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押しの経済時代のエフェクチュエーション

ゆきづまったらエフェクチュエーション

連載第4回の目的は、第3回までの内容をコンパクトにまとめることです。アニメ版「押しの子」のシーズン2が始まったからという訳ではありませんが、タイトルを題して『押しの経済時代のエフェクチュエーション』としました。

第3回までは日本の『デジタル敗戦問題』を題材にして、いま、日本で暮らし仕事をしているボクたちが、どこかしら閉塞状況に行き詰まっているのはなぜかについて、その理由を探りました。その結果にもとづいて、この状況にゆらぎをもたらすことができるとボクが考える〈新しい方法としてのエフェクチュエーション〉を紹介させていただいたのです。

個人にも組織にも生き方を考えるヒントになるエフェクチュエーション。もしなにかゆきづまりを感じていらっしゃる方がいらっしゃったら、一度、お読みいただければ幸いです。

押しの経済時代のエフェクチュエーション

図表4.1 3つのビジネスモデルの類型
図表4.2 3つのビジネスモデルの特徴

ビジネスモデルについては主に連載第1/2回で検討しました。時代の変化とともに、ビジネスモデルの背景にある社会の仕組みやボクたちの価値観は大きく変わります。この記事ではIT・DXの文脈におけるビジネスモデルとその背景にある世界観を、大きく3つに分類して考えます。

年代

3つのビジネスモデルをそれぞれ〈昭和型・平成型・令和型〉とネーミングしました。なぜかといえば各ビジネスモデルの年代と元号の年代が、不思議とぴったりマッチングしたからです。ほんとに不思議なことだと思っています。

昭和型ビジネスモデル

文化的意味
第2回で検討したとおり〈成長は正義〉の時代です。文化的には松下幸之助の〈水道哲学〉が象徴的だと思っています。松下幸之助は松下電器(現パナソニック)の使命を、「水道のように豊富で安価な商品を提供すること」としたのです。

経済的価値
自動車産業や家電産業を代表とする日本の製造業が、高機能・高品質で世界市場を席けんした時代です。ITシステムに求められる役割も、会計計算を自動化するといった効率化(コストカット)が求められました。

DX
本稿におけるDXとは〈ITを使って新しいビジネスモデルを作り出すことにより新しい市場や収益を生み出す活動〉のことです。1990年代半ばに米国を起点として進化が始まったDXですから、当然、この時代は〈ビフォアーDX〉です。1989年に絶頂を迎えた日本経済を支えたのが〈日本型SIビジネスモデル〉でした。

平成型ビジネスモデル

文化的意味
米国経済が猛威をふるう一方で、グローバリズムの波が日本にも押し寄せた時代です。かたや日本経済は失われた30年の長く苦しいトンネルを抜けきれず、閉塞感にあふれる状況を脱することができません。

経済的価値
主に第2回で検討しました。〈CX(カスタマーエクスペリエンス):顧客経験価値〉に経済的価値の重心がうつった時代です。しかし日本企業の多くが未だに〈製品至上主義〉から脱することができないことは、〈デジタル敗戦問題〉のもうひとつの側面を象徴しています。機会があれば記事を書きたいと思います。

DX
GAFAMのグローバリズムが世界を席けんした時代です。この時代はしばらく続くと考える方がよさそうです。もはやGAFAMが築いた牙城に挑むのは無理ゲーの問題以前に、多くの日本企業のビジネスモデルが〈ビフォアーDX〉のままでいることが深刻な問題を生み出しています。

令和型ビジネスモデル

文化的意味
この時代、来年のことをいえば鬼が笑いますが、ボクは理由があってGAFAM全盛時代が続きそうだと思っています。しかしその一方で、新しい文化的意味が生まれてきたとも考えています。恐竜が世界を席けんしている時代に、ねずみが生まれて共生しているイメージです。

それはなぜかといえば若い世代から始まって、SNSを代表とするITが影響をもたらした価値観が、ボクたちの行動を大きく変えてきたと思うからです。

いきなりわたしごとで恐縮ですが、ボクはユニクロとワークマンの大ファンです。着ているものからバッグから靴まで、すべてユニクロかワークマンです。特に2019年(令和元年!)に第1号店が誕生した〈ワークマンプラス〉の開業以来、ボクはワークマンの〈押し〉です。

いつでもどこでも商品を注文でき、しかも安いというCXを求めるのであればアマゾンが満たしてくれます。でもボクたちはそれだけでは足らないのです。ボクたちは、アマゾンが満たしてくれない何かに向かうのです。それが何に向かうのかは実に多種多様ですが、たまたまそんなニッチでフェチな渇望がリアルな場やSNSのうえで出会った時、つながり(コミュニティ
)が生まれ、〈フェチの経済〉というか〈押しの経済〉が生まれます。

