『しんせかい』山下澄人ー読書メモ#11

『しんせかい』山下澄人 新潮文庫
純文学度:85
キャラ:5
テーマ:1
コンセプト:2
展開:3
文体:4

こういう小説(と、あとがき)を読むと、解説とか解釈って野暮なのかな、とも思っちゃうんだけど、だからといって何も残さないのはもったいないので、残す。
話の筋としては、【谷】と呼ばれる俳優・脚本家の修行をする場所での生活を書く、って感じ。
とはいえ、この主人公は別に俳優になりたいわけでもなく、ただ今より遠い場所に行きたいからという理由で、この【谷】にやってきてます。
そういえば、この遠くに行きたいという願望は、『しんせかい』と同じ芥川賞受賞作である『ブラックボックス』の主人公も持ってましたね。
ただ、あちらは結構目的的というか、意志を持って遠くに行こうとしているのに対し、こちらは、本当に理由もなく遠くに行きたがってるという違いはありそうです。
遠くに行きたい欲求は、長良も感じることがあるので、このテーマを勉強するのもおもしろそう。

この小説で一番特徴的なのは、なんといっても主人公のキャラクターです。
あまり自分の主義主張を持たず、淡々と現実を生きてる感じの主人公で、純文学では結構出てくるタイプの主人公。
長良は勝手に、傍観系主人公と呼んでます。
『限りなく透明に近いブルー』とか『送り火』とか『ニムロッド』とかの主人公がそうですね。
『しんせかい』の主人公に関しては、傍観しすぎて、自分が死んだかどうかすら忘れてしまいます。
それ以外にも、普通の人なら重要視しそうなことを結構平気で忘れるのがおもしろい。
そうかと思えば、他の人なら全く気にしないことをずっと気にしていたりと、どこかチグハグな感じです。
というか、他の人ならスルーできる細かいことが気になって仕方ないから、他の人が重要視する大事なことを忘れてしまうんだろうな、といった印象。
何はともあれ、この小説をよりおもしろく読むためには、主人公の考察、解釈を深めていくのがいい気がしています。

後、何も関係ないかもしれないけど、見つけたことがあるのでメモ。
この小説、主人公は「ヤマシタスミト」と言って、作者の名前がカタカナで表記されているんですね。
特に、【谷】のメンバーからは、「スミト」と下の名前で呼ばれます。
これは、『限りなく透明に近いブルー』の主人公が、カタカナで「リュウ」なのと同じです。
同じ傍観系主人公で、同じようなネーミングをしているので、長良的には何か共通する精神がありそうだなと考えたくなるのですが、特にいい案は浮かんでないです。
もう1パターンぐらい、実証例があれば、本格的に考察を深めていってもいいかもしれませんね。

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