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てのひらの物語

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物語を綴るように、体験を通したエッセイ。
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#写真詩

夢の中へ帰る

夢の中へ帰る

夢を見たことを久しぶりに起きた後も覚えていた。

以前よく夢の中に出てきた、知らないはずなのによく知っている場所に私は居た。

煙のように消えてしまった、あの町へまた帰って来たのだ。

今までと少し違っていたのは、その町から別の町へ電車に乗って出かけ、またあの町へ帰ろうとしていることだ。

だけれど、私は帰れない。
降りる駅の名前が思い出せない。

夢の中で私は迷っていた。

仕方がないので次の駅

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思えば遠く来たもんだ

思えば遠く来たもんだ

子供の頃から私には放浪癖があったらしい。

親が目を離した隙に、しょっちゅう、ふらっと何処かに歩いて行ってしまい、その度に探し回るハメになったのだという。

あれは4歳くらいの記憶だろうか、私は人気のない住宅街の道を一人でテクテク歩いている。
真っ直ぐに歩こうと思っているのにどんどん斜めに逸れて行ってしまい、とうとうドブに落ちてしまった。
下水道が発達していなかった昔の家の脇にはドブと呼ばれる側溝

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精霊になった、あなたへ

精霊になった、あなたへ

車ごと列車に乗り込み、南の街から1000km離れた北へと向かった。
車窓を流れる風景は、平原からなだらかな稜線を描く山々、白樺から針葉樹の森へと移り変わってゆく。
極北の大地は太陽の沈まない完全な白夜に包まれ、薄明の空の下を一晩中、夜行列車は走り続ける。

ガタンゴトン、ガタンゴトン、レールと車輪の軋みに揺られ、コンパートメントの三段ベッドに寝そべっていると、「大いなる鉄路」でナレーションを担当し

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