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1冊の本、ひとつの舞台

タイトル、ちょっと濃い。
〝歌舞伎座の怪紳士〟
勿論あのミュージカルをもじって付けられたのであろうことはわかる。
けれど、漢字ばかりが並ぶからかな、
怪と紳士が並ぶと圧が強いよなあ、そこが、それが、ミソやんなあ。
そんなタイトルに反して、内容は、とても、とてもやさしい。
あたたかくて、やさしい話だった。ヒネクレ者のわたしでも何度かホロリ。
劇場と、人と、人びと、物語と「私」の話だった。
 
多作で知られる近藤史恵さん。
最近はドラマ『シェフは名探偵』の原作者としてご存じの人も多いのではないかなあ。
「ビストロ・パ・マル」シリーズ。
レストランを舞台に、日常の中のちょっとした謎がおいしい料理と共に描かれる。
ドラマもよかったけれど、原作も、ふわっと、やさしかった。
殺人事件や事故など大きな事件じゃなく、
日常における人びとの悩みや、人間関係、
ちょっとした気持ちのすれちがいやズレから起きる人情味のあるミステリーは
ほろ苦くもやさしく、甘かったり辛かったり。
ちょっと北村薫を思い出させる作風だな、とも思った。
 
歌舞伎や劇場にまつわるものもたくさん書かれていることは知らなかった。
調べると、芸大卒で、芸大時代は歌舞伎の研究をされており、得意の分野なのだそう。わあ。
 
『歌舞伎座の怪紳士』は、ほんとうに、なにげなく偶然、手に取った。
 
これもちょっとしたミステリー。日常と、人の情の作品だ。
劇場で、舞台を観て、舞台を観た「から」、の。
 
主人公は職場で不条理なトラブルに巻き込まれて以来、
気持ちがしんどくなってしまっている真面目ながんばりやさん。
常々「ちょっと苦手だなあ」と思っている〝しゃきっと〟〝ぴしっと〟した叔母から、
アルバイトのようなある依頼をされる。
 
劇場に行き、芝居を観ること。
 
観て、筋書(パンフレット)を買って、その感想を伝えること。
 
ほとんどは歌舞伎座での歌舞伎、
でも、新劇や、オペラなども、「依頼」の中にある。
叔母から届くチケットを持って、劇場へ赴く主人公。
歌舞伎という、今まで接してこなかった古い時代の人びとが描かれた物語が役者の体で描かれる芝居に、自分や現代を照らし合わせたり、
「わかるなあ」とか「それはわからないけれど、こういうことなのかなあ」と想いを馳せたり、そうして主人公は舞台の物語の世界へどんどんとハマっていく。
 
と、共に。
出かけた劇場で、さまざまな人と出会ったり、すれ違ったりする。
ちいさな「事件」たちに巻き込まれる。
そうして、人びとのこと、家族のこと、自分のことを、考えるようになる。
 
不思議なことが、ある。
 
いつも、同じ人と出会うのだ、劇場で。
 
劇場でちょっとしたトラブルに巻き込まれた際に助けてくれた紳士。
穏やかで大人なその人は、劇評を書く仕事の紳士だと知る。
でも、でも毎回会うのだ。
歌舞伎座だけじゃなく、え、この劇場でも、あ、ここでも。
 
ちいさなミステリーたちと、穏やかでやさしい謎の紳士との出会い。
すこしずつ前を向くようになってゆく主人公は、
どんな芝居を観て、どう感じて、舞台の上と中とまわりの、なにをみてゆく?
 
と、紹介するのは、ここまでにしておくけれど。
 
ああ。そうだ。そうなんだ。
 
舞台の上、演じられる物語の中の皆に共感したり、想いを馳せたりする時間。
と、共に、同時に、その物語を体感している、させていただいている物語をつくる世界と人。
今体感している物語と、今いる場所。
舞台上の役者、今このときを共にしている劇場の裏にいるひとたちと、客席にいるひとたち、
それは現実で、現実じゃなくて、あわあわとした、でも力強い時間なのだと、思うし、思ってきたし、とても思う。
一期一会というとベタすぎるが、ベタだろうとなんだろうと、今共にいるいろんな人びと。
だから、思うこと、浮かぶこと。皆と自分がいる。
 
