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ゆきづまり感を克服して愉しく生きる方法


この記事で述べたことですが、いまの日本では自分の人生は自分で決める、すべてのひとが自分らしく生きることを求められるようになりました。しかし現実は、誰もが自分らしく生きられるわけではありません。むしろ自分らしく生きることが求められていることはわかっているのだけど、そうできない自分に葛藤を感じることも多いのではないでしょうか。

この記事では、文字通り絶望感に沈んでいたこたつ記事ライターのボクが、どのようにして絶望感を克服することができたのか、そして愉しくライティングに取り組むことができるようになったのか、その小さな経験をお伝えしたいと思います。

失業からくる絶望死

橘玲は誰もが知能と努力によって成功できるようになったことで、社会は上級国民と下級国民に分断されたと喝破しました。[1]それでは上級国民を成功モデルと示されながら上級国民になれなければ、〈まさかの葛藤〉に沈むしかないのでしょうか。ゆきづまり感や絶望感を受け入れるしかないのでしょうか。

小中学生の不登校児は30万人に達したといいます。日本の若者の自殺率はG7ではナンバーワンです。この問題の歪はいたるところにあらわれています。

橘玲は近年、ひとを絶望させるのは〈貧困〉ではなく〈失業〉だというデータが積みあがっていることを指摘しました。[2]世界中で平均寿命が延びているにもかかわらず、アメリカの中高年の白人労働階級だけは、2000年以降、平均寿命が短くなっているというのです。

この原因を調べた経済学者は、その原因が〈アルコール、ドラッグ、自殺〉だとして、これを〈絶望死〉と名付けました。高卒や高校中退という彼ら/彼女たちは、仕事を失い、社会から見捨てられ、屈辱のなかで自暴自棄になって死んでいくのです。

こたつ記事ライターのボクにとって、この〈失業からくる絶望死〉はまったく他人事ではありません。死のうとは決して思いませんでしたが、どうしようもないゆきづまり感というか絶望感に悩まされていたのです。

ボクが絶望感に陥ったメカニズム

サラスバシー教授は、エフェクチュエーションの対概念にコーゼーションを置きました。エフェクチュエーションはシンプルな原則のあつまりなのに、その理解を難しくしているのは、カタカナが多すぎたり巧妙すぎる比喩が伝わらないことがあるのではないでしょうか。

だからここではコーゼーションを〈目的や目標、夢を設定して、その達成に向けて一直線に進む活動〉と仮定義したいと思います。このコーゼーションにおいては〈成長=正義〉であり〈成功=正義〉です。競争して勝つことが前提です。コーゼーションの仕組み自体が上級国民と下級国民の分断を招きます。〈まさかの葛藤〉を呼び込むのです。

ボクはフリーランスライターとして独立する前は、IT業界で30年以上を過ごしました。技術動向リサーチをしたりレポートを書いたり〈書く仕事〉は好きでしたが、かといって本業としてライティングに取り組んだ経験はありません。もちろんこの業界に知り合いがいたわけでもありません。

だから書籍やYouTubeで〈3か月で5万円のロードマップ〉や〈6か月で30万円のロードマップ〉を学び、ノートに計画表を書いて、こたつ記事ライターとしてクラウドソーシングでの受注を始めました。つまり〈3か月で5万円の収入を達成する、6か月で30万円の収入を達成する目標〉を設定して始めたのです。

クラウドソーシングでデビューした多くのライターが脱落していくといいます。そうでなくてもわずかな収入で継続するライターのいかに多いことか。例にもれずボクも「あれ?」と思いながら、いつになっても伸びる気配のない収入にゆきづまっていました。

経験者ならご理解いただけると思うのですが、どれだけ応募しても採用されない苦しさ。わずかな額でテストライティングを受注しても、テストライティングに合格しないあせり。

今回のテストライティングは全力を尽くしたし、きっと合格するに違いない。そのように考え成功した場面を描いて高揚した分だけ、不合格になったときの〈まさかの葛藤〉。〈初心者歓迎案件〉はほんとは初心者歓迎ではなくて、安い文字単価で質の高いライターを確保するための募集であることも学びました。

いやぁ、いくら応募しても採用されないし、たまのテストライティングにも採用されない毎日って、ほんと、地味に心が削られていくんですよね。

なぜ貧困よりも失業が人を絶望に陥れるのでしょうか。それは失業というかたちで、その人の世間との〈つながり〉が断絶するからです。ボクはなぜ絶望感を感じたのでしょうか。それはテストライティングに合格してクライアントに貢献したい〈つながり〉が拒否されたからです。存在が否定されたように感じて〈まさかの葛藤〉に陥ったからです。

