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今押さえておきたいブロックチェーンの本質

◆はじめに◆

もうすぐ2018年も終わろうというところですが、今回は、近年話題の技術「ブロックチェーン」について、その仕組み本質をまとめてみました。

2017年は、5月の仮想通貨法(改正資金決済法)施行をきっかけに、大手企業各社が仮想通貨ビジネスに参入するなど、「ビットコイン元年」「仮想通貨元年」「ブロックチェーン元年」と呼ばれた年でした。

仮想通貨投資も過熱し、1年でビットコイン(BTC)の価格は約20倍まで急上昇しました。
しかし、2017年末をピークに、仮想通貨の価格は軒並み急降下
今年に入ってからは、価格の急落とともに、界隈の熱も一時期よりは落ち着いたように見えます。

「ブロックチェーンはもう終わった」といった声もちらほら聞こえますが、一方では「まだ始まってすらいない」という意見もあります。

今後、どのレベルまでブロックチェーン技術が拡大していくのかは分かりませんが、
この1年間で、ギャンブルや詐欺を目的にしていた層は大幅に減り(それでもまだかなりいますが)、純粋にテクノロジーとしてのブロックチェーンの可能性に注目している層が残ったような気がします。

個人的に、2018年はブロックチェーン実用化に向けて進む前に”ふるいにかけた”1年間だったと見ています。

実際、世界中でブロックチェーン関連のサービスの研究・開発は、今も拡大を続けています。

今では情報もかなり整理されてきて、ブロックチェーンのことを学びやすくなっています。
しかし、「正直なところよく分かっていない」という方も少なくないのではないでしょうか。

「トレードで一発当てたいわけでもないし、エンジニアになりたいわけでもないけれど、ある程度は理解しておかないといけない気がする」と、
漠然と焦りを感じている方は多いでしょう。

今さら「ブロックチェーンって何?」なんて言えない空気になりつつありますが、だからこそそんな方のために、ここでざっと整理してみたいと思います。

ブロックチェーンの仕組みについても一通り説明はしていきますが、
それよりも、そもそもどういう発想からこの仕組みになったのか、どういう考え方がベースにあるのかという本質的な部分を理解できるように解説したいと思います。


また、この記事をベースに、電子書籍向けに加筆修正したものをKindleで配信しています。
それに伴って、この記事も途中から一部有料化しました。
少々長い記事なので、是非ともKindleでダウンロードしてゆっくり読んでいだたければと思います。
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◆第1章◆

ブロックチェーンの根底にある考え方

この記事では、近年注目を浴びているブロックチェーンという技術について、その構造や事例をできるだけ網羅的に説明していきます。

その前に、まずその根底にある考え方を押さえておきましょう。

現在、世界には大小問わず様々なコミュニティが存在します。
コミュニティという言葉はいくつかの意味を持ちますが、
広義には「共同体」、つまり「何らかの共通点を有した人々の集団」を指します。
学校、会社、国、村、サークル、町内会、商店街、ゼミ、オンラインサロン、ファンクラブ……
例を挙げればキリがありません。

これらのコミュニティには、ほぼ例外なく、その集団を維持するためのルールがあります。
ルールといっても、法律・契約・条例・決まり・マナー・常識・暗黙の了解など、その形は様々です。

基本的には、コミュニティの中心となる管理者、ないしは管理機関がそのルールを定めたり、取り締まったりすることによって、全体の秩序を保ちます。

しかし、こういったルールも、常に正常に機能するとは限りません。
管理者が、自分に都合のいいようにルールを利用するかもしれません。
一部の人が極端に損をするルールになっているかもしれません。
時には、ルールに縛られることで窮屈になることもあるでしょう。

ブロックチェーンという技術は、その根底に、仕組みそのものでコミュニティの秩序を維持しようという考え方があります。

特定の管理者を中心にしたルールによって支配するのではなく、
各々が自分にメリットがあるように行動した結果、自然と全体にとってあるべき形になるような仕組みにしてしまおうということです。

そのために必要な「ルール」は「仕組み」に組み込んでしまえばいいというのが基本的な考え方です。

もちろん、そんなブロックチェーンも完璧ではない発展途上の技術ですが、
ベースにはこういった価値観があるということを、まずは押さえておいてほしいと思います。

では、ブロックチェーンという技術の概要をざっと見ていきましょう。


取引履歴を記録する台帳

ブロックチェーンは、「分散型取引台帳」の一種です。
「分散型取引台帳」とは、要するに、「皆の全ての取引履歴をまとめて記録するデジタル台帳」のことです。
(「分散型」の部分は一旦置いておきます。)