いきなりぶっこんで申し訳ないが、
我が妹は心が弱い。ちょっとむずかしい。
我が母も弱いというかたいへんにむずかしい。
己は逞しく育ったものだなと笑ったり苦笑いをする。
これでも、ですが、わはは。
ああ、人間だな、人間やねんなあ、
というまた漠然とした言い方をしながらも、
ああ、もう、これらも、書いたりしなければ、してゆくことで、
誰かの何かになるかもしれないなとも思うようになった。
もう若くないし、
いろんなひとにいろいろ忖度しているのも、
できないしきれないくせにしているのもなんかもういいや、
みたいになったのもある。
血をわけた者の、むずかしさ。
いいとかわるいとかじゃなく、つながりと。
血のかかわりではない人びととの、
いいとかわるいとかじゃなく、距離と、つながりと。
ああ、わたしは、わたしもまた、
だから、劇場に生かされてきたのだと思う。
舞台や劇場があったから。
勿論、そこで笑えることも笑えないことも笑えないを通り越すようなことも
見聞きも体験もしてきたけど。
でも、なかったら、たぶん、気持ちという面で、生きてはこられなかったんちゃうかなー、なんて、大袈裟だけど大袈裟じゃなく。
そんなことも、最近とくに、ぼんやりとはっきり思うようになったこと。
 
ふと手にしたこの1冊が不思議で偶然は、ほわっと、とてもやさしかった。
 
今年の徳間文庫大賞2023にも選ばれた作品なのだそう。

1冊の本やひとつの舞台が、
人の気持ちを明るくあったかくしたり、
何かのきっかけや、生きる力をくれる、触れた人ひとりひとりに。
 
日々しんどいことやとき、ままならないこと、
途方に暮れることも多々過ぎるけれど、
皆がちょっとずつ、ちょっとでも、
笑えること、楽しいことと共に、日々を過ごせますように。
 
明日からは、秋の大イベント、
京都東寺の劇場で、素敵な興行が始まります。
 
いろんないろんなすぎる皆が、劇場で、笑っているときが、
とても好きです。愛しいな、と、心から。

◆◆◆
以下は、自己紹介 。よろしければお付き合い下さい。

構成作家/ライター/コラム・エッセイスト
中村桃子(桃花舞台)と申します。

旅芝居(大衆演劇)や、
今はストリップ🦋♥とストリップ劇場に魅了される物書きです。

普段はラジオ番組構成や資料やCM書き、
各種文章やキャッチコピーなど、やっています。

劇場が好き。人間に興味が尽きません。

舞台鑑賞(歌舞伎、ミュージカル、新感線、小劇場、演芸、プロレス)と、
学生時代の劇団活動(作・演出/制作/役者)、
本を読むことと書くことで生きてきました。

某劇団の音楽監督、
亡き関西の喜劇作家、
大阪を愛するエッセイストに師事し、
大阪の制作会社兼広告代理店勤務を経て、フリー。

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lifeworkたる原稿企画(書籍化)2本を進め中。
その顔見世と筋トレを兼ねての1日1色々note「桃花舞台」を更新中。
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先日、ご縁あって素敵なWebマガジン「Stay Salty」Vol.33の巻頭、
「PEOPLE」にも載せていただきました。

5月1日から東京・湯島の本屋「出発点」で2箱古本屋もやっています。

参加した読書エッセイ集もお店と通販で取り扱い中。

旅と思索社様のWebマガジン「tabistory」では2種類の連載をしています。
酒場話「心はだか、ぴったんこ」(現在19話)と
大事な場所の話「Home」(現在、番外編を入れて4話)です。

noteは「ほぼ1日1エッセイ」、6つのマガジンにわけてまとめています。

旅芝居・大衆演劇関係では各種ライティング業をずっとやってきました。
文、キャッチコピー、映像などの企画・構成、各種文、台本、
役者絡みの代筆から、DVDパッケージのキャッチコピーや文。
担当していたDVD付マガジン『演劇の友』は休刊ですが、
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こちらのバックナンバーも、さきほどの「出発点」さんに置いています。

あなたとご縁がありますように。
今後ともどうぞよろしくお願いします。

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