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島那三月
2020年11月28日 01:53
「ノートを閉じている今、不思議と目に浮かぶのは、見知らぬ人々の生活を記した筆圧の弱い字より、その字を次の字へとつなぎあわせている余白の部分だった。」(本文114頁)久しぶりに青山七恵さんの作品を読みました。読んでみて思ったのは、やっぱり僕はこの人の小説が好きなんだなぁということでした。独立した風景が淡々と連続するだけではあるものの、読み取るべきは登場人物の心情だけでなく、その風景と風景
2020年11月11日 01:34
いつのまにか今年もあと2ヶ月を切ってしまいました。世間はコロナによって新しい社会の形を見直されつつも、なんとか一年間に幕を下ろそうとしています。今年はいろいろあって、個人的に一番大きな出来事だったのは、仕事を辞めたことでした。今もまだふらついた感じに生活していますが、その中でも本を読んだり小説を書いたりと、気長に生きながらえている次第です。今日は久々に本の感想を書いていこうと思いま
2019年4月28日 11:24
私の物語はどうしようもなく、彼に出会ったときから始まった。私が大切なひとつを、捨てないまま階段を上る物語は。彼と出会ったときから始まり、今もまだ続いている。(本文257頁より) ついに完結してしまいました。 2014年発売の「いなくなれ、群青」から始まった階段島シリーズの最新作であり完結巻、河野裕さんの「きみの世界に、青が鳴る」です。 昨日の記事を読んだ人なら知っているかと思いますが、
2019年4月24日 03:32
夢というのは、ふわふわした、素敵なものなんかじゃない。(中略)大変なことばかりで、それが報われる保証なんてどこにもない。それでいて、いつまでも付きまとう。忘れられるのなら、それはきっと夢じゃない。(本文209頁より)第二十九回小説すばる新人賞を受賞した、青羽悠さんの今作。十六歳の若さで受賞した文章を読むのは、正直、抵抗がありました。単純に言えば、嫉妬ですね。その気持ちは読み進めても変わ
2019年1月11日 02:44
椅子に深く身を沈め、目を閉じる。そしてそのまま眠りの中に入っていく。短いけれど深い眠り。それは彼女が長いあいだ求めていたものだ。(本文252頁より) 年が明けてから最初の投稿です。 正月ボケで色々と身の回りについておろそかになっていましたが、今後の創作のヒントを掴むため、今回は村上春樹さんの「アフターダーク」を読みました。 村上春樹さんの小説はほとんど通らなかった自分でしたが
2018年12月4日 02:38
みんなさ、いろいろなものを愛とか好きとか口当たりのいい言葉でおおって、見ないふりしてるだけじゃないかな?(本文230頁より)男女の恋愛をキャラクターそれぞれの視点で描くというのは、割とありがちな書き方かもしれません。それでも、それぞれのキャラクターを別々の男女の作家が書くのは珍しいと思いました。一方は直木賞候補作家、一方はミュージシャン。ありえそうでありえない。この組み合わせが描く
2018年11月10日 04:42
「俺、ポイントにならない何かを信じてる」(本文292頁より)まずは本編について。あることをきっかけに、その人の価値を示す点数=ポイントが見えるようになった主人公・青木直人は、クラスメイトのポイントを細かくノートにまとめることを密かな日課にしていた。青木は、ポイントの高いクラスの女子・成瀬に恋心を抱いていた。それを、クラスの中では低いポイントを持つ冴えない女子・春日にノートを見られたこと
2018年9月29日 17:39
読書感想です。今回は三秋縋さんの「君の話」です。発売したのはおよそ二か月前ですが、その前に一冊読み途中だったものがあったので、今回ようやく読めました。その一冊の感想も、もしかしたらTwitterなどで上げるかもしれません。三秋縋さんについては、今作以外ではデビュー作の「スターティング・オーヴァー」しか読んでいませんが、設定に拘る作風に強く惹かれました。今回を含めて二作品しか読んだこ
2018年7月7日 23:16
お久しぶりです。気付けば一か月ぶりですね。投稿が出来ず申し訳ないです。読んでくれている方がどれ程いらっしゃるのかは分かりませんが、読書感想を送ります。今回は葦舟ナツさんの「ひきこもりの弟だった」です。個人的に誰かのデビュー作を読むのが好きなのですが、この作品も随分と前から気にかけていたうちの一つです。ひきこもりの兄と、そんな兄を溺愛する母と、遊び半分で自分たちを生んで消えた
2018年6月3日 23:47
今回はミヒャエル・エンデ作の「モモ」です。同作者の有名な「はてしない物語」は以前に読ませていただきました。人が物語を楽しむ手段に、なぜ本という形が存在するのか。そして、物語が人にもたらす影響力について、とても考えさせられました。エンデの作品は勧められて読み始めたのですが、今回の「モモ」もそのうちの一つです。「はてしない物語」同様、大きく、そして普遍的なテーマを捉えていました。
2018年5月14日 19:33
今回も読書感想です。本当は創作をあげたいのですが、書く時間がうまく取れなくて…頑張ります。今回は川上未映子さんの「ウィステリアと三人の女たち」です。川上未映子さんの作品は好きで、何作が読んでいます。本作はハードカバーで最近発売されたため、少々手を出しづらかったのですが、読みたくてつい買ってしまいました。 毎度のことながら、その表現力に本当に魅せられてしまいます。紡がれる文
2018年4月28日 12:31
読書感想です。今回は宮下奈都さんの「羊と鋼の森」です。2016年の本屋大賞を受賞した本作は、今年6月に映画も公開される予定です。それに合わせつつ、自分も気になっていた作品だったので読ませて頂きました。調律師のお話、ということで専門的な会話や説明が多いのかと身構えていましたが、そんなことはありませんでした。答えのみえない、正解のない美しさや善さと向き合い続け、苦悩する調律師の姿は