あるネットワーク上で行われる全ての取引履歴をひとつの台帳に順に書き込んでいき、そのネットワークのユーザー達で共有できるような仕組みになっています。

記録するのは「残高」ではなく「取引履歴」だというのがポイントのひとつです。

お金を例に説明しましょう。

従来の円やドルなどの通貨の場合、そのお金が証明出来るのは「残高」だけです。
今Aさんが一万円札を10枚持っているとしましょう。
そのお金をどのようにして手に入れたのか、何らかの記録によってその経緯を完全に証明することは、いつもできるとは限りません。
しかし、実際に物質として10枚の一万円札を持っている以上は、今Aさんが10万円持っているということだけは、(それが偽札でない限りは)真実であるわけです。

一方で、全てを仮想的な通貨の電子取引にして、その全取引履歴世界でひとつしかない台帳に書き込んでいくとすれば、
その記録を辿ることで、物質としての貨幣を必要とせずとも、その通貨の所有者全員の今の残高と、それまでの全ての経緯を信頼することが可能になります。
もし誰かが何らかの不正をして残高を操作しようとしても、どこかで履歴と辻褄が合わなくなるわけです。

このように、「残高」ではなく「取引履歴」を記録すればいいという発想の転換の上にあるのがブロックチェーンであります。

ところが、これが成立するためには、先述した「世界にひとつしかない台帳」の記録が、いついかなる時にも絶対に正しいと言える必要があります

この問題を、ブロックチェーンはそのデータ構造によって解決します。


「ブロック」+「チェーン」の構造について

ブロックチェーンはいくつかの取引履歴ごとにブロックに格納して、それらを順にチェーン状に繋ぐという独特なデータ構造を取ります。

データの塊をブロックにまとめるというのは、何となくイメージできるかと思います。
チェーン状に繋ぐというのは、どういう意味でしょうか。

各ブロックには、取引履歴の塊だけではなく、
それと繋がっている一つ前のブロックの情報の要約も一緒に格納してあります

各ブロックは、どのブロックと繋がっているか、そして、その繋がっているブロックにどんな情報が記録されているかという情報を持っているわけです。
それぞれのブロックは、他のブロックとの関連性によって成り立っているとも言えるでしょう。

すると、一度チェーンに連なったブロックのデータを後から書き換えたら、その後ろのブロックの情報と矛盾が生じてしまいます
もしデータを後から修正したり消去したりするのなら、その後ろに繋がっている全てのブロックを書き換える必要があるのです。

逆に言えば、後ろのブロックを全てを書き換えることができれば改ざんできてしまうのですが、ブロックチェーンの場合、それは非常に困難です。
なぜなら、ブロックチェーンのデータは世界中にいる多数のユーザーに分散して管理されているため(後述)、そのユーザー達を上回るだけの莫大な計算量がなければいけないからです。

理論的には改ざんや不正は可能なのですが、
それをすることに要するコストの方があまりに大きく割に合わないため、誰もそうしないというのが実際のところです。

それはともかく、後から書き換えられないのならば、本当に「正しい」といえるデータだけを記録していく必要があるということです。


皆で不正をチェックする仕組み

単に世界中の全ての取引履歴を一つの台帳に書き込んでいくだけであれば、
クラウド上の1枚の巨大なスプレッドシード(Excelのような表)に順に記録していって、誰もがそれを閲覧できるようにしてもいいはずです。

しかし、問題はそれが本当に「正しい」ものなのかということです。

そこで、ブロックチェーン上で取引を行うとき、一般的に、次のようなプロセスを踏むことになります。

まず取引は一時的に未完了のままプールされます。
その後、不正な取引ではないことを検証された取引が承認されると、ブロックチェーンに記録され、晴れてその取引は完了となる仕組みになっています。
検証といっても、実際にはコンピュータを使って高度な数学の問題を解くという作業をします。

この合意形成の仕組みをコンセンサスアルゴリズムと呼びます。
コンセンサスアルゴリズムには、PoW(Proof of Work)、PoS(Proof of Stake)、PoI(Proof of Importance)などの種類があり、
それぞれにメリット・デメリットがありますが、今回は踏み込むのはやめておきましょう。

