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2023年詩

200
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#スキしてみて

198「詩」クリスマス

198「詩」クリスマス

争いのあるところに平和

遠い昔救い主はそう唱えた

優しく思いやりのある子に育ってと
産まれたばかりの赤子を見て母親が思った
ひとつの命が産まれるまでに
どれだけの奇跡が重なっているか
母親は知っている

奇跡のように産まれたこどもは
手間暇かけ心を尽くされて大きくなり
誰かにとって宝物であり続ける

争いの中で
命が砂粒のように扱われる
その小さな一粒は
誰かにとってかけがえのない宝物なのだ

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200「詩」冬華 白暮

200「詩」冬華 白暮

過去にあった詩誌「詩芸術」に掲載された作品です。

(冬華) —東山魁夷の絵のための2作—

じさまのじさまがうえた木
のうえで もつれたしじま
とかれてゆくとかれてゆく
もつれたこずえ もつれた
かなしいきおくとが
からんで

とかれてゆくとかれてゆく
じさまこじさまは とうに
しんだ じさまのじさまの
しわがもつれて

一本の木に
白い花の咲く頃
薄絹の奥に
昼日が
うろこのような光を

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199「詩」聖夜

199「詩」聖夜

要らないものはぜんぶ捨てよう

ひとりひとりの違いを
そのままに大切に受け止めよう
比べたり羨んだり妬んだりすることから
遠く離れていよう

遠く離れてどんなに小さくても
ひとりひとりの良いモノに気付ける目を
開いていよう
どんなに小さくても
違った声を聞き取れるように耳を
澄ましていよう

どんな小さな悲しみにも
気持ちを共に出来るように心を
柔らかくしていよう

自分が透明になって
消えてなく

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197「詩」メリークリスマス

197「詩」メリークリスマス

中学生だった頃
夢を見た
深い暗闇に
眩しい一筋の光が射している
光が凍った重荷を溶かしていく
翌日
幼かった頃通っていた教会の門をたたいた。

キリストは光です
神父様の言葉
昨日の夢が蘇った

蝋燭に炎を灯す

一本目
希望を持ち続けてと火を灯す

二本目
争いのあるところに平和と唱えながら

三本目
羊飼いたちの喜びと共に

社会の底辺にいる人々に真っ先に
救い主の誕生を知らせた
神さまの思

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196「詩」そのままに

196「詩」そのままに

思いもよらない受け取り方をされる
そんな思いは一欠片もないのに
どうしてそんな受け取り方をしてしまうのか
不思議でたまらなくなる

心の中を事細かに説明したところで
放った言葉は言い訳だけに聞こえるだろう
受け取る器が違えば違って見える
そっとそのままにしておくしかない

同じものを違った方向から見るから
平面は立体になって
奥行きを増す
時間の流れの中で
形を変えていくことも出来る

いったい私

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195「詩」誰かのもとに

195「詩」誰かのもとに

言葉は 空から降ってきた
誰かを傷つけるためでなく
誰かを温めるために
ひらりと手のひらに 
止まった

そっと手のひらを口元に寄せる
いい香りがする
蝋梅に似た言葉の香りだ
香りが消えないように
手のひらを固く閉じる

閉じたまま大急ぎで走り始める

冷たい手足のまま
立ちすくんだままの誰かのもとに
言葉の香りを届けに

194「詩」降誕

194「詩」降誕

星たちは微かな光を降り注いでいた
暗闇でなければ気づけない光だった

その人がお生まれになったと
真っ先に気づいたのは
最も貧しい羊飼いたちだった

その人はもっとも貧しい人間たちの寝ぐらより
もっと貧しい動物たちの寝ぐらに
お生まれになった

誰も知らない
誰も気づかない
世界から忘れ去られた
片隅に生きる人々の涙に
その人は犬の目のような目をして
共に涙した

涙は一筋の光に変わった

一筋の

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193「詩」夜明けの光景

193「詩」夜明けの光景

ありきたりの言葉で伝えるのが
そんなにだめなことでしょうか
ありきたりの言葉を歪めて
奇妙で思いのない言葉を
パズルのように
理論だけで組み立てていくことだけが
評価されるのでしょうか

夜明け前
静けさが凍ってガラスになっている
ガラスの地面を傷つけないように
そっと言葉を探しながら歩いている

世の中で評価されない言葉たちが
誰かに届くかもしれない
言葉たちが誰かの心を一瞬でも
温めることが出

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143「詩」初秋に

143「詩」初秋に

いくぶん
空が青さを増して
ずっと高みにいるものに繋がり始める

いくぶん
涼やかな空間が生まれている
樹々が豊かに実るようにと願いを込める

温暖化で季節が
二つになってしまったように思えても
ちゃんと秋はやってきた

田畑が光に包まれる
人々は稲に感謝し光の束を
その土地に住む神様と分け合う

荒れた風雨や灼熱の日差しから
農家の人たちに身を削って守られ
稲は育った

たわわに実った一粒一粒を

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105「詩」糸

105「詩」糸

星くずの光を編んで
小さかった頃の記憶を結んでみる

結び目から
懐かしい匂いが溢れてきたら
ありったけの力をこめて
光の糸を投げてみよう

ずっと昔から
わたしを待っているものがいる
光の糸がいく先に
わたしをじっと待っているものがいる
#スキしてみて

92「詩」遠い記憶

92「詩」遠い記憶

セピア色にほのかに明るんだ丸い空間の中にある
遠い記憶に
蒼くのびたツタの先端が届くと
するすると遠い記憶はツタを伝って滑り落ちてくる

そうだったのだ
騙されていたのだ
利用されていたのだ
悪意をこめられていたのだ

遠い記憶の裏に気づく

気づいたところで何の怒りもない

そのまま地面に滑り落ちていく
忘れていた記憶が地面いっぱいに溜まって
地面に深く食い込んだツタの根っこを潤していく

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80「詩」母たち

80「詩」母たち

街はなくなっていた
埃と瓦礫が果てしなく続いている
街には人々が住んでいる

街の人々の願いが届かないところで
安心な場所から
無意味な争いの指示は出されていく

汚れたほんの少しの水を飲み
冷たい瓦礫の中で
街の人々は身体を休める

なにもかも
なにもかも
破壊された世界の中で

母たちは私たちと寸分違わない心で
精一杯の愛情を
子どもたちに注いでいる

破壊されることのない
お母さんの心を

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79「詩」夕方の光景

79「詩」夕方の光景

#スキしてみて

重い荷物を背負って家路に着く

自分のためだけの見せかけの優しさや
人々の悪意が
心に突き刺さって
鈍い痛みになっていた

ふと
空を見上げる

オレンジ色に染まった雲が
今日1日の汚れたものを
弔っていく
清らかなものだけ残して
オレンジ色は小さな塊になっていく

もうじき満点の星が
何万光年離れたところから
輝きを届けはじめるだろう

はるかかなた
思い描くことさえできない遠

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71「詩」朝

71「詩」朝

それでも
ひとすじの光は射す

それでも
かわらない朝はくる

自然の法則を守って
同じ時期に同じ花が咲く
同じ時期に同じ星が輝く

ひしめき合った人間たちは
幸せへの方向を見失ってく

人々のためにと考えたあげく
自分のためだけに動いている

注意深く
自然の声に耳を傾けてみる

足元に咲いた名も無い花でさえ
何が正しいのか
その答えを知っているはずだ