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「出版業界のこの先」を議論する前に、「文学フリマ」に出展してみよう

2019年11月24日(日) に東京流通センターで開催された
第二十九回 文学フリマ東京」にブース出展して、大学時代に描いた絵本などを冊子にして頒布してみました。

飾り付けからして準備不足は明白で、さっぱり売れませんでしたが、今回の目的は「同人誌即売会に自らブースを出展して、自分が作った冊子を並べてみる」だったので、収穫はあり余るほどでした。

そして、強く思いました。

出版業界の人たちこそ、「文学フリマ」に出展してみてほしい!


そんな「文学フリマ」の魅力を、出版社に勤める編集者の視点からまとめてみたいと思います。

>>> 私が友人たちと主催した「ビズケット」についてまとめた記事
『ビズケット』(個人出版ビジネス書マーケット)に可能性を感じる理由
も合わせて読んでもらえると、より理解していただけると思います。

■マニュアル化できない文学フリマの凄さ

文学フリマの凄さは言い尽くせないほどありますが、
中でも、個人出版ビジネス書即売会「ビズケット」を主催してみた身としては、特に以下の3点に感銘を受けました。

1.出展者募集、集客から当日運営までの運営業務フォーマットの精度

2.会場全体を包むポジティブな空気

3.主催者・出展者・参加者、三者の視線の方向が一致していること


1は回数を重ねていくことでなんとかなっていくものです。
しかし、2,3は生半可なことでは作れません。

たとえば、来場者が6,000人を超えたことが当日の会場で発表された際、誰が指示したわけでもなく、広大な会場全体に拍手が広がりました。

ほのぼのとした出来事のように感じられるかもしれませんが、
驚異的なことです。

仕事・プライベート含め、これまでさまざまなイベントを主催してきましたが、毎回、この「空気」「意識」を作り出すことにどれほど苦心していることか。
それを、あれだけ広い会場で成し遂げているということは、とんでもないことです。

極めて抽象的なことだけに、言語化してマニュアル化できるようなものではありません。回数を積み重ねればできるものでもありません。
むしろ、やればやるほど乖離していくことさえもあります。

「文学フリマ」は、主催者とサポートメンバーが、相当の強い志と覚悟を持って取り組み続けているのだと思います。
(この「続けている」というところが、また凄いことです)

そうしたたゆまぬ研鑽を、出展者も参加者も無意識に近いところで理解しているため、場全体のベクトルが、ポジティブな方向へと一致していくのではないでしょうか。

実に凄いことです。

■クリエーターと受け手が循環する時代の好例

一方で、私が所属している「出版業界」という世界は、
「クリエイターと受け手がきっちり分かれていた時代」の仕組みのまま、制度疲労を起こしてしまっていると感じます。

>>> 以前の記事「出版界の行き詰まり感は、「既存の出版流通」の制度疲労だと思う」も参考にしてみてください。

「クリエイター」と「受け手」が混然として、くるくると絶えず入れ替わっている今の時代に十分対応しきれていないのが実情です。

そのことをリアルの場で、わかりやすく体感できるのが「文学フリマ」なのだと思います。

売り手(出展者)自身も買い手であり、
来場者が次の出展者となる。
そんな循環を出版業界も積極的に取り入れていかないと、先は細っていくばかりなのではないでしょうか。


同人誌即売会に代表される【紙の本のCtoC】に、
既存出版社が今、どのくらい本腰を入れて取り組むか
ーー
5年後くらいに振り返った時、ここ数年が重要な分岐点になっていると思います。

■既存出版業界の人たちこそ、文フリに出展してみよう!

出版業界の皆さん、「出版はこの先どうなってしまうのか」について議論を重ねるのも悪くないですが、
まずは個人で「文学フリマ」に出展してみることをオススメします。

漫画家さんたちは既に、同人誌即売会に強い興味を持つ人が、以前と比べて格段に増えているように感じます。
雑誌が減り、ウェブ漫画もギャラは安く、いつ切られるか分からない状況です。明日の食い扶持に直結するだけに、漫画家さんの危機感は出版社社員とは比べ物にならないほど切実です。

だからこそ、彼らの嗅覚のほうが出版業界の将来像をより正確に感じ取っているはずです。

【紙の本のCtoC】のインパクトを、出版業界の人が経験しなくていい理由はどこにもありません。

会場に足を運ぶだけでももちろん得ることはありますが、
自分で出展してみると見えてくる景色が全く違います。


いわゆる「同人誌即売会」は数多くありますが、
中でも「文学フリマ」は、仕組み、テーマ、雰囲気、いずれも既存出版社の人が初めて出展してみるのに適したイベントだと思います。

次の東京開催は2020年5月。
(100都市構想を掲げているので、各地ではもっと頻繁にやっています)

「紙の本が売れない」と嘆く前に、
「紙の本のCtoC」が今、いかに熱いことになっているか、ぜひ体験してほしいです。

本の未来を憂う前に、やれることはまだまだいっぱいありますよ!

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