※2019/4/8追記:
上のPoW・PoS・PoIの正式名称を、それぞれPloof of ~ と誤って表記しておりました。お詫び申し上げます。

なぜこういう仕組みが必要なのかというと、ブロックチェーンは管理者のいない非中央集権型の仕組みとして生まれたからです。
権利や責任を預かる管理者がいない以上、皆でちゃんと合意形成をしながら運用していかなければなりません。
前述したように、そこをルールやマナーで制御するのではなく、仕組みそのものでそうなるようにしようというのがブロックチェーンの根底にある発想なのです。


中央集権型と分散型(非中央集権型)

近年、ここまでブロックチェーンが注目を集めているのには、
従来のインターネットにおけるいくつかの課題が無視できなってきている中で、ブロックチェーンがその解決手段になり得るという背景があります。
(もちろんブロックチェーンにもデメリットはありますが、それについては後述します。)

現在のIT社会では、ほぼ全てのサービスやシステムが、特定の事業者や国家を管理者とする中央集権型の管理がされています。

信頼できる強力かつ善良なリーダーを管理者とする場合には、中央集権は非常に優れた仕組みとなります。
何らかの意思決定や仕様の変更・改善等をリーダーに委ねることにより、それらに要する時間的コストは最小限に抑えられます。
また、資金や人材といったリソースが集中することにより、技術的な進歩が非常に速くなるため、結果的に我々の生活も豊かになるという点も無視できません。
さらに、責任の所在が明確であるというのも、秩序維持の観点で重要なポイントです。

ただ税金や利用料を少しだけ支払い、あとはそのリーダーを信じるだけで、
私たちは中央集権型のメリットを享受することができます。

一方で、我々のパーソナルな情報や権利の管理も、実質的にそのリーダーに預けることになってしまいます。
もしその管理者が、悪意あるリーダー、あるいは、それらを守るだけの力を持たないリーダーだったら?
本来自分のものであるはずの情報や権利が侵害・悪用される可能性は、大いにあります。

現状、そういったことにならないように、その管理事業者は、常に機密性に気を使っています。
しかし、外からの攻撃の危険性に常に晒されている中で、彼らが負担することになる保管コストは決して小さくありません。

サービスを提供するために必要最低限の情報以外は、極力取らないようにするということも重要になります。

こういった問題は、IT化が進むにつれて、より顕著になっています。

あらゆるデジタルデータは容易に複製ができてしまうため、
連携や共有をするうちに、そのデータの出所・原本性・正確性・履歴などが曖昧になっていきます。
情報の二次利用が進む中で、そのコンテンツの創作や拡散に寄与した人が本来得るはずの権利報酬は、実質的に守られてはいないというのが現状です。

さらに近年では、中央集権型の巨大ITプラットフォーム企業が、情報やリソースを独占して強力になりすぎていることも、多方面から批判を浴びています。
特に個人情報のプライバシー保護に関するセキュリティ義務は、世界的に、急激に厳しくなっています。
(詳しくは「GDPR(EU一般データ保護規則)」で検索してください。日本も十分性が認定されたので、大小問わずほぼ全ての事業者が準拠しなければならなくなりました。)

こういった背景があって、特定の運営管理者にデータを預け、委ねる必要がない仕組みというのは、事業者側にとっても大きなメリットがあるのです。
権利を集中させない代わりに、負うべき責任も分散されるということですね。

ブロックチェーンは、(管理者の有無を問わず)権利と責任を集中させることなく、分散型(非中央集権型)で管理しながらも十分に信頼に足るシステムとして、必然性があって注目を浴びているのです。


ブロックチェーンの分散型ネットワーク

はじめに、ブロックチェーンは「分散型取引台帳」とも呼ばれると書きました。
ブロックチェーンが分散型と言われるのは、前述した非中央集権型であるということに加えて、そのネットワーク構造も分散型になっているという理由があります。

あらゆるデータのやり取りを中央管理者のサーバ(セントラルサーバ)を通す形のネットワークを、クライアント-サーバ型(C/S型)ネットワーク(The Server-Based Network)と呼びます。
対して、ブロックチェーンは、特定の中央サーバを持たず、ネットワーク上の各端末(ピアまたはノード)がサーバとクライアントを兼ねることで、
各ユーザー同士が対等かつ直接的にやり取りするピアツーピア(P2P)ネットワーク(The Peer to Peer Network)という方式を採用しています。