ちなみにボクはワークマン以外にも、いろんな〈押し〉を持ってます。きっと誰もがそうですよね。

経済的価値
ワークマンは実に興味深い企業です。個人向けの作業服で圧倒的な独占市場を確立したワークマンは、新しいビジネスモデル展開により4000億円の空白市場を発掘したと評価されています。

ボクはそんなワークマンの活動が、エフェクチュエーションの実践事例にしかみえないのです。たとえばマーケティングひとつをとっても、SNSを活用した巧妙な〈アンバサダーマーケティング〉を推進しています。

DX
さらにワークマンは独自の〈DX=Excel経営〉を実現しました。ワークマンは〈エフェクチュエーションとDXの玉手箱〉です。今後、何回か取り上げる予定です。

エフェクチュエーション v.s. コーゼーション

図表4.3 コーゼーション v.s. エフェクチュエーション

連載第3回では、エフェクチュエーションとコーゼーションを比較検討しました。

特に強調したのはコーゼーション型である昭和型ビジネスモデルは、過去の延長線上に未来を描く一直線の活動になりがちなことです。一方エフェクチュエーション型は、創造的にビジネスモデルを創発する活動になります。だからテック系スタートアップは、基本的にエフェクチュエーション型の活動になりがちです。しかし令和の時代になると、強い既存市場と事業を確立した企業の中からも、エフェクチュエーション型の活動をする企業 - ワークマン - が登場します。

デジタル敗戦問題とは何か?その解決策は?

図表4.4 デジタル敗戦の背景にあるスケールの大きな問題の正体

デジタル敗戦問題とは、第一にマイナンバーカード登録にまつわる混乱など〈アナログ手作業問題=デジタル化の遅れで手作業を強いられたことにより起きた現場の混乱〉を指しています。

この問題の解決自体は難しいことではありません。海外の企業や行政組織と同じように〈業務マニュアルを自分で作る習慣〉を身につければ済む話です。しかしデジタル庁の今のアプローチは心配です。失敗に終わる強烈な予感がします。主に連載第1回と第3回のはじめに書きました。

他方、この連載記事が注目するのは〈スケールの大きな問題〉です。ボクたちの社会の仕組みや価値観は、GAFAMなど海外企業のビジネスモデルの体験によって大きく変化しました。

しかし問題の根っこは、日本経済の中核たる〈大企業を中心とするユーザー企業のビジネスモデル+日本型SIビジネスモデルが昭和型〉であることです。つまり日本企業の多くがビフォアーDXなのです。ボクたちの価値観や社会の仕組みは令和型に変わっているのに、日本経済の中核にあるビジネスモデルが昭和型なのです。それに日本のスタートアップの起業率が、超低空飛行であることを示すデータもおみせしました。

どうにも日本経済は閉塞的な状況に陥っているようです。その理由は、新しいビジネスモデルを自分で作るプラクティスの不足です。だから新しいビジネスモデルを自分で作り出すこと。そしてそのプラクティスを支える〈新しい方法としてのエフェクチュエーション〉を提案することが、この連載記事の主目的となります。日本にはワークマンのような、元気なビジネスモデルで元気な企業がほんとに希少だと思います。

ゆきづまったらエフェクチュエーション

でもなにか閉塞感にゆきづまっていると思ったら、エフェクチュエーションをぜひ一度、試してください。なにを隠そう、ボクがエフェクチュエーションを学びはじめたのは、フリーランスライターとして独立した時に、ほんとに何をしたらよいかわからなかったからです。

副業の方でフリーランサーとして独立を迷っている方にもおすすめです。起業家のために体系化されたエフェクチュエーションですが、事業と市場を確立した企業にもお役立ちになります。

このショートストーリー編で、さまざまな状況におけるエフェクチュエーション適用の考え方や事例、関連トピックスを紹介していきます。それではまたお会いできれば幸いです。

連載記事一覧

[連載04]押しの経済時代のエフェクチュエーション
[連載05]生成AIは神か悪魔か?芥川賞作家の神回答がツボにはまった件
[連載06]劣等感の真実
[連載07]こたつ記事ライターのエフェクチュエーション① - 絶望感を克服して愉しく生きる方法
[連載08]こたつ記事ライターのエフェクチュエーション?- 収入の不安定さをコントロールする
[連載09]こたつ記事ライターのエフェクチュエーション3:目的や目標ではなくて手段からはじめた方が幸福になれる理由
[連載10]幸せの青い鳥の原則
[連載11]noteとクラウドソーシング、こたつ記事ライターがめざすべきなのはどっち?
[連載12]noteがブルーオーシャンになる理由
[連載13]新しい記事を書くってなんでこんなに愉しいのだろうか?
[連載14]ライターが「やりがい搾取」を感じるとき

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