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俳句、短詩

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自分の俳句作品や、鑑賞、思いなど気ままにまとめています。また、短歌などの短詩形作品などについても触れています。
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#句集

十七音の包容力と瑞々しさ:黒岩徳将句集『渦』

十七音の包容力と瑞々しさ:黒岩徳将句集『渦』

煌めきながら切ない、この十七音たちは、この感覚は何なのだろう。
本句集を読み終えての第一印象はそんな感じだった。

青島麦酒喧嘩しながら皿仕舞ふ
強きハグ強く返すや海苔に飯

たとえば、上記の句が表す言葉の組み合わせと映像が与えるインパクト。
そして、季語を重んじながら同時にオリジナルの視点によって作品に立体感を与える季語の独自の使い方。

作中の言葉は静か、巧みな技術。でも、完成した十七音はスマ

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まどやかな祝福:阪西敦子句集『金魚』

まどやかな祝福:阪西敦子句集『金魚』

金魚揺れべつの金魚の現れし

華やかに鰭を動かし、水を遊ぶように泳ぐ金魚。
複数あるいは品種の違う金魚が同じ水の中をすれ違ったり、並行したりして泳ぐ様子は静かながら、どこか不思議な雰囲気を漂わせており、独特の存在感を放つ。
それはまた、本句集の次から次へと繰り広げられる美しい十七音が織りなす景色にも似ている。

目次・あとがき他を含め総ページ数・288ページの大冊。
それもそのはず、小学生低学年の

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明日のある日常:折島光江句集『助手席の犬』

明日のある日常:折島光江句集『助手席の犬』

「できるだけ普段着の言葉で、普段着の景色を季語とともに俳句として詠みたい」
自分の心と身体の感覚を信頼して、暮らしを見つめながら、ふいにやってきた言葉を受け止めて17音として紡ぎたい。
いつもそう思っている(実際にはなかなか難しいけど)。

今回、私と同じ「炎環」同人である折島光江さんが初句集を上梓された。
「光江さんもきっと私と似た気持ちで、そして同じような方向を大事にして俳句を詠んでいるのでは

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軽やかに、カラフルに:箱森裕美句集『鳥と刺繍』

軽やかに、カラフルに:箱森裕美句集『鳥と刺繍』

雷鳥や刺繍の花のその軽さ

句集タイトルのイメージにもっとも近い作品を挙げるとすれば、上記だろうか。
雷鳥のまるまるとした愛嬌ある姿。
季節ごとに羽の色が違うという雷鳥の特性に「刺繍」という措辞が重なる。
花の刺繍は実際の植物ではない。だからこそその「軽さ」に作者が感じたであろう表現としてのリアリティと発見を読者は我が物として共有できるのだろう。

あるいはこんな刺繍の句もある。

ジャンパーに花

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愛とかなしみの背理法:土井探花句集『地球酔』

愛とかなしみの背理法:土井探花句集『地球酔』

こんな日は仲間はづれの雉が好き

この句の中に自分を見る人、あるいは共感する人は、「ここに自分がいていいのか」と思うことが多いタイプではないだろうか。

どんなに大人になっても、一日を呼吸しているだけで難しい日はある。
仕事やお金があるということと関係なしに、絶え間ない隙間風のような精神の飢え。

上記に書いた内容は、言うまでもなく私が普段感じていることである。
だから、おそらく今でもなにがしかの

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独自の詩の森の世界へ:しなだしん句集『魚の栖む森』

独自の詩の森の世界へ:しなだしん句集『魚の栖む森』

死角の無い句集である。
どこから読んでも、どの句を読んでも面白い。
溜息が出るほどだ。

全11章より感銘句を各章より1句ずつ。
喝采のやうな風鈴市をゆく
騙し絵のやうな嫗が毛糸編む
わが影へ膝折りたたむ汐干狩
穀象の眼いたいけとも見ゆる
鶴渡るふつくら赤き燐寸の火
軍港を白く濡らして日雷
サーファーの鼠小僧のやうに立つ
梟の身に軸のありこちら向く
貌つつこんで花虻の尻の縞
夜に満ちて葬儀のやうな

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句集の鑑賞文を寄稿しました【BLOG俳句新空間・第214号】

句集の鑑賞文を寄稿しました【BLOG俳句新空間・第214号】

BLOG俳句新空間・第214号での企画、【渡部有紀子句集『山羊の乳』を読みたい】に鑑賞文(下記記事)を寄稿いたしました。

ちなみに、同句集についてはnoteでも鑑賞文を掲載しております↓

noteをお読みになった有紀子さんよりご依頼を頂き、今回の寄稿となりました。

機会を頂き、ありがとうございました😊

両記事、ご高覧願えれば幸いです!

