森野

創作物を投稿します。怪談、ホラー、幻想、不思議、奇妙な味のものが多めです。「小説家にな…

森野

創作物を投稿します。怪談、ホラー、幻想、不思議、奇妙な味のものが多めです。「小説家になろう」「カクヨム」に重複投稿しています。 現在のところ、月一度、20日前後の更新を予定しています。

記事一覧

占い人形

 女子大生のSさんの家に、昔、一体の人形があった。Sさんが小学生の頃だ。    人形はピンクのドレスを着た可愛らしい西洋人形だった。金髪の巻毛に、水色の目。口元には…

森野
2週間前
4

家鳴り

 Kさんの家では猫を飼っている。   数年前、彼女が高校生になったばかりの頃、両親が保護団体から譲り受けてきた。  それまで家族の誰も猫を飼った経験がなかったため…

森野
1か月前
4

石段のおばあさん

 Fさんは小学生の頃、近所の神社を通り抜けて通学していた。  ちゃんとした通学路は別にあったのだが、道路が大きく迂回し遠回りになってしまう。神社を通り抜けると、近…

森野
2か月前
6

山の横穴

 寺に通じる山道があった。  少年だった頃のおぼろげな記憶だ。    父方の実家があるのは、鄙びた田舎だった。  見渡す限り、低山が並ぶ土地。斜面が幾重にも重なり…

森野
3か月前
7

林間学校

 R君が小学生だった頃。  彼の通う小学校では、五年生時に林間学校が行なわれていた。  行き先は、空気が綺麗な山間地域。ハイキングやバーベキュー、キャンプファイヤ…

森野
4か月前
6

おはじきの雨

 女子大生のAさんは、外出時には必ず傘を持っていく。 「いつも鞄に入っているんです。ええ、必ず。降水確率0%でも」  重くはないかと問うと、もう習慣ですから、と朗ら…

森野
5か月前
9

リラックスアプリ

 Aさんが、そのアプリを知ったのは、仲の良い友人からだった。    Aさんの高校の同級生であるBさんは、ファッションや美容に詳しい。常にアンテナを張り巡らせ、多方面…

森野
6か月前
7

立っているだけ

 ただ立っているだけ、とUさんは言う。  最近、Uさんは頻繁に同じ夢を見るという。 「立ってる夢なんだよね」  どこか知らない場所で立っている。ただそれだけの、特に…

森野
7か月前
11

空き地

 Yさんは、都内でラーメン屋を営んでいる中年の男性だ。  彼の店舗兼住居は、大きなターミナル駅に近い繁華街にある。  駅の西口を出て、賑やかな表通りを真っ直ぐ進み…

森野
8か月前
13

彼岸花

 不思議なことは起こっていない。  幽霊、妖怪、その他オカルト。いわゆる「超常現象」と呼ばれることは何ひとつ起こっていない。  なのに不思議だと思ってしまう。あれ…

森野
9か月前
16

墓歩き

 Bさんは、散歩を趣味としている会社員の男性だ。  しかし、最近は仕事が忙しく、なかなか散歩の時間がとれない。それで彼は、会社からの帰り、少し寄り道をして帰るよう…

森野
10か月前
8

水の中

 Fさんは地方都市に住む30代の主婦。3歳の娘さんがいる。    その娘さんが、まだ2歳だった頃。食事中に、コップの水を飲みながら「あお」と言った。  「青?青色?」聞…

森野
1年前
9

パーティーバッグ

 Kさんの叔母さんは、リサイクルショップを経営している。  取扱品は、古着やバッグ、アクセサリー等のアパレル関連品。  叔母さんの目利きがいいのか、若い女性客を中…

森野
1年前
6

ヤダリアス

 「ヤダリアスって知ってる?」  唐突に言ったのは、Bさんだった。  その時、Aさんたちは大学のカフェテリアで、仲の良い友人どうし、気の向くままに雑談をしていた。…

森野
1年前
9

遠くなる

 今夜もまた遅くなった。  深夜の道をトボトボと歩く。 「会社の近くに越したらいいんじゃないか?     朝は遅くまで寝られるし、夜は趣味の時間がとれる。男の独り…

森野
1年前
7

ツボ

 友人のHさんは鍼灸師をしている。鍼や灸で人体のツボを刺激し、肉体や精神の不調を改善する仕事だ。  Hさんは腕が良いと評判の鍼灸師で、次から次へと患者が押し寄せて…

