ユニコーン

暴力の連鎖 たったひとりのスケープゴート

母さんが怒った。そして長女に暴言を吐いた。

そしたら、その母親から受けたネガティブなエネルギーを解消しようと、今度はその長女が弟の頭を叩いた。

母親という上層から流れ出てきたものは、長女の元に流れ込み、その長女の元に流れ込んだものは、一番下の弟の元に流れていった。

姉を通して弟に流れ込んできた母の怒りのエネルギーは、弟の心の中で激しく暴れ回る。幼い弟はそれをどう自分の中から逃がしたらいいのかがわからない。

母や、姉の様に何かにぶつけて発散すればいいのだが、それがまだ幼すぎる弟には、どうしたらいいのかがわからない。でも、自分の心は確実に死にかけている。苦しくてたまらない。

母という上層から流れてきたこのエネルギーをどうやって解消したらいいのか?弟はわからない。しばらくして、弟は気が付いた。自分が大切にしているぬいぐるみを持ち出して、その無抵抗なぬいぐるみを弟は床に叩き落として、それを足で踏んだ。

いつも大切にしているものに、敵意を向けて、そこに暴力を振るう事で、何とか弟は母という上層から流れてくるそのネガティブなエネルギーを自分の中で解消した。というよりかは、自分のぬいぐるみにそのエネルギーを吸収させた。

ぬいぐるみを蹴ったり、投げたり、踏みつぶしたりしていると、それを見た母親が、それを叱る。何故、この様な事をしたのか?と。あなたは暴力的な子ねと。

こうした現象を起こすその原因を作ったのは親である自分だともわからない無知な親は、ただ目の前にあるその現象だけを見て子の価値を決める。

私たちはそうやって親に幼い頃から、悪い子だ!というレッテルを張られてきた。

目の前に現れる現象。それにはちゃんとした意味がある。でも、その意味というものを何も汲もうとしないで親は、目の前にある事だけで物事を判断しようとする。

子というのは自分が何故そういった事をしたのか?をただ上手く表現できないだけ。理由もなく自分の大好きなぬいぐるみに暴力を振るったりはしない。彼らはただ自分の中で渦巻くその何とも言えない感情を上手く言語化する事が出来ないだけだ。

彼らが自分よりも弱いものに、暴力を働くとき、それはその弱いものに、自らの内にあるその何とも言えないエネルギーを吸収してもらおうとしているに過ぎない。

自分の中で昇華する事が出来ないエネルギーを彼らは暴力という行為を通して昇華させようとしている。

親から流れてきたものを心の中にとどめておくと、その自分は簡単に壊れてしまう。皆、自分を守るために必死。親から引き継いだものをどうやって別の所に渡すのか?誰に引き継がせるのか?それが失敗すれば、自分が死ぬ。

親が投げた時限爆弾をその子供は自分の所で爆発させるわけにはいかない。だから、その親から受け継いだその時限爆弾はすぐに誰かに渡さないといけない。兄弟がいれば、自分より力の弱い兄弟の元にそれらは引き継がれる。

こうした時限爆弾は大抵一番幼いものの所で爆発する。最も力関係の弱いものの元で爆発する。

何人か兄弟がいても、それぞれの持つ性格でもそれは変わる。

どんなに幼くても、要領のいい子供はたくさんいる。兄弟の中でももしかしたら、一番幼い子が策士だったりもする。そうなると、その時限爆弾は、一番力の弱いものの所にいって爆発する。

優しくて、おっとりしていて、何処か呑気。そういう子が兄弟の中にいれば、まさにそう言った子が家の中で生まれた時限爆弾をいつも受け取る事になる。

暴力というものは連鎖していく。そして連鎖していって、それを大概食い止めるのは、心の優しい何も言えない子だったりする。

自分で生み出した時限爆弾は、自分で処理しろ!とそう言いたいところだが、こういった者は一回自分の生み出した時限爆弾が、自分以外の所で爆発すると、いつもそこで爆破させようとするようになる。そうすれば、いつも自分は傷付かなくて済むからだ。

親は自分で生み出したものを子へ。そしてその子も兄弟間で時限爆弾を回す。上手く回避出来ればいいが、たいてい要領の悪い子が、その時限爆弾をうけとってしまう。それで、そういった子は必要以上にその心を傷付けてしまう。

いつもその爆弾が自分の手元で爆発していると、その子はいつの間にか、その爆発に慣れていく。傷付く事に慣れていく。そしてそれを自分の使命であるかのように感じる様になっていく。そして自分でも知らぬ間に、自ら家庭内の爆弾処理班になっていたりする。そして、その強い使命感をもって日々、その爆弾集めを意欲的にしていたりする。

自分の元で爆弾を爆発させる事によって、自分は家族の皆を助けているような感覚をそうした子は覚える様になっていく。それが長く続けば自分がしなければいけないという義務感にまでそれらは高められていく。

いつでも、爆弾は私の元で爆発させなければいけないという強い義務感。絶対に自分以外の所では爆発させてはならないという強い義務感。

こうなると、もうこうした立場の子供というのは、何もかも全部自分のものとして引き受ける事を当たり前のことだとそう認識するようになっていく。家の中で起こった事、それによって生まれたネガティブな感情は全部自分のものとして引き受けなければいけないとそう思う様になっていく。

これがもっと高いレベルにまで登ってくると、もう家で起こった事を冷静に区別し、判断する事が出来なくなる。何もかもが全部ごちゃまぜになり、いつどこにいてもその全てを全部自分の責任だとして吸い込むようになってしまう。完全に盲目的になり、何もかも悪い事は全部自分のせいだ!といって、何もかも家庭内にある全てのネガティブなエネルギーを自分に引き込む様になる。

こうなると、もう、こうした子の目や頭は、何も正しく見る事も出来なければ、正しく判断する事も出来なくなる。

何もかも全部自分が悪いという事で落ち着こうとするようになる。何もかも全部自分のせいにすることが自分の役割であるかの様に思う様になってしまう。そうなると、周りにいる家族は、それを都合よく受け取り、家の中で何か悪い事が起こると、その責任を自分たちに見る事は避け、皆、あなたのせいだ!といって、吸い取ってくれるもののせいにする。

家庭の中には、いつもこうやって、何もかもそこにいる全ての人間の非を追うスケープゴートがいる。自分の行動、言動、思考、その全てを正当化して自分の身を過剰に守りたいとするものが、あまりそうした欲を持たないものをスケープゴートにしていくのだ。

家族とは時に残酷な集まりだ!!

自分を正当化する為に、一人をスケープゴートにする。それで、そこにいる家族は自分だけ救われようとする。

そんな家族が本当の家族であると言えるのか?

上っ面はもういい。いい加減本質を見る勇気を・・・・。


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