5
文体:2

脳梗塞で体の一部が麻痺してしまった元俳優が、グループホームの歯科衛生士に自分の撮影をお願いする、みたいなストーリー。
最初は何となく様子を撮っているだけだった撮影が、主人公たちの周りの人物の話を聞くうちに段々意味を持ち始め、最終的には1本の映画になるぐらいの物語が出来上がっていきます。
この、一見なんの関係もなさそうだった物事や人物たちが次々繋がる感じは、読んでいてシンプルに楽しいですね。
長良が最近覚えた言葉でいうと、リーダビリティが高い。

この小説のテーマだと長良が思っているのが、因果関係の時間的逆転。
普通、因果関係を考えるときって、過去→現在→未来の順番に因果が繋がってると考えますよね。
つまり、過去の様々な出来事が原因となって、今という結果があり、今していることが原因となって、未来という結果が出来上がる、といった具合に。
でも、因果関係って必ずしも時間的流れと一緒であるとは限らないよね、っていうのが、上に書いた因果関係の時間的逆転の意味。
未来のことが原因で現在という結果を生み、さらには現在が原因となって、過去が結果として表出するってわけですね。
で、この未来が原因となって現在という結果になるという流れを作ってるのが、この小説のタイトルにある「ふたご理論」という構図。
「ふたご理論」というのは、何かを選択するときに、自分の生き別れたふたごならどうするかを基準に考える、というものです。
これは、歯科衛生士の主人公が見たドキュメンタリー番組に由来します。
内容は、生き別れたふたごが再会した時に、ありとあらゆる選択が一致していた、というもの。
この番組を見てから、主人公は何か大事な選択をする時に、自分のふたごだったらどうするかなーと考えるようになります。
つまり、将来ふたごと会って答え合わせをするかもしれないという未来が現在の行動を決めている、という構図なわけです。
また、もう一人の主人公がわかりやすく、脳梗塞で入院したことをきっかけに、死から逆算して今できることを考える、という思考になっているので、これも未来から現在に因果関係が流れているひとつの例とすることができます。

次に、現在が原因で過去が結果となる因果関係ですね。
これはいわゆる、過去そのものは変わらないけど、過去が持つ意味は変わるってやつです。
今回の小説で言うと、撮影を始めたことで、ほとんど記憶になかった宮城でのことが、自分の中で重要な意味を持つようになる、みたいな。
そもそも、私たち人間が過去という概念を必要とするときって、過去に起きた事実そのものじゃなくて、過去に起きた事実を記述する言葉(=意味づけ)を求めているので、過去に対する意味を変えるというのは、新しい過去を作り出してるといっても過言じゃないんだよね。

んでまあ、現在の撮影という行為は、ふたご理論の実践の結果として起きているんで、この小説で書かれている物語というのは、未来から過去に向けて因果が流れていると、結論づけることができるというわけだ。
単純に、この小説で提唱されている「ふたご理論」っていう概念がおもしろくて、いろいろ応用がききそうだなと思いました。

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