世界は関係でできている

図表7.1 わたしたちのつながりの世界

これから何回かにわけて、ボクが絶望感から抜け出した方法を書いていきますが、そのもっとも基本的な方法は〈世界の見方を変える〉ことです。

エフェクチュエーションの体系は、コーゼーションと真逆の論理でできあがっています。その真逆の論理のひとつは〈世界は関係でできている〉と考えることです。

図表7.1は、橘玲が描く〈つながり〉の世界です。この図表ではボクたちの〈つながり〉は大きく〈愛情空間〉〈友情空間〉〈貨幣空間〉の三層に分かれています。愛情空間は親子や配偶者、パートナーとの親密な関係、友情空間は「親友」を核として最大で150人くらいの「知り合い」の世界、貨幣空間はその外側に広がる、金銭のやり取りだけを介してつながる漠然とした世界です。

ボクは〈友情空間〉を拡張して〈親密空間〉としています。

コーゼーションは〈貨幣空間〉の論理で動きます。世界の関係を〈わたし - あなた(たとえばライター - 依頼主)〉と考えます。ボクの存在価値は、貨幣空間での交換契約が成立したときに出現します。契約が成立するまで、ボクはどこにも存在していません。

ボクにとっての貨幣空間は、クラウドソーシング市場です。この貨幣空間は初心者ライターにとって熾烈なレッドオーシャンです。厳しい競争市場です。

しかしエフェクチュエーションは〈わたしたち〉の論理にもとづいています。エフェクチュエーションにおけるボクの存在とは〈誰かとの関係の濃さ〉です。

ボクがいまだにライターを続けていることにはいくつか理由がありますが、そのひとつはクラウドソーシングの貨幣空間の中に、ひとりだけ親密空間にシフトしてくださったクライアントがいたからです。高く評価してくださって継続執筆の依頼をいただけたからです。

継続執筆をいただけた時のなにかが大きく開けたような、あの時の解放感をボクは忘れることができません。でもこの経験は再現可能なものではありません。偶然の出会いの結果です。その偶然がなかったら、ボクはあきらめていたかもしれません。

ただボクがいいたいことは、コーゼーションの世界では、ぼくの存在は競争して勝つことによってはじめて証明されるということです。上級国民として契約をいただいてはじめて、ボクの存在価値が証明されるということです。

しかしエフェクチュエーションの目的は、勝って契約をいただくことではありません。そうではなく問いが、〈どのようにしたら親密空間につながりを築くことができるだろうか〉に変わるということです。

その方法については後の回で述べますが、3か月で月5万円の目標に達しなかったからといって、まさかの葛藤に陥る必要はないということです。

たとえば〈6か月で30万円のロードマップ〉の提唱者は、ライターコミュニティの親密空間から活動が始まっています。はじめから案件のお声がけがあったのです。その〈つながり〉の中でライターとしてのスキルを磨きながら〈親密空間〉を拡張し、誰かとの関係の濃さを深めながら結果としての〈6か月で30万円〉なのです。

そういえば誰かがX(twitter)でつぶやいていました。YouTubeで集客して初心者ライター向けのオンラインサロンを開催している人がいる。そのオンラインサロンは実に巧妙だというのですね。なぜかといえばメンバーに担当してもらう案件は低単価なのだけど、相互にほめあったりレビューしあったり。文字単価が安くても満足感が半端ないといいます。

人が絶望に陥るとは、未来への想像力が枯渇することだと思うのです。でも同じ志向をもった人との〈つながり〉は、その言葉の交わしあいの中でさまざまな想像力を醸成していけるのでしょう。

ゆきづまりにゆらぎをもたらすエフェクチュエーション

世界は関係でできているのです。ボクたちの存在とは、関係の濃さなのです。それでは〈つながりの世界〉の中で、ボクたちはどのように歩みをすすめればよいのでしょうか。

こたつ記事ライターのエフェクチュエーション。次回でもまたお会いできれば幸いです。

出所

[1]『無理ゲー社会』橘玲著、小学館新書2021
[2]『裏道を行け ディストピア世界をHACKする』橘玲著、講談社現代新書2021

連載記事一覧

[連載04]押しの経済時代のエフェクチュエーション
[連載05]生成AIは神か悪魔か?芥川賞作家の神回答がツボにはまった件
[連載06]劣等感の真実
[連載07]こたつ記事ライターのエフェクチュエーション① - 絶望感を克服して愉しく生きる方法
[連載08]こたつ記事ライターのエフェクチュエーション?- 収入の不安定さをコントロールする
[連載09]こたつ記事ライターのエフェクチュエーション3:目的や目標ではなくて手段からはじめた方が幸福になれる理由
[連載10]幸せの青い鳥の原則
[連載11]noteとクラウドソーシング、こたつ記事ライターがめざすべきなのはどっち?
[連載12]noteがブルーオーシャンになる理由
[連載13]新しい記事を書くってなんでこんなに愉しいのだろうか?
[連載14]ライターが「やりがい搾取」を感じるとき


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