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歌と舞台と日々と膜

吉田拓郎の歌に「え」とか「わ」とか「げ」とか
思ったきっかけは『おやじの唄』だった気がする。
いや、それともやはり、あの歌、あの方言の歌か。
どっちだ。わからん。
でも、どちらの歌も、なんだか、ふと、よく思い出す瞬間がある。
拓郎が好きかと言われたら別にそうじゃなくて、
いや、嫌いでもなく、好きなんだけれど、
そうじゃなく、それだけじゃなく、
両の歌は、なんだか、ふとした時に、頭の中に流れる。なんでなんやろな。
 
『おやじの唄』を知ったきっかけは、尊敬する小劇場の代表だった。
芝居で使っていた。
作・演出・主演を兼ねるその人は、
当時から関西小劇場で当時「鬼才」とか言われていて、
どの作品にも自身がパンツ一枚で走り回るシーンを入れておられたこともだが、
どの作品も、泥臭さと悲哀とアホな笑いががっちりがっつりだったことによる。
今は某事務所に所属され、映画界にも進出されて?
某映画祭で賞をとったりもされている。
役者として朝ドラにも出たりなんかもして、
偶然観て「わー!」と叫んだこともある。
 
友人たちが多く彼の作品に出演していたことから、一時期よく観ていた。
『王様大脱走』という、
人気で何度か再演もされた芝居のBGMが『おやじの唄』だった。
一番いいところで、この歌がかかる。
主人公が牢獄された牢には先客、
どっか知らん国のなんかよくわからん面倒臭いまっすぐな王様だ。
王様は脱獄したくて何度も挑んでその分刑期が伸びていた、200年ほど(笑)
王様はそれでも逃げようと頑張る。
嫌というほど現実を知り、ヒネクレるも、
でも王様と同じくまっすぐな主人公(代表である彼が演じる)は
王様の話を聞き、聞かされ(?)、
王様はそれでも逃げようとアホで無駄で必死な空回りと頑張りとを続け、
そして主人公は……王様は……。
当時も書いたが、あの「きっかけ」で流れ出す拓郎のブルースハープは
希望でしかないと思った。
自然と涙が出た。
芝居に、このような芝居を作った人の“人間観”に。
だから頭に残り、帰ってから調べて拓郎の歌だと知った。
 
別の芝居では『今日までそして明日から』を使っておられた。
これもとても「ぴたり」なシーンで。
だから帰って調べて、また「あ」ってなって、
つまり、拓郎がお好きなんだろうな、とも、なった。世代じゃないのに。
ということで、同じく、世代じゃないわたしも、「そこから」だった。
ような気がする。
 
一方、あの歌、あの方言の歌、というのは『唇をかみしめて』だ。
はい、きたー(笑)
わたしのまわりのおじさんたちにはタイトルだけで遠い目をする人が多い。
聞いても居ないのに語り出してくれる人も、少なくは、ない。
武田鉄矢主演『刑事物語』の主題歌だ。とは、わたしは後から知る。
わたしがこの歌を知ったきっかけは、旅芝居・大衆演劇の舞踊だったから。
変な「俺、俺」な自意識じゃなく、
どの曲も「ちゃんとその曲」な人が、踊っていた。
この歌を使っている役者なんて、他に居ないんじゃないか。
だって、踊れるリズムの曲じゃない。
でも、曲より目立つんじゃなく、でも曲をちゃんと、
というか、いつもそのようなひとが、踊っていた? 踊っていた。
だから、印象的で、
更にそこになんかなんだか〝滲み〟も出て漏れていた(ような気がして)、最後(引退したので)まで印象に残った舞踊のひとつだった。
拓郎が作詞作曲をした広島弁の、武田鉄矢が歌う歌。
これが、どぉしようもない。
どぉしようもなく、どぉしようもないから、
歌詞と、メロディーとが、べったりと、こちらに来る。
「おかげで」、もっと、来る。
わたしは人前であまりというかほとんど泣かない。
でも、涙が出た。この舞踊で。え、えっと、二度、いや、三度ほど。
 
歌詞は歌詞でしかない。
歌詞とメロディーをのっけた歌は、でも、ただ、歌でしかない。歌は歌でしかない。
歌もだが、なにかに寄せる想いというのは、
いや、そもそも他者の気持ちというものは、
わかったつもりだったり、わかった顔をしたって、わからんもんである。
いいとか悪いとかじゃなく、
うれしいとか悲しいとかそういうことでもなく、
それらすら超えた時点で。だって、他者だからね。
うん、わかるとか、わかったつもりなんて、
もしかしたら、傲慢の極みかもしれないのだ。
漏れとか滲みとか、とも、言ってみたって、
それはその人やそれぞれの受け取り方でしかないわけだし。
ふふふ。ふふふふ。でもね。せやんね。なんてね。
でも、そんなことを考えると、
いつも引用する・しがちな近松(門左衛門)言うところの
「虚実皮膜論」って、やはり、すげえ、すげえな、すげえよな。
芸の真実とは、
虚(フィクション)と実(リアル)との間に横たわるあわいのような、
透けて見えるほど薄い膜にひそんでいる、という論。説。
これを言うと、「何が嘘なんですか?」とか脊髄反射のように食いついてくる人も居るが、虚と噓は違うよ、あと、嘘って何? じゃない?
あと、これ、どのようなことにも当てはまると思うのだけれど、
舞台となると、また、ネットやSNS上、となると、
さらに、もうひと膜というか、何枚も? 皮が、あるように、
あるようでも、でもそれは皮や膜でありながら空気だったり、
空気だけどリアルだったり、リアルだったり空気だったり、あるよねえ。
今日までそして明日から。皆で。皆と。今日も元気でね。の、土曜日お昼です。



過去記事。空気の衣の話。


すごいすごい前の記事(笑)

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【略歴や自己紹介など】

構成作家/ライター/エッセイスト、
Momoこと中村桃子(桃花舞台)と申します。

旅芝居(大衆演劇)や、
今はストリップ🦋♥とストリップ劇場に魅了される物書きです。

普段はラジオ番組構成や資料やCM書き、
各種文章やキャッチコピーなど、やっています。

劇場が好き。人間に興味が尽きません。

舞台鑑賞(歌舞伎、ミュージカル、新感線、小劇場、演芸、プロレス)と、
学生時代の劇団活動(作・演出/制作/役者)、
本を読むことと書くことで生きてきました。

某劇団の音楽監督、
亡き関西の喜劇作家、
大阪を愛するエッセイストに師事し、
大阪の制作会社兼広告代理店勤務を経て、フリー。
lifeworkたる原稿企画(書籍化)2本を進め中。
その顔見世と筋トレを兼ねての1日1色々note「桃花舞台」を更新中。
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