森野
1年前
8

占い人形

 女子大生のSさんの家に、昔、一体の人形があった。Sさんが小学生の頃だ。
 
 人形はピンクのドレスを着た可愛らしい西洋人形だった。金髪の巻毛に、水色の目。口元には仄かな微笑を浮かべていた。
 その人形は、玄関の靴箱の上に飾られていた。朝の登校時、夕方の帰宅時など、玄関を出入りする度に目に入る。
 家に連れてきた友達などは、気味が悪いと怖がることもあったが、Sさんはその人形が嫌いではなかった。毎日

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家鳴り

 Kさんの家では猫を飼っている。 
 数年前、彼女が高校生になったばかりの頃、両親が保護団体から譲り受けてきた。
 それまで家族の誰も猫を飼った経験がなかったため、最初は戸惑いの連続だった。しかし今では、すっかり家族の一員として馴染んでいるという。
 その猫が、妙な行動をとることがあるらしい。

「いや、妙というか。行動自体はよくあることなのかもしれないですけど」

 ふいに、空中の一点を見つめだ

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石段のおばあさん

 Fさんは小学生の頃、近所の神社を通り抜けて通学していた。
 ちゃんとした通学路は別にあったのだが、道路が大きく迂回し遠回りになってしまう。神社を通り抜けると、近道できて便利だったのだ。
 その神社の石段で、必ず会うおばあさんがいた。毎朝Fさんが石段の上にたどり着くと、いつも既におばあさんはいて、竹箒で石段を掃いていた。
 Fさんが石段を降りていくと、当然ながらすれ違う。近くを通るのに何もリアクシ

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山の横穴

 寺に通じる山道があった。
 少年だった頃のおぼろげな記憶だ。
 

 父方の実家があるのは、鄙びた田舎だった。
 見渡す限り、低山が並ぶ土地。斜面が幾重にも重なり、その合間合間に家が点在する。そんな集落だった。
 
 父の実家の裏にも山があった。
 その裏山に、寺に通じる細道があったのだ。
 
 人ひとり通るのがやっとの幅の、藪の中に続く道。踏み分けた跡で、ようやく道と分かるような、獣道に似た細

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林間学校

 R君が小学生だった頃。
 彼の通う小学校では、五年生時に林間学校が行なわれていた。
 行き先は、空気が綺麗な山間地域。ハイキングやバーベキュー、キャンプファイヤーなどをして親睦を深め、夜は十人ごとに一部屋で雑魚寝する。一泊二日の楽しい行事だ。
 
 R君も五年生のとき、林間学校に出掛けた。
 いつもは学校でしか顔を合わせない友人たちと、ずっと一緒。山の空気は清々しく、苦労して起こした火で焼いた肉

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おはじきの雨

 女子大生のAさんは、外出時には必ず傘を持っていく。
「いつも鞄に入っているんです。ええ、必ず。降水確率0%でも」
 重くはないかと問うと、もう習慣ですから、と朗らかに笑う。
 何故そんな習慣ができたのかと聞くと、妙な答えが返った。

 おはじきの雨が降るから。

 それが原因だそうだ。

 
 数年前、Aさんが高校生のころ、その現象は始まった。
 ある夏の夕方、予備校の玄関をでたところで、急な夕

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リラックスアプリ

 Aさんが、そのアプリを知ったのは、仲の良い友人からだった。
 
 Aさんの高校の同級生であるBさんは、ファッションや美容に詳しい。常にアンテナを張り巡らせ、多方面から最新の情報を仕入れている。
 そんな彼女が、ここしばらく興味をもっているのが、ネット上に多くあるリラックスアプリらしい。
 心身の健康を促進するためのリラックスアプリ。フィットネス、マインドフルネス、癒やされる動物画像、睡眠導入音。

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立っているだけ

 ただ立っているだけ、とUさんは言う。

 最近、Uさんは頻繁に同じ夢を見るという。
「立ってる夢なんだよね」
 どこか知らない場所で立っている。ただそれだけの、特に何も起こらない夢だという。
 
 夢のなかでUさんは立っている。
 そこは薄暗い小部屋だ。妙にリアル感のある夢で、壁についた染みの形まで、はっきりと見て取ることができる。
 部屋には仄暗い光が満ちている。天井付近に格子の嵌まった小さな

