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ドラマおぼえがき 『あなたのブツが、ここに』 #テレビドラマ感想文

またしてもやってくれたぜ。NHKドラマ。
ヘビーTVウォッチャー・瑞野蒼人です。

先週最終回を迎えたNHKの夜ドラ『あなたのブツが、ここに』。

夜ドラ枠と対を成す老舗『朝ドラ』が脚本素人が見ても目を当てられないレベルの惨劇を牧歌的な沖縄家族のハートウォーミングストーリーを繰り広げる中、相対的にぐんぐん評価が上がっていくというYouTubeで例えるところのヒカキン状態となったわけであるが、そういったゴタゴタを差っ引いても超良作だった。


主人公のシングルマザー・山崎亜子(演:仁村紗和)は、キャバ嬢として働いていたが、店では腫れ物のような存在になっていた。おまけに折からのコロナ禍で収入も激減。娘の咲妃(演:毎田暖乃)を育てていくために宅配ドライバーへの転身を決意し、癖の強い同僚や客と大立ち回りを展開する。

事実にしっかり裏打ちされたドラマの内容、よどみのないストーリー展開、そして何より演者のガチ感が凄かった。ガチ感?熱量?なんと表現するのがベストなのか難しいが、とにかく画面から『この作品を少しでも世に届けたい』という思いが透けて見えるほど、出演陣の演技は凄かった。一ミリも侮ることなく、配送業へのリスペクトと作り手としてのプライド全開で、ドラマの世界を描いていた。

こんなご時世を描いたドラマなだけに
胸を抉るような辛いシーンも山ほどあった。

とりわけ私がしんどかったのは、亜子を何かと気にかけ好意を抱いていたミネケン(演:佐野晶哉【Aぇ! group】)という男が、仕事中に大きなトラブルを起こして会社を去るというシーン。配送業が抱える大きな責任、安全という使命、それを嫌というほど誇示されているような感じがして、目を背けたくなるぐらい辛いシーンだった。

主演の仁村さんに至っては主演が決まってから実際に夜の店で働くキャバ嬢と話をしたり、自動車教習所へ通い詰めて普通免許を取ったらしい。この逸話を聞いたときには私もぶったまげた。体重の減量・増量、筋肉トレーニングなどの次元なら聞いたことがあるが、そういったことまで役作りを徹底しているのかと感心し、それによってよりこのドラマを好きになった。

夢や希望を描くなら、どんな文芸作品でもできる。でも、社会のどうしようもないほどのリアルや、事実や、過酷な運命がなければ、夢や希望は語れない。負の感情がいくつもあってこそ、成功した時の表情というのは脳裏にしっかり焼き付いてくれる。『あなブツ』は、引くほど現実に忠実で、でも両手に余るほどの生きる希望を持たせてくれる作品だった。


もともとは『キャバ嬢が宅配ドライバーになる話』というだけの発端で、コロナ禍と絡める予定はなかったというこのドラマ。脚本・演出サイドの必死の取材と緻密な構成が功を奏し、これほどの良作となっただけに、その時の判断を私は多いに称えたいと思う。

ドラマを成功に導くのは、何よりも脚本と演出の情熱であり熱量。そのことを切に学んだ2022年夏クール。素晴らしかったです、『あなブツ』。


余談だが、ドラマを見てない人もぜひこれだけは見てほしい。

月曜~木曜の帯ドラマで、月曜日だけこのオープニングダンスが流れるのだが、これがまた最高だった。この世で一番憂鬱で、ドラマの展開も一番憂鬱になる月曜日だったが、このダンス見てたらなんか元気出るので今後も隙あらば見て行こうと思う。

さて、目前の秋クール。目を付けているだけでも『舞い上がれ!』『エルピス』『霊媒探偵』『silent』『ファーストペンギン!』『PICU』と、注目作が山ほどある。また気が向いたら、覚え書きを書こうと思うので気長にお待ちくだされ。



おしまい。



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