一緒に協力しながら、皆で情報共有相互監視している、くらいのイメージでとりあえず問題無いと思います。

なぜ分散管理ができるかといえば、特定の誰かが管理しなくてもそのデータが正しいと言えるからであり、
なぜ正しいと言えるかといえば、それは分散型ネットワークをベースにブロックチェーンの形で管理しているからです。
ややこしいトートロジーのようですが、つまり、仕組みそのものによって信頼性を担保しているのがブロックチェーンだということです。

ちなみに、SkypeLINEは、P2Pネットワークを活用することで低コストかつ高速な通信を可能にしているサービスの代表例ですが、
このことから分かるように、P2Pネットワークでも管理者を置くことは可能です。

P2Pとは、あくまで複数端末間の通信方式を指しているだけです。
「P2Pネットワークだから管理者がいない」という説明は間違いなので注意が必要です。
”管理者”の定義も少し曖昧なところですが......

ちなみに、C/S型ネットワークの場合も、大抵は、万が一に備えて管理者がいくつかのサーバに分けてデータを保存したり、バックアップを取ったりしています。
これもひとつの「分散」ですが、P2Pの「分散」とは意味が違いますね。


ブロックチェーンの暗号技術について

ブロックチェーンが安全だと言われる理由は、分散管理の仕組みによるだけでなく、暗号技術を用いた仕組みによる部分も大きく働いています。

一般的に、データのやり取りをする場合、次の3つの危険性があります。

盗聴(第三者に重要なデータを知られる)
改ざん(第三者にデータを書き換えられる)
なりすまし(第三者になりすまされる)

これらのリスクを小さくするために、暗号技術は使われます。

ブロックチェーンに記録される各取引には、その対象者によるデジタル署名が付与されます。
このデジタル署名は、公開鍵暗号という暗号技術が応用されています。
簡単に説明すると、自分しか知りえない鍵(秘密鍵)をつかって暗号化した署名を行うことで、
そのデータの作成者が自分であり、かつ別の誰かに書き換えられてもいないということを証明するのです。

したがって、そのを誰かに知られていない限りは、自分は誰にもなりすまされないし、自分のデータの改ざんもされないということになります。
(それはつまり、その鍵さえ手に入れてしまえば、その人に成り代わってデータを好きなように書き換えることができてしまうということでもあります。)

ちなみに、ブロックチェーンに使われている暗号技術には、一方向ハッシュ関数と呼ばれるものもありますが、ここでは説明は割愛します。
少々ややこしいですが、重要な役割を担っている部分なので、ぜひ調べてみてください。


◆第2章◆

仮想通貨の呼び方について

さて、ブロックチェーンにあまり詳しくない人でも、ブロックチェーンの代表的な用途が仮想通貨だということは知っているでしょう。
ブロックチェーンの話をするのに、これを無視するわけにはいきません。

日本では既に仮想通貨(Virtual Currency)という表現が定着しており、
資金決済に関する法律においても「仮想通貨」という表記になっていますが、これはあまり適切ではないと思っています。

資金決済に関する法律 第二条 5の1において、電子マネーは仮想通貨に含まれないとされているとはいえ、
Virtual(仮想)はPhysical(物質的)の対義語であり、
「仮想通貨」という名称では、実体としての貨幣を持たないデジタル通貨(いわゆる電子マネー等)を全て含むことができてしまいます。

と思っていたところで、案の定、名称の変更が発表されました。

この呼称変更には、ざっとこんな理由があるようです。

・G20などの国際会議における標準的な呼称に合わせるため。
・ブロックチェーンの根幹にある技術が暗号技術だから。
「通貨」という名称によって生じる様々な誤解を避けるため。
・むしろ「通貨」として用いられるもの以外も含めて、広く金商法で規制/管理するため。

ということで、以下「暗号資産」表記で統一します。


暗号資産とブロックチェーンの関係

現在、暗号資産はあくまでブロックチェーン技術を使ってできることのひとつでしかないという扱いになっていますが、
そもそも、ビットコインという仮想的な貨幣のやり取りを記録していくための台帳としてブロックチェーンが生まれたという見方もできます。
しかし、ブロックチェーンの方を主体として見てみると、暗号資産の実態を少し違う形で捉えることができます。

