Momo Honjo

喫茶店で働いていたわたしの日記。お店でのこと、この土地での暮らしのこと。

Momo Honjo

喫茶店で働いていたわたしの日記。お店でのこと、この土地での暮らしのこと。

最近の記事

◯YUSHICAFEを辞めて、その後の日々◯それでも、やっぱり日記を書きたい。

2023年12月31日(日) 隣の部屋からは母のいびきが聞こえる。さっき布団についたばかりだというのに、ものの数秒後にはいびきをかいている。これも病気の症状らしいから責められない。 ちょうど1年前、2022年の年末に、母は「多系統萎縮症」という、見たことも聞いたこともない、脳神経の難病だと診断がくだされた。まさかあの時は、また一つ屋根の下、母と暮らすことになるとは思ってもいなかったし、介護というものの大変さも知らなかった。 母のいびきは、今にも息が止まりそうな変な音がし

    • 【喫茶店日記】2023年5月1日月曜日 ミツバチの羽音が

      5月1日 月曜日 だいちゃんとじゅりちゃん、ゆめちゃんがやってきた。じゅりちゃんに会うのは久しぶりだったから、嬉しくなって思わず、わたしはレジから玄関の方へ飛び出ていった。珍しい3人だなぁと思って聞いたら、上の二人は久しぶりに学校へ行ったと言った。だいちゃんとじゅりちゃんが揃ってお茶しにきてくれる姿を見るとなんだかいつも嬉しくなる。じゅりちゃんのニコニコ顔、わたし大好きなんだよなぁ。ももちゃんのクッキー、美味しくて一人病院で泣きそうになりながら食べたよ、とじゅりちゃんが言う

      • 【喫茶店日記】2023年3月5日-6日 ちいさな夢と、忘れ物。

        3月5日 日曜日 わたしが出勤して今日はカウンターでコーヒーをいれているとヒロトくんがお母さんと来た。レジのあたりにいるマスターの様子を見ながら近づいてゆき、 「今お時間大丈夫ですか。」とヒロトくんは聞く。彼のまだ声変わりする前の少し高くて、でもちょっとハスキーな感じの声がたまらなく可愛い。「はい、バッチリ大丈夫ですよ。」と答えてヒロトくんの背の高さに合わせてしゃがんだマスター。 「何歳から働かせてもらえますか。」と目を輝かせながらの質問だった。「学校の先生たちがいいのな

        • 【喫茶店日記】2023年3月4日土曜日 春。

          3月4日 土曜日 出勤前、朝一番で出かけて毎週土曜日にある朝のマルシェに行った。お目当てのはかり売りのおやつと油を買った。そして朝の短い時間だったけど、友達のともちゃんが企画した種の交換会にも参加させてもらった。もう畑が始まる時期なのだなぁと思うのだけど、まだ正直心の準備ができていない。それでもいろんな種を手にするのは、夢が広がって、いつだって楽しい気分になれるから好き。種を持っていることはとても豊かなことだと思っている。その感覚を誰かとまた共有できるのがとても嬉しかった。

        ◯YUSHICAFEを辞めて、その後の日々◯それでも、やっぱり日記を書きたい。

          【回想・喫茶店日記】小麦の種を蒔くころ。(2021月10月6日-10月17日)

          10月6日 水曜日 田中さんが先週話していたオーバーオールと、ギャルソンの靴を持って来てくれた。まず靴を履いたけど、わたしの足にぴったりのサイズで、デザインもまさに好きな感じだった。嬉しすぎるお下がりを頂き、大変ご機嫌なわたし。 わたしは田中さんとおしゃれの話をするのが大好きだ。今日はヘアスタイルについての話をした。田中さんはもう20年近く自分で切っていて、ずっとこの髪型だという。前髪はおでこの4分の1もないくらいに短く切りそろっていて、少し白毛混じりの色もまた良くて、必

          【回想・喫茶店日記】小麦の種を蒔くころ。(2021月10月6日-10月17日)

          【回想・喫茶店日記】秋と孤独。(2021年9月18日〜10月3日より抜粋)

