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映画『サマーフィルムにのって』を観た話。

【注意】本記事には、劇場公開中の映画の結末などを含んだ #ネタバレ となる内容が書かれています。鑑賞予定の方はその点に注意していただき、お読みくださいますようお願いいたします。

私自身、昔は映画を全く観ない人間だった。年に一回映画館で見ればいい方、中には全く映画を観た記憶のない年もあった。正直、今では映画なしの人生を考えられない。劇場に足を運べば大量のチラシを持って帰り、一日に数本の映画を見るために近くの映画館をハシゴしたり、暇さえあればプライムビデオをチェックしたり。

今年の夏は、まさに映画漬けだった。
なんなら映画を自分で撮りたいと思ってしまったレベルに。


映画「サマーフィルムにのって」。

2021年8月6日公開の日本映画。主演を務めるのは女優の伊藤万理華さん。彼女は現在放送中のテレビ東京系・深夜ドラマ「お耳に合いましたら。」でも主演を務めている、注目の若手女優だ。

主人公は、映画研究部に所属する時代劇オタクな高校三年生、ハダシ(演:伊藤万理華)。彼女は部活などほったらかしで、同級生のビート板(演:河合優実)、ブルーハワイ(演:祷キララ)とつるんで河川敷の秘密基地で愛する時代劇を観まくる毎日だった。というのも、ハダシは秋の文化祭に向けて時代劇を作るために脚本を作っていたが、キラキラした恋愛映画に大惨敗。以来、1ミリも理解できない恋愛映画にのめり込む部員たちにウンザリしていた。そんなある日、行きつけの映画館で時代劇を観終わったハダシは、ある男(演:金子大地)と出会った。その男はまさに自分が書いた脚本「武士の青春」の主演・凛太郎役にあまりにもハマっていた・・・。


とにかく、話の疾走感が凄かった。

自分の夢どころか、好きなものすら声高に宣言できない形見の狭さにくすぶりつづけていたハダシの情熱。それが、凛太郎と出会うことによって一気にスパークしていく。ただでさえノウハウが失われ予算も準備も何もかもに手間のかかる時代劇映画を高校生が制作するというハードモード全開な状況ながら、ハダシはアグレッシブに周囲の人間を巻き込んでいき、転がるように撮影へなだれ込む。

まさに一瞬の無駄もないこの展開がとても素晴らしかった。自分を抑え込み、時代劇好きを隠そうとしていたハダシが全てから解き放たれていく姿は、あまりにも眩しくて、こんな青春が送りたかったと思わされてしまう。なにより、ハダシの周囲に好きなものを肯定してくれる人がこんなにもいることがうらやましくて、嫉妬してしまうほどだ。

また、「武士の青春」をロケする「ハダシ組」も、予算なし、人手もなし、経験もなしの曲者揃いな急造チーム。時代劇がテーマなだけに、どこどなく「七人の侍」を意識しているかのような変わり者っぷりである。映画のえの字も知らないようなド素人だが、ド素人なりに味のある演出と知恵を絞り、「武士の青春」を作りあげていくのである。映画の根幹たる「ゼロからイチを作り上げていく」を体現するような筋書きで、実に巧妙だなと感じる。


また、ストーリーにも青春もの×チームもの×時代劇×恋愛×SFという感じで、もはやどれが一番の軸なんだかわかんないぐらいたくさんの映画要素が盛り込まれており、好みの別れはあるだろうがどの層にも必ず刺さるシーンがあると思う。

個人的に熱かったのは、ハダシと敵対する恋愛映画チームの監督・花鈴(演:甲田まひる)が、夜中の部室で背中を合わせて編集を行っているシーン。物語序盤では、花鈴組には「本当に真剣に映画を作る気があるのか」「子供のおままごとじゃねーんだぞ」と疑問を抱くところが何度も何度もあったのだが、それはあくまでも表面的な印象にしか過ぎなかった。花鈴監督はその姿とは裏腹に、揺るぎのない信念とプライドを持ってラブコメを撮っていたことが明かされる。その姿に思わず熱いものが胸にこみ上げてきた。

そのことを考慮すれば、中盤に花鈴がハダシ組に言い放つ「ごめん、眼中に無かったや」というセリフも理解できる。花鈴とハダシはお互い、作るものも向いている方向性もベクトルも全く違う。それだけに、「互いを意識する」というよりは、視界にも入れずただ自らの作りたいものを信念に沿って作るだけだ、という考え方がにじみ出た鋭い一言なのだ。


一方、この先を未来を憂いざるを得ないシーンもあった。

凛太郎が実は未来から来たタイムトラベラーで、未来では映画が消滅してしまっているということが中盤に語られる。この映画は2019年に脚本が執筆され、撮影は2020年の頭。未知の疫病が流行ることなど全く考慮していなかった筋書きなのだが、図らずもそのことによる影響を意識させるような内容であった。外出はできない、娯楽は二の次、家でも映画が楽しめる、テレビよりも時間の短いYouTubeが一般的になる。2時間席に座ってじっくり物語を楽しむ映画は、もはやスタンダードな娯楽とは言えないのかもしれない。というより、言えなくなるのかもしれない。

大切なものを失う前に、今何を追いかけるべきなのか。

「二度と戻らない青春時代」という名前の便箋を使ってしたためられた未来へのメッセージとも言える「サマーフィルムにのって」。令和時代の青春映画の新機軸であり、金字塔だと、私は思う。


なお、本作は8月公開のため9月16日(木)・17日(金)を以て、終映となる映画館が多い。もしご覧になられたい方はお近くの上映館情報をお確かめいただきたい。詳しくはこちらから⇩


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というわけで、今回は映画「サマーフィルムにのって」のレビューでした。

引き続き、読者の皆様から映画レビューのリクエストを受け付けております。この作品をレビューしてほしいというリクエストがありましたら、下のURLから「募集のお知らせ」に飛んでいただき、コメント欄の方に投稿をお願いいたします。瑞野が責任を持って、レビューさせていただきます。



おしまい。