前述したように、ブロックチェーンが非中央集権型の分散構造になっています。
各取引は不正なものでないかどうか、皆でコンピュータで計算して検証することによって、信頼性を担保するようにしています。
したがって、その計算をする人には何らかの形で報酬を与えなければ、その仕組みを維持することは難しいはずです。
つまり、ブロックチェーンを正常に維持するのを手伝ってくれる人への報酬として設計されるのが暗号資産なのです。

つまり、暗号資産はブロックチェーン技術の副産物的な位置付けになるわけです。
そして、これが単なる電子マネーと暗号資産の違いでもあります。

ちなみに、この報酬の源泉は、「新規発行通貨」や、各取引毎に徴収される「手数料」によって賄われます。

ブロックチェーンに記録するデータが何であれ、
そのブロックチェーンの維持に必要なリソースを提供してくれた人に何らかの価値ある報酬が支払われるようにデザインすれば、その報酬は「通貨」となりえるでしょう。

例えば、イーサリアムというブロックチェーンは、スマートコントラクト(後述)というユーザーが規定した任意の契約の履行履歴を記録する台帳です。
実は、イーサリアムというのは、そのブロックチェーン(ないしはそのプロジェクトそのもの)を指す名前であって、
イーサリアム内で報酬として設計されているネイティブ通貨は、正しくはイーサ(Ether/ETH)という名前になっています。

とはいえ、暗号資産の方を指して「イーサリアム」と言うケースも実際には多いので、
ブロックチェーンの方を指す時には、「イーサリアムのブロックチェーン」や「イーサリアム・ネットワーク」などと区別するのが一般的です。

このように、他のブロックチェーンについても、ブロックチェーンとそのネイティブ通貨の名前が異なることがあるので、注意が必要です。

ただし、ブロックチェーン技術そのものは、暗号資産の実装なしでも設計・運用可能であるということは覚えておいてもいいかもしれません。


暗号資産は「お金」になりうるのか

そもそも「お金」とは何か、ということを考えるととても長くなってしまうのですが、
暗号資産の登場が、こういう議論が増えるきっかけのひとつになったことは事実でしょう。

「お金」の本来の役割は、「価値交換媒介物」です。
つまり、本来は物々交換によって直接的に価値の交換をしたいところですが、いつでもお互いに交換したいモノを持っているわけではないので、
価値の保存をする何かを使って、その価値交換を媒介する必要があり、それが「お金」だということです。

したがって、それが石であれ金属であれ紙であれ、
それを使う人達が、互いにそれに価値があると信じさえすれば、それは価値の保存機能を持ち、「お金」になるのです。

基本的に、「お金」となりうるものは、容易に生成・変化・消失しないという条件が求められます。
そういった意味では、ブロックチェーン上で通貨を運用するというのは、決してありえない話ではないと考えています。
あとは、ブロックチェーンという仕組みそのものを、人々がどれだけ信用できるか次第です。

ただ、実際にそれを通貨として使える場がどれだけあるのかという観点で、
まだほとんど実社会で価値交換を媒介できない状態であるにも関わらず価格が跳ね上がっていた2017年末の状況は、
将来を見据えた先行投資だったとはいえ、実態との乖離があまりに大きかったと言わざるを得ず、いわゆる「バブル」の状態だったというのは間違いないと思います。


トークンエコノミーとは

その「お金」を使える場がどれだけあるのかというのは、通貨の価値を評価するポイントのひとつではありますが、
この社会には、ごく限られた特定の場所でだけ、あるいは特定の商品やサービスとだけ交換できる「お金のようなもの」も多数存在します。

この「お金のようなもの」、すなわち特定の価値と交換できる引換券のことをトークンといいます。
証票代替貨幣と訳されることもありますが、利用されるシーンによって定義が変わる言葉でもあり、掴みどころがない概念でもあります。

身近なところでは、Suicaにチャージされた電子マネーやTポイント、Amazonギフト券、株券、商品券がトークンにあたります。
トークンは、特定のコミュニティ・用途において「お金」のように振る舞いますが、
基本的には、(実際に使ってもらえるかどうかは別として)企業や個人が自由に発行することができます。

円やドルも特定の地域でしか使えないじゃないか、と思うかもしれませんが、いわゆる法定通貨は用途を特に制限せずに発行されるのに対し、
トークンは、発行される時点でその用途を明確にした状態で発行される点が根本的に異なります。

