#明治9年
【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#129
23 成功の報酬(5)
このアラスカ号は設備はよいが古いらしく、よく揺れる船で武子は船酔いに苦しんでいた。しかも、海が荒れて、ゆれは一層ひどくなっていた。あまりの事態に、武子は動けなくなっていた。
「ママは船酔いで動けんらしい。お末は父と食堂に行こう」
「ママは大丈夫ですか」
「大丈夫じゃ。わしがママの食べられそうな物をもらってきてやる」
と、二人で食堂に行き、武子のためにリンゴやバナナ、オレ
【小説】奔波の先に~聞多と俊輔~#132
24 維新の終わり(3)
その頃日本では、伊藤が益田孝のもとを訪ねていた。
「工部卿自らお出でになるとは、驚きました。狭いところですが、ごゆっくりしてください」
「ここが先収会社の事務所だったところですね。僕は入り口までしか来たことがなくて、井上さんが仕事をしているところを、見たことがなかったんです」
「井上さんがお使いになられた部屋は隣です。今は応接室として使っています。ただ、こちらの部屋の