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◯YUSHICAFEを辞めて、その後の日々◯それでも、やっぱり日記を書きたい。


2023年12月31日(日)

隣の部屋からは母のいびきが聞こえる。さっき布団についたばかりだというのに、ものの数秒後にはいびきをかいている。これも病気の症状らしいから責められない。

ちょうど1年前、2022年の年末に、母は「多系統萎縮症」という、見たことも聞いたこともない、脳神経の難病だと診断がくだされた。まさかあの時は、また一つ屋根の下、母と暮らすことになるとは思ってもいなかったし、介護というものの大変さも知らなかった。

母のいびきは、今にも息が止まりそうな変な音がして、とても苦しそう。この病気の人は、寝ている間に無呼吸で亡くなる方もいると聞いて、1年前のわたしは、母のいびきを聞くたびに、明日起きたら死んじゃってるのではないかとひとり泣きながら眠りについたが、一年後の今やすっかり慣れたものだ。母の病を悲しむどころか、同居し始めた頃はそのいびきを厄介がって耳栓をつけていた。もはや最近においては、自分の疲労の方が上回り、耳栓なしでも全く気にせずそのまま眠りにつけるようになった。それが今のわたしである。母もわたしも、本当にいちばん可愛がりたいのは、自分自身なのであった。

紅白歌合戦も終わって、お寺の除夜の鐘がテレビ越しで鳴り響いているのをわたしは食卓で一人、クッキーの裏の品質表示を貼りながら見ていた。外ではビュービュー風や雨の音がしてなんだか落ち着かない。天気が悪いから、かくちゃんとの初日の出計画は無しになったけど、明日はかくちゃんも父もうちに来て、みんなでおせちを食べてのんびりするのだ。今はそれを楽しみにしている。

2023年を振り返れば、とにかくいろんなことがあったけれど、こうして最後の日までありがたいことに仕事があって、美味しい年越し蕎麦を食べることともできたし、おこわも炊いて、お刺身まで食べられた。好きなものをたらふく食べて2023年を終えられたこと、そして、すきなひとにまた会えることを楽しみにして眠りにつけることを、とても幸せに感じている。寝る前のストレッチとスクワット、余力のある日はお灸をしてから寝るのがだいぶ習慣化していて、今日もそうしようと思っている。

あぁ、2023年が終わったんだな、と思ったら心の底からホッとした。しんどいこともたのしいことも、ずっとは続かないということに、ものすごく安堵して、身体の力が抜けてふわっとした。2024年はとにかくたのしくわくわくすることがしたい。

母がうちに越してきて、介護が始まりちょうど半年が経つ。この半年は、日記がすっぽり空白の期間として残ったけれど、それはそれで必死に一生懸命生きた証として、わたしの中には大きく残った。これまでは仕事場で出会う人たちとの一コマから、その景色や感じたことを観察して描写するように日記に綴っていたけれど、家族との日々をことばにして書き残すには客観性にとぼしく、いろんな感情の荒波とともに乱雑に過ぎ去っていったのだった。

それでも、日記を書きたいという気持ちがいつもあった。

家族の老いも病も、悪いものではない。わたしたちは変わり続けているということに向き合わせてくれるし、今どう生きたいのかというひとつひとつの選択を、これほどまで迫られる機会もそうない。そして、母というひとりの人間について、よく知るいい機会になっている。病だからと憐れんだり悲しんだりするエネルギーはわたしにとっても、本人にとってもいいものではないと、よくよく学んだ。

この大変さは経験しえなかったものだったけれど、ドラマチックな日々のなかでも、結局、わたしたちは食べて飲んで排泄して、夜になれば寝て、朝が来たら起きる、ただそれだけなのだった。綺麗なことだけではないからこそ、必死なわたしたちがすこし間抜けに思える。本当に母のことも父のことも嫌い。でも、生きているってこういうことだよねと、気付かされて、面白かったりもする。

親の病や死を近く感じながらも、相変わらず、わたしは日々の取るには足らないことについて、悩んだり喜んだりしているし、いつだって今晩は何を食べようかと頭の隅では考えている。そんな自分の普通さにときどき安心する。結局、わたしだって母だって、どんなときでも守り続けていたいのは、そういう「わたしの普通」なのだと思う。
特別そこに意味があるとも思ってはいないけれど、散らかったまま駆け抜けてしまう、日々のちいさなできごとたちを、わたしの等身大のことばで掬い取れるようになれたならきっと、ただ今ある普通の生活を続けてゆくことへの励み、というか糧みたいなもの、になるんじゃないかな。

…と、すこし心のゆとりを取り戻した今、久しぶりに自分のノートを開いてみた、そんなあたらしい1年のはじまり。日記から広がることばを、形にとらわれずに、これからも書いてゆきたい。◯

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