月を仰ぐことを忘れない人:杉山久子句集『栞』

月を仰ぐことを忘れない人:杉山久子句集『栞』

句会でも思うけど、俳句作品がまとまって掲載された句集を読むたびに思うことがある。

「どうして同じ17音なのに、作家によって言葉や型の表情が全然違うのだろう」

「作者が違うのだから当たり前だ」と言われればその通りなのだけれども、それでもたった17音しかなくて、季語を使って、ある程度同じ条件の縛りの中で詠んでいるのに。
実際に完成した作品を目にすると、似ているようで全然違う17音がそこここに屹立し

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やりきれない存在と今であっても:福本啓介句集『保健室登校』

やりきれない存在と今であっても:福本啓介句集『保健室登校』

いろいろと句集をお贈りいただいているのに、全然触れることができず申し訳ない思いばかり。大変遅くなりましたが、少しずつnoteで感想を書かせていただきたいと思います。よろしくお願いいたします。

まず、感銘句より。

桜しべ降る中夕方登校す
十代といふ闇にゐて涼しさよ
目見開き内なる冬を見つめをり
小春日の昨日に我を置いて来し
さくら咲き記憶喪失終はりけり
親ガチャにハズれたと君汗拭ふ
四月来る長欠

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客観的視点が生む言葉の距離と味わい:岡田由季句集『中くらゐの町』

客観的視点が生む言葉の距離と味わい:岡田由季句集『中くらゐの町』

中くらゐの町の大きな秋祭

街と町。同じ「まち」でもこの二つは違うと思う。
大雑把にいうと、街は都会のイメージ、町は都会以外のイメージ。
表題句の町は「中くらゐ」とある。
いろいろな意味で全体的に中位なんだろう、規模や人口も交通も利便性も。
もしかすると、普段は取り立てて個性が無い場所なのかもしれない。
その町が秋、大きな祭を開催する。年に一度のハレの行事。
中位の町がにわかに大きく見えるような、

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俳句のみが発揮しうる魅力:現代俳句文庫88『金子敦句集』

俳句のみが発揮しうる魅力:現代俳句文庫88『金子敦句集』

いつもウキウキ、ルンルン♫で俳句を作れるなんてことは先ずなくて、大体句会や締切など「必要に迫られて」ようやく取り組むことが多い。
でも、それだといざというときに季語やエピソードを掴む瞬発力を養うことができないから、準備体操的な感覚で一日一句という即吟をやっている。

だが上記とは違い、心が干上がってしまったり仕事等で疲れてしまって「俳句を作れない……」と追い詰められるときがたまにある。

作らなく

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感謝の証:渡部有紀子句集『山羊の乳』

感謝の証:渡部有紀子句集『山羊の乳』

あれは、所属する俳句結社「炎環」の記念大会。
当日、お祝いの為に出席してくださった大勢の来賓の中に、本句集の著者・渡部有紀子さんの師・有馬朗人氏の姿があった。
私の師・石寒太と仲良く言葉を交わされていた際の笑顔と、来賓の挨拶の際の明るく温かい声が印象的だった。

ちなみに、俳句を始めてようやく一年くらいだった家人も大会に初めて出席したのだが、「研究者・有馬朗人とその業績」についてはよく知っていたも

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第一句集『揮発』、紹介いただきました

第一句集『揮発』、紹介いただきました

先般、簡易版として限定作成した柏柳明子・第一句集『揮発』。
早速、ご購入のお申込みをいただいております☆
どうもありがとうございます😊

嬉しいことに今回、下記サイトでご紹介いただきました。

執筆者は俳句結社「ランブル」同人・畝川晶子さん。
第一句集のみならず第二句集『柔き棘』もお読みいただいているそうで、
二つの句集から感銘句をご紹介いただいています。

わけても、第一句集『揮発』から引いて

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【販売のお知らせ】第一句集『揮発』(簡易冊子版・20部限定)

【販売のお知らせ】第一句集『揮発』(簡易冊子版・20部限定)

2015年、現代俳句協会より刊行した
柏柳明子・第一句集『揮発(きはつ)』。

現在は在庫無しの本書。
しかし今でもたまに「読みたい!」というリクエストいただくこと、私の手元にも紙の保存版がほしかったため、今回、簡易冊子として再作成しました☆

今回、下記要領で販売致します。
なお簡易版は20部限定で作成したため、無くなり次第、販売終了とさせて頂きます。

この機会に一人でも多くの方にご一読願えれ

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