          9月18日 土曜日  台風14号は大したことなく通り過ぎていった。  最近中古でマニュアル車を手に入れ、運転し始めた。どうだ、もう慣れたか、とカウンターのおじさんたちに聞かれた。マスターは「大丈夫ですよ、きっとあっという間に慣れますよ。皆さん、面白いのは今だけですよ。」と言い、わたしはおじさんたちに笑われた。 9月23日 木曜日 シュウジさんが今日はなぜか珍しく、ピンクのワイシャツを着てきた。全然関係ないけど、ちょうど数日前にご近所に住むマサミ君が「僕はもうシティーボー

          【回想・喫茶店日記】秋と孤独。(2021年9月18日〜10月3日より抜粋)

          【回想・喫茶店日記】 秋の空、季節外れのトウモロコシ。(2021年8月17日-9月15日より)

          8月17日 火曜日 お盆が明けた。今日も雨。涼しい朝出勤すると、ここで働き始めた秋をいつも思い出す。毎朝早くにマスターはスコーンをオーブンに入れるので、出勤するときは店のまわりが小麦とバターの焼ける香ばしい匂いでいっぱいになっている。この匂いに、今日も頑張るぞ、と何度も思わされる。 焙煎室の巨大プールは撤去されていた。次は岡田家が使うらしい。 8月18日 水曜日 思えばここ一週間以上ずっと雨だった。久々に雲がパカーっとわれてカウンターに西日が差し込んだ、午後5時。あま

          【回想・喫茶店日記】 秋の空、季節外れのトウモロコシ。(2021年8月17日-9月15日より)

          【喫茶店日記】悲しくて、腹が立つ。(3月11日・15日)

          3月11日 金曜日 あったかい。今日は国道の電光掲示板も15度と表示していた。今年になってからはじめてお気に入りの七分袖のラグランシャツを着た。それがちょうどよくて、とても気持ちが良かった。 「あの時どうしていた?」という会話が聞こえた。 マスターは、あの時もこうしてカウンターでコーヒーを淹れていたと言う。珍しくかなり揺れたから、このあたりが震源地だろうと思ったらしい。揺れがおさまり、さてさて、と高橋さんがいつものように「帰って水戸黄門でも見るか」と言い帰っていったらし

          【喫茶店日記】悲しくて、腹が立つ。(3月11日・15日)

          【喫茶店日記】 世界は変わり続けている。(2022年2月19日-3月6日より)

          2月19日 土曜日 2週間ぶりの休みだ〜!といってタカダさんはカウンターに座った。出張が多い仕事で、全国各地を飛び回っているから、今日は三重のお土産のかた焼きをくれた。かた焼きは、本当にかたい。カウンターのおじさんたちは頑張って噛み砕く人もいれば、ビスコッティのようにコーヒーに浸して柔らかくしてから食べる人もいた。一概にオススメできない類の食べ物である。今日はちょうど歯医者通いの棟梁もいたし、特にカウンターの年齢層にはむつかしい。みんなが苦戦する中、貸してみ、といってタカダ

          【喫茶店日記】 世界は変わり続けている。(2022年2月19日-3月6日より)

          【喫茶店日記】2月20日 日曜日 唐揚げ、冷めたコーヒーとケーキの端きれ。

          2月20日 日曜日 もう降っても大したことないだろうと見くびっていたけど、今日が今年で一番積もった。 白くて眩しい午前、いつものように、北さんが来た。北さんには、濃いめに落としたコーヒーと牛乳(牛乳は金継ぎされた北さん専用の器の6分目くらいまで入れる)をお出しすると決まっている。わたしが持っていくと北さんは「おぉ、おぉ、ももちゃんが持ってきてくれるだけで最高のコーヒーだなぁ」とニコニコしながらお決まりのフレーズを言ってくれる。今月の頭に、常連さんから店が買い取った古本の

          【喫茶店日記】2月20日 日曜日 唐揚げ、冷めたコーヒーとケーキの端きれ。

          【喫茶店日記】2月15日 火曜日 17年。

          2月15日 火曜日 出勤するやいなや、マスターは今日の新聞をキッチンに持ってきて、おくやみ欄を見せてくれた。そして、「〇〇さんのお父さまが亡くなられまして。明日裏のJAで葬儀があるのでもしももさんも行けたら。」と教えてくれた。とある常連さんのお父様が亡くなった。彼らの営む小さな家族経営の温泉旅館に、時々わたしは休みの日に行く。一人明るい時間からお邪魔して、貸切状態のお風呂に浸からせてもらっていた。だから、電気のついていないお風呂へ、よっこらよっこらと足を引きずりながら、蓋を