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空き地

 Yさんは、都内でラーメン屋を営んでいる中年の男性だ。
 彼の店舗兼住居は、大きなターミナル駅に近い繁華街にある。
 駅の西口を出て、賑やかな表通りを真っ直ぐ進み、脇道に入って、何度か曲がったところ。そこに彼の店はある。彼の父の代からそこで営業している、周辺では古株の店だという。
 
 そんなYさんには、不思議に思っていることがある。
 Yさんは生まれも育ちも今の家。ずっと同じ場所で暮らしてきた。

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彼岸花

 不思議なことは起こっていない。
 幽霊、妖怪、その他オカルト。いわゆる「超常現象」と呼ばれることは何ひとつ起こっていない。
 なのに不思議だと思ってしまう。あれは怪異ではなかったかと振り返る。
 そんなことが、誰にでもひとつくらいはあるのではないだろうか。

 Bさんの話。
 彼は中学生のころ、ある地方都市の一軒家に、家族とともに暮らしていた。
 周囲は、同じく一軒家やアパートなどが立ち並ぶ住宅

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墓歩き

 Bさんは、散歩を趣味としている会社員の男性だ。
 しかし、最近は仕事が忙しく、なかなか散歩の時間がとれない。それで彼は、会社からの帰り、少し寄り道をして帰るようにした。
 それはいいのだが、このBさん、なぜか墓地の中を歩くようになった。なんでも人がいない静かな場所を歩きたい、しかし物騒な目に遭いたくない、と色々考えた末に、霊園をぶらぶらするという考えに至ったのだという。
 夜の霊園。最初は多少薄

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水の中

 Fさんは地方都市に住む30代の主婦。3歳の娘さんがいる。
 
 その娘さんが、まだ2歳だった頃。食事中に、コップの水を飲みながら「あお」と言った。
 「青?青色?」聞き返すと、「うん」と答える。だが、周囲に青色の物はない。「なにが青なの?」再び聞くと、「おみず」と答えた。ああ、絵本か何かで水が青色だと覚えたのかなと思い、Fさんは「そうだねえ、青だねえ」と笑いかけ、その場は終わった。
 しかし、別

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パーティーバッグ

 Kさんの叔母さんは、リサイクルショップを経営している。
 取扱品は、古着やバッグ、アクセサリー等のアパレル関連品。
 叔母さんの目利きがいいのか、若い女性客を中心にそこそこ繁盛しているという。

 人気があるのは、やはりハイブランド品。また、アウトドア、スポーツ系のカジュアルブランドもよく捌けるそうだ。
 そして、近年はフォーマル、パーティードレス、小物など、フォーマルな場でのアイテムも、じわじ

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ヤダリアス

 「ヤダリアスって知ってる?」

 唐突に言ったのは、Bさんだった。
 その時、Aさんたちは大学のカフェテリアで、仲の良い友人どうし、気の向くままに雑談をしていた。バイトのこと、恋愛のこと、最近ハマっているもののこと。思いつくままに語り、話題が幼い頃の思い出になったときだ。唐突にBさんが皆に尋ねた。
 聞き慣れない単語にAさんは首を捻った。見回すと、他の友人たちも不思議そうな顔をしている。
「そっ

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遠くなる

 今夜もまた遅くなった。
 深夜の道をトボトボと歩く。

「会社の近くに越したらいいんじゃないか?   
 朝は遅くまで寝られるし、夜は趣味の時間がとれる。男の独り身なんだから、気軽に越せばいいさ」

 仕事だけが人生じゃないんだ、と引っ越しを後押ししてくれた同僚は、私が今のアパートに越すなり、更に多くの仕事を押し付けてくるようになった。
 おかげで今日も深夜帰宅だ。
 街灯が寂しく照らす道は、い

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ツボ

 友人のHさんは鍼灸師をしている。鍼や灸で人体のツボを刺激し、肉体や精神の不調を改善する仕事だ。
 Hさんは腕が良いと評判の鍼灸師で、次から次へと患者が押し寄せてくる。常連の中には、生涯Hさんの施術しか受けない、と決めている人も多いらしい。
 何故、そんなに人気なのか。
 Hさんには人体の気の流れと、それが溜まる場所、つまりツボが、はっきりと見えるのだそうだ。
 元々、鍼灸というものは、人体の気や

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