マガジンのカバー画像

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~ 明治維新編

89
【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~ の明治維新編をまとめます。
運営しているクリエイター

#明治9年

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#54

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#54

12 神の行く末(1)

 公儀の直轄領だった長崎は、鳥羽伏見での敗戦を受けて奉行が退去していた。そのため、無政府状態だったところ薩摩、長州、肥前、土佐といった長崎にいた藩士たちがとりあえずの行政機能を担っていた。その状況の改善が朝廷に働きかけられ、九州鎮撫総督の沢宣嘉の参謀として聞多は長崎に赴任することになった。
 総督府や裁判所(県庁)を開庁し、行政機能を図ることになった。五箇条の御誓文といっ

もっとみる
【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#126

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#126

23 成功の報酬(2)

 次の日、馨は、益田に会いに行った。
「色々すまんな。清算は進んどるか」
「はい、純資産がかなり残りました。井上さんやアーウィンの出資分を返金しても、末端の丁稚まで金を渡せそうです」
「それは良かった」
「で、やってもらいたいことがあるんじゃ」
「いつぞやの話ですか」
「昨日、三野村利左衛門が来た」
「三井の大番頭でしたね」
「海外と貿易をする会社を作りたいそうだ。それで

もっとみる
【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#127

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#127

23 成功の報酬(3)

 木戸の洋行の問題については、馨は三条公と大久保にもあって問題ないとの感触を得ていた。木戸とも話し合わねばならぬことが多いので早速会いに行った。
「木戸さん、体の具合はどうですか」
「あぁ聞多。いまはだいぶ良い」
「帝のご臨幸賜られたのお聞きしました。おめでとうございます」
「おぅそうだったのだ。恐れ多いことに染井の別荘にてお出ましいただいだ。私も思い残すことはない」

もっとみる
【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#128

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#128

23 成功の報酬(4)

「イギリスに送る荷物は出来上がったかの」
「武さんやお末のものも大丈夫か」
 同行する書生が改めて確認をした。
「大丈夫でございます」
「ところで、最低限の身の回りのものはあるよな」
「皆、持っております。ご心配にはおよびません」
「それでは、送り出すぞ」
こうして、馨の横浜の家はほぼ空になった。

 最後の確認を込めて、馨は木戸のもとに行った。
「木戸さん、準備はどうで

もっとみる
【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#129

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#129

23 成功の報酬(5)

 このアラスカ号は設備はよいが古いらしく、よく揺れる船で武子は船酔いに苦しんでいた。しかも、海が荒れて、ゆれは一層ひどくなっていた。あまりの事態に、武子は動けなくなっていた。
「ママは船酔いで動けんらしい。お末は父と食堂に行こう」
「ママは大丈夫ですか」
「大丈夫じゃ。わしがママの食べられそうな物をもらってきてやる」
と、二人で食堂に行き、武子のためにリンゴやバナナ、オレ

もっとみる
【小説】奔波の先に~聞多と俊輔~#132

【小説】奔波の先に~聞多と俊輔~#132

24 維新の終わり(3)

 その頃日本では、伊藤が益田孝のもとを訪ねていた。
「工部卿自らお出でになるとは、驚きました。狭いところですが、ごゆっくりしてください」
「ここが先収会社の事務所だったところですね。僕は入り口までしか来たことがなくて、井上さんが仕事をしているところを、見たことがなかったんです」
「井上さんがお使いになられた部屋は隣です。今は応接室として使っています。ただ、こちらの部屋の

もっとみる
【小説】奔波の先に~聞多と俊輔~#133

【小説】奔波の先に~聞多と俊輔~#133

24 維新の終わり(4)

 馨は家主のハミリーの助言を受けながら、経済学の本を読むことにした。そしてジョン・ステュアート・ミルの「自由論」の講義も受けた。他にも英語の教授のもとにも行き語学力を高めることもしていた。
 日課の散歩の一環として、日本公使館に顔をだすことも忘れなかった。留学生たちとの購読会はそういう日常の良いペースメイカーにもなっていた。しかも、その内容に即した議論をすることは、彼ら

もっとみる
【小説】奔波の先に~聞多と俊輔~#134

【小説】奔波の先に~聞多と俊輔~#134

24 維新の終わり(5)

 ドイツのベルリンの公使館には旧知の青木周蔵がいる。同じ長州だし、色々相談したいこともある。だが、青木は現在進行の問題を抱えていた。
「やぁ青木、いつ以来じゃの。一度帰国した時に木戸さんの所で会って以来かの」
「多分それくらいじゃないですか。それにしても、いつもお元気で」
「ふーんおぬしにはそう見えるか」
「何かずいぶん絡まれているような」
「聞いたぞ、白い肌の女人と良

もっとみる
【小説】奔波の先に~聞多と俊輔~#135

【小説】奔波の先に~聞多と俊輔~#135

24 維新の終わり(6)

 パーティの夜、武子は青い花を散りばめた、オーガンジーの生地を重ねたドレスをまとっていた。末子は可愛らしさをあわせて表現するかのような、桜色のドレスがとても似合っていた。二人をながめた馨は、満足だった。ドレスの美しさに負けない、武子の凛とした姿に見とれていた。
「馬車も来たことだし、行くかの」
 馨は、二人に声をかけた。馬車に乗る時に武子の手をとると、パリで買ったダイヤ

もっとみる
【小説】奔波の先に~聞多と俊輔~#136

【小説】奔波の先に~聞多と俊輔~#136

24 維新の終わり(7)

 約束通り、馨は公使館へ行った。青木は公使室に茶を運ばせると、しばらく誰も近づけないように書記官たちに命じていた。
「井上さん、お約束の品物です。こちらが武子さん用で、このリボンのほうが末ちゃん用です」
「お代はいかほどかの」
「お代は結構です。これをお読みいただいて、お話をお伺いできれば」
「それは」
「木戸さんからの文です。薩摩がきな臭くなってきたと」
「大西郷が、

もっとみる