          【喫茶店日記】2月15日 火曜日 17年。

          【喫茶店日記】ホワイト・フェブラリーⅡ (2月12日-13日)

          2月12日 土曜日 AM しいやんが、突然「これを粉にして欲しい」といってコーヒー豆を持ってきた。 そのコーヒー豆の袋はみたことがなかったけど、この店の名前のスタンプが付いていた。昔はその袋だったんです、とマスターは教えてくれた。そのスタンプは里子さんが作ったものだというから、それはきっと少なくとも7年は前のものだ。里子さんはわたしが入る何年か前のスタッフで、一番上の男の子を出産する前まで働いていたのだけど、もうすぐ彼は小学校に入学するし、里子さんはあっという間に4児の

          【喫茶店日記】ホワイト・フェブラリーⅡ (2月12日-13日)

          【喫茶店日記】 ホワイト・フェブラリーⅠ (2月5日-2月11日)

          2月5日 土曜日 立春 今日は寒い。空はまた灰色になり、今朝は大粒の雪の塊が結構降った。なのに、もう花粉が飛んでいるのか、鼻がムズムズする。キッチンの奥にいてもくしゃみが止まらなかった。 時々、ノザワさんは後輩を二人連れて休憩しにくる。ノザワさんはコーヒー豆の発送の際に、集荷をお願いしている郵便屋さんだ。背中に「JAPAN POST」と書かれた制服を着てお茶をしているポストマンたちの姿がわたしは大好きだ。あったか〜いとストーブの前で温まる一人は、モコモコのダウンブーツを履

          【喫茶店日記】 ホワイト・フェブラリーⅠ (2月5日-2月11日)

          【回想・喫茶店日記】 夏の幻。 (2021年7月28日-8月10日より)

          7月28日 水曜日 暑い。とにかく暑い。扉を開けて入ってくるお客さんたちはみんな、涼しい〜っていう顔をする。「天国だな!」と、入るなり高橋さんは言った。今日は土用の丑の日らしい。この辺だったらどこのうなぎがオススメですか、と聞いたら横で新聞を読んでいた中野さんが顔を上げて、「明日だよ」といった。明日スーパーで買えば安くなっているよ、という意味だった。その隣に座る息子の太一くんは、うなぎを緑茶で炊きなおすとふわふわになって美味しくなると教えてくれた。 7月30日 金曜日

          【回想・喫茶店日記】 夏の幻。 (2021年7月28日-8月10日より)

          【喫茶店日記】 2月4日 金曜日 近くにいても、知らないこと。

          2月4日 金曜日 AM 最近朝がなかなか起きれなくて困っていた。でも、今朝は特に冷えたというのに、なぜか7時のアラームが鳴る前にぱっちり目が覚めた。キリッと冷たい空気が気持ち良かった。洗濯物も掃除も終わらせ、朝の出勤前に少しだけ時間があったから、例の氷柱を見てから行こうと思った。 一昨日カウンターに座った女性の常連さんに「春日の氷柱見たことある?」と聞かれた。毎年誰かしらに聞かれるのだが、写真を見せてもらうっきりで、この土地に来てもう4回目の冬だと言うのに未だにそれがど

          【喫茶店日記】 2月4日 金曜日 近くにいても、知らないこと。

          【喫茶店日記】 2月1日火曜日 春の光、額縁に入った絵と、バターの匂い。

          2月1日 火曜日  AM 今日は珍しく一緒に働いている由美さんと街まで出掛けた。由美さんとわたしは、大概どちらかが休みの日はどちらかが出勤なので、休みがかぶることはめったにない。でも今日は私は午後出勤で、午前中が二人とも休みだったので、出掛けることができた。 由美さんの家に車で迎えにゆき、ここ数日うすいさんの体調がさらに良くないという話を聞いた。由美さんは、たぶん新月だからだと思うんだよねと、真剣に、そしてわたしの心配とは裏腹、あっけらかんとそう言った。 今日は旧暦の

          【喫茶店日記】 2月1日火曜日 春の光、額縁に入った絵と、バターの匂い。