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目的や目標ではなくて手段からはじめた方が幸福になれる理由

目的や目標を設定するところからはじめて、その達成に向けて努力するのが、良い子どもであり大人なのである。ボクたちはそう教えられ、そう信じて行動してきました。

運動会の徒競走では、一生懸命走って一番になった方がほめられます。良い成績で学校を卒業して、良い会社で良い給料をもらった方が幸福です。良き会社人として会社の規範に従って、業績目標達成に向けて頑張りなさい。そうすれば高い評価をもらえるから.....とか。

でもボクは未来は不確実で予測不能なのに、〈3か月で月5万円の収入目標〉を設定することが〈まさかの葛藤〉を呼び込むことを述べました。そうではなくて不確実な収入の不安定さを受け入れて、それをコントロールする方法(=許容可能な損失の原則)をお伝えしました。

その上でボクには、さらにお伝えしなければならないことがあるのです。サラスバシー教授は目的や目標からはじめる、いままでボクたちが常識としてきた方法をコーゼーションと呼びます。しかしエフェクチュエーションは〈手段からはじめなさい〉というのです。その方が幸福になれるからというのです。

コーゼーション - 目的や目標からはじめることの意味

図表9.1 コーゼーション - 目的や目標からはじめる

目的や目標を設定するところからはじめるコーゼーションには、いままで述べてきたこと以外にも深刻な問題が隠れています。それはコーゼーションに従うと〈理想の未来像=究極の目的〉とは関係なしに、つい同じ行動を繰り返してしまうことです。だからいつまでたっても、理想の未来像と断絶してしまうことです。

誰かが作った世界の中をさまよう

フリーランスライターとして独立した人の理想の未来像は、人それぞれだと思います。ボクの場合は〈書く仕事で自立したい〉という想いがあって独立しました。でもそのために具体的に何をしたらよいのか、まったく検討がつかなかったのです。

それはそうですよね。誰だってはじめた時には目的(=書く仕事で自立したい)はあいまいだし、具体的に何をしたらよいのかわからないものです。だからボクは〈だれかが作った成功シナリオ=世界観〉のひとつを選択しコピーしました。目標は〈3か月で月5万円〉、手段(ビジネスモデル)は〈クラウドソーシング〉です。

ボクが選択しコピーした世界観(成功シナリオ=目標と手段)が、ボクにとっては問題があったことをいままで述べてきました。しかしもしも仮に目標が達成できていたら、ボクはどうしたのかという話です。

目標の達成に満足して、おそらく次の〈3か月で月10万円〉のサイクルをくり返していたでしょう。実際は達成できなかったので、不満足ながら次の〈3か月で月5万円〉のサイクルをくり返しました。

ボクはいままで述べてきたとおり〈クラウドソーシングで受注することで3か月で月5万円〉という世界観に、強い疑問を持ち続けていました。問題は疑問を持ちながらも、それでもなぜこの成功シナリオを繰り返し続けたかにあります。なぜボクはこの世界をさまよい続けたのかということです。

なぜならばボクにはこの〈3か月ワールド=成功シナリオの世界観〉しか目に入っていなかったからです。この〈3か月ワールド〉がボクにとって世界のすべてだったからです。

停滞状況に陥るメカニズム

でもここでいったん立ち止まって考える必要があります。〈クラウドソーシングで受注することで3か月で月5万円〉という手段(ビジネスモデル)と目標は、究極の目的たる理想の未来像からすれば、中間目標のひとつであり中間手段のひとつにすぎません。

ボクは理想の未来像のことを忘れていましたが、しかしその中間目標であり中間手段は、理想の未来像に到達するための工程としては、ふさわしいものではないとボクは思っていたことになるのです。

連載第4回目までに述べたように、これが日本企業の多くが停滞状況に陥り、日本経済沈没を招いたメカニズムです。なんだか変だなと思いながらも、いままで進んできたコーゼーションの一本道から降りることができなかったメカニズムです。このおはなしはボク個人のことですが、ボクは知らず知らずのうちに、同じわだちにはまっていたのです。

