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反戦作家、ロマン・ロランについて①

皆さん、ロマン・ロランって作家をご存知ですか?
19〜20世紀のフランスの作家です。

以前、彼の著作「魅せらるたる魂」と「ピエールとリュス」について私たちはnoteに書きました。


フランスの作家ロマン・ロランは、1866年フランス中部ブルゴーニュ地方の小都市クラムシーの旧家に生まれました。
父方は5代続けての公証人の家柄であり、祖先はみな熱烈な"自由"の讃美者で、曾祖父はフランス革命にも参加しました。
母方も3代続く公証人で熱心なカトリック教徒でした。

ロランが生まれたのは、フランス第2帝政時代の末期でした。
帝政政府の無謀な対外政策が破局に達して、普仏戦争で敗戦の憂き目に遭いパリが包囲され、そしてプロイセン王がヴェルサイユ宮殿でドイツ皇帝に即位しました。
プロイセンとの講和条約でアルザス・ロレーヌを奪われ、50億フランの賠償を払うという惨憺たる結末は、フランス国民の心に甚だしい屈辱感を植え付けました。

ドイツと戦い、復讐しようという気持ちはフランス人の多くに浸透していました。
また、敗戦を受けてパリの勤労民衆が立ち上がった1871年のパリ・コミューン以来、フランス社会には革命を待望する雰囲気もありました。


そのような時代背景のもとロマン・ロランは成長し、中学からはパリに家族で移住します。
ベートーヴェン、ワーグナーをはじめとする音楽や、シェークスピアの戯曲、ユーゴー、トルストイなどの小説にのめり込みながら、高等師範学校を目指して勉学に励みます。
そして師範学校卒業後、大学等で教鞭をとりながら、戯曲や小説などを執筆します。


代表的な長編小説「ジャン・クリストフ」は、物語の時代背景が、普仏戦争のあった1870年から第一次世界大戦の勃発(1914年)の前夜までになっています。
その間の社会の激しい動揺の姿が克明にとらえられており、さらにそれに対して鋭い文明批評が加えられています。

普仏戦争に敗れたのちのフランスは、虚無的な無気力、享楽的な退廃、低俗な物質主義などがあるとともに、一方にはドイツに対するさけられぬ宿命的な復讐戦の予感による不安や焦燥がありました。

フランス人の民族感情は、国民の間に広くゆきわたり、しみこみ、何かの刺激で煽られれば発火しやすい性質を帯びていました。


ロランは小説の主人公ジャン・クリストフを、ドイツとフランス両国の文明がひとつの流れに混じり合っているライン河畔の町で生まれたドイツ人としました。

そして、その親友オリヴィエをフランス人とし、第一次世界大戦の危険がひしひしと迫ってくる重苦しい空気の中で、ドイツとフランスの融和を願いました。


「われわれの精神やわれわれの民族を偉大にするためには、ぼくたちはきみたちを必要とし、きみたちはぼくたちを必要とするのだ。
われわれは西ヨーロッパの両翼だ。一方の翼が破れると他方の翼も飛べなくなる。
戦争がはじまるものならはじまるがいい。たとえ戦争でも、われわれの握手を解きほごすことはできないだろうし、われわれの友愛精神の飛躍を妨げることはできないだろう。」


この小説には、3人の登場人物がいます。
意欲的で行動的なクリストフにドイツを、
感受性の鋭い内省的なオリヴィエにフランスを、
快活で温和で調和的な魂をもったグラチアにイタリアを
登場人物それぞれに代表させて、それらの融合を強く願ったのです。


しかし、その願いもむなしく現実は第一次世界大戦が始まります。
フランスとドイツは再び戦争を始めてしまうのです……



執筆者、ゆこりん



参考文献

『ロマン・ロラン』 新庄嘉章著 中公新書

『ロマン・ロラン』 新村 猛  岩波新書

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