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巳崎怜央
2022年7月27日 09:30
カナちゃんがお手洗いに行った隙に、私はスマホを開いて、新宿のデートスポットを調べ始めた。思えばデートなんて生まれて初めてだ。どこに行けばいいのか、何をすればいいのかなんて知らない。カナちゃんのエスコートを頼っていることが、しょうがないことだと思うと同