まさかの葛藤におちいり、凍り付いた時間に足を止めていたのです。

エフェクチュエーション - 手段からはじめることの意味

図表9.2 エフェクチュエーション - 手段からはじめる

手段からはじめるというエフェクチュエーション。それではエフェクチュエーションには目的はないのでしょうか。もちろんあります。

それは新たにモノやコトを作り出すことによって、世界をわずかながらであっても変えることです。理想の未来像に到達するのは困難であったとしても、わずかずつであっても世界を変え続けることです。つまり理想の未来像に〈なるプロセス〉そのものが目的です。

新たにモノやコトを作り出す継続した〈なるプロセス〉のうえで、〈手段としてのわたし〉は、〈新しい手段としてのわたし〉として成長するのです。

世界は偶然にあふれていて関係でできている

橘玲が指摘する上級国民と下級国民に分断された残酷なこの世界で、幸福に生きるためにはどうしたら良いのでしょうか。

それは世界の見方を180度変えてしまうことです。ボクの場合であれば、コーゼーションの世界観から、エフェクチュエーションの世界観へ、180度、転換することです。

本稿の前半では、コーゼーションの世界観で作られた世界で〈まさかの葛藤〉に落ち込んだことを紹介しました。〈クラウドソーシングで受注することで3か月で月5万円〉の手段(ビジネスモデル)と目標に疑問を持ちながら、ボクは凍り付いた時間に足を止めていたのです(と思い込んでいたのです)。

ではエフェクチュエーションの世界観で、この世界の見方を変えてしまいましょう。ボクがいまだにクラウドソーシングでライティングを続けているのは、信頼していただけたクライアントと出会えたからです。

エフェクチュエーションの世界観では、〈世界は偶然にあふれている〉のであり、〈世界は関係でできている〉のです。この世界での〈存在とは関係の濃さ〉です。ボクはそのクライアントとの出会いのおかげで、レッドオーシャンなクラウドソーシング市場に、いまだに存在することができているのです。

しかしこのクライアントとの出会いは偶然に過ぎず、この契約もいつ終了するかもわかりません。でもボクは幸福です。ボクが専門とするハイテク系の記事を書かせていただいたことで、リサーチスキルやライティングスキルが上達しました。

少しずつ世界が見えてきたことで、クラウドソーシング市場以外にも目が向くようになりました。

世界は偶然にあふれています。それに世界は関係でできています。偶然の機会や出来事、偶然の出会い、偶然得られた情報や知識を幸福に変えることを、ボクは〈セレンディピティの原則〉とよんでいます。

いろんなところにあるエフェクチュエーション

世界の見方を180度、変えてしまう。ボクはエフェクチュエーションを学んで以来、優れた業績をあげている多くの企業の行動がエフェクチュエーションにもとづいていることに気付きました。

DXを世界的にけん引するアマゾンの30年の歴史はエフェクチュエーション型であることは、以前、書いた通りです。他にも例はいくつもあります。ボクはマイク・ローザーが書いた『トヨタのカタ』[1]の序章を読んだ時に、おもわず二度読みしてしまいました。

トヨタの経営がなぜ優れているのか、その秘密を解き明かしたこの書籍の序章にこんなことが書いてあったのです。

欧米の企業が使っている〈目標による経営(MBO:Management By Objectives)〉とは対極的に、トヨタは〈手段による経営(MBM:Management By Means)〉に拠っていると。日本企業の多くが〈目標による経営(MBO)〉にもとづいていることもいうまでもありません。

ボクはエフェクチュエーション型の日本企業が活躍していることに光明を見出しています。後の回で記事を書く予定です。しかしそのまえに〈こたつ記事ライターのエフェクチュエーション〉、まだまだ続きます。

またお会いできれば幸いです。

出所

[1]『トヨタのカタ』マイク・ローザー著、日経BP社刊2016

連載記事一覧

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[連載08]こたつ記事ライターのエフェクチュエーション?- 収入の不安定さをコントロールする
[連載09]こたつ記事ライターのエフェクチュエーション3:目的や目標ではなくて手段からはじめた方が幸福になれる理由
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[連載11]noteとクラウドソーシング、こたつ記事ライターがめざすべきなのはどっち?
[連載12]noteがブルーオーシャンになる理由
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