使える場面が限られているトークンは、法定通貨と比べて通貨機能が弱いように見えます。
しかし、むしろ交換可能な価値対象が明確に定められているため、その価値が分かりやすいという面もあり
価値と直接したトークンを中心にするということは、価値そのものを中心にして、ごく自然な形で経済が成り立つということでもあります。

このようなトークンを媒介して価値循環する経済を、トークンエコノミーといいます。

さて、ブロックチェーン関連の議論では、ほぼ必ずこの「トークン」という言葉が登場しますが、
ブロックチェーンの世界では、もう少し限定的な定義がされています。

ブロックチェーン上で発行・運用される「お金的なもの」の中で、
独自のブロックチェーンを有し、そのブロックチェーンの作られた時点で始めから設計されているものをコイン(Crypto CoinまたはCrypto Currency)と呼び、
既存のブロックチェーン上で、発行・運用されるものをトークン(Crypto Token)といいます。

トークン自体は、企業や個人が自由に発行できるものですが、広く安定的な運用を考えると、その管理は決して簡単ではありません。
しかし、ブロックチェーンの仕組みの上でトークンを発行すれば、見知らぬ第三者との間でも、安全性・透明性・信頼性を担保したままトークンを運用することができます。
さらに、これまで明確にその価値を可視化できなかったものをトークン化したり、1円に満たない価値単位のトークンをやり取りしたりすることも可能になります。

何だか分かるような分からないような...... といった感じでしょうか。
第3章では、もう一度ブロックチェーンの本質と全体像を整理した上で、もう少し具体的な活用方法を探っていきたいと思います。


◆第3章◆

ブロックチェーンの本質と全体像

ここまでブロックチェーンの仕組みや考え方を中心に説明してきましたが、改めて全体像を整理してみましょう。

まず、ブロックチェーンにおいて最も基本になる考え方というのは、
「ルール」を「仕組み」に組み込むことで、「仕組み」そのものによってその秩序を維持しようというものでした。

そんなブロックチェーンの根幹にあるテクノロジーは、次の2つです。

暗号化技術
・公開鍵暗号/デジタル署名
・一方向ハッシュ関数

分散ネットワーク技術
・P2Pネットワーク
・コンセンサスプロトコル
分散タイムスタンプ

こういった技術の上に作られたブロックチェーンは、以下の3つの特徴を持ちます。

自律分散台帳(非中央集権)
・情報共有と相互監視による仕組みそのものによって信頼が担保されているからこそ可能。
・データを預ける側/預かる側の双方にメリットがある。

トレーサビリティ(追跡可能性)
・全ての取引履歴を記録するため、元を辿れば全ての過程を把握することが可能。
・透明性を担保できるため、事業者/ユーザーも情報に対して平等な関係で運用できる。
・自分が生成したデータの権利を守り、自ら主体的にコントロールできる。

改ざん耐性(不可逆性)
・ブロック+チェーンで成り立つ仕組みによって担保される。
・改ざんできないというのは、一度記録されたデータは元に戻すことができない(消去も修正もできない)、つまり不可逆であることを意味する。
・ただし、「絶対不可能」ではない。あくまで「耐性」があるに過ぎない。

さらに、こうしたブロックチェーンを活用した仕組みとしてよく挙げられるのが、スマートコントラクトというものです。

スマートコントラクトは、広義には、契約に関する情報をプログラム上に記録し、条件を満たした場合に、即座にその契約が自動(強制)執行されるような仕組みをいいます。

この概念自体は別にブロックチェーンの専売特許というわけではないのですが、
非中央集権・追跡可能・改ざん耐性といった特徴を持ったブロックチェーン上でスマートコントラクトの仕組みを実装すると、
第三者の仲介や前提となる信頼関係を必要とせずに、直接的に取引を行うことが可能になります。

漠然としていて分かりにくいかもしれませんが、
要するに、「○○が起きたら確実に△△する」というルールを自動実行するプログラムです。

ブロックチェーンは、仕組みそのものによって維持する仕組みを目指す姿勢がベースにあると書きましたが、
追加で必要になるルールについては、スマートコントラクトという形で仕組みに組み込むことで、自律的に機能させることができるということです。

さて、これまでに挙げた特徴やトークンとスマートコントラクトを組み合わせると、暗号通貨以外にも、様々な利用が考えられます。


以下、有料部分になります。
「おわりに」で紹介している参考記事・サイトなど、Kindle版には含まれない内容もあります。
また、Kindle版にはnoteで説明を省いたテーマも含まれています。

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