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避暑地の猫(著:宮本輝)【どうしたの修平? 熱があるみたい。そうだ!お姉ちゃんが読書紹介してあげる(ルンルン)】

宮本輝先生が書いた、宮本文学を代表する一作でしょうかね。
人生が崩壊した人たちが、その世界を穏やかに再生していく物語です。
前半が崩壊の過程を描写していて、そこで人間の愚かさを嫌というほど書いておきながら、後半ではそれが不死鳥のように再生していく過程が描写されます。

うん、これは感動できる名作だ。
そして宮本作品はおしなべて、こんなのが多いのですが。

・・・・・
だがちょっと待ってくれ!
宮本文学がすべてふんわり癒し系かと思ったら大きな間違いだぜ!
宮本文学の中で、まさに太陽の黒点のような「悪」をテーマに描いた唯一の作品。
それがこいつだあ!

主人公は軽井沢の使用人家庭。貧乏です。
それに対して、雇う側は当然ながら金持ちです。
それだけならまだしも、主人公の家庭環境はいろいろとぐちゃぐちゃです。
美しい姉はご主人様と浮気しています。
最初はかどわかされたのかもしれませんが、開き直って金をせびることにしたそうです。
お母さんとお父さんは見て見ぬ振りです。
姉だけは主人公を甘やかしてくれますが。
主人公の性格は歪み、この世の闇を観るようになります。

しかも作中の悪に汚染されていく人々は、自分の悪を自覚できません。
悪がなぜ悪なのか。それは自覚無きがゆえに。
それが当然だと思っている人は、自己の悪にたいして鈍感なのです。

そして絶望によって精神免疫力が低下して、
悪という感染症に取りつかれます。

その結果、しまいにはその人の精神は悪によって置き換えられてしまう。

そんな感じで悪に染まった主人公は、自らの悪を自覚できないという悲しさを読者に見せつつも、最後まで流されていってしまいます。
結果、深刻な不幸にはなりませんが、
宮本文学アルアルな幸福な結末には決してたどり着けなくなります。
バッドエンドとは幸福の不在なり。
だが余韻がいい。
幸福などいらない。むしろ絶望させてくれ。それが救いだ。

絶望して精神免疫力が低下した人にとっては、
一種のワクチンのような小説です。
熱が出ます。
いや実際に出ます。
解熱剤は効かないタイプの発熱です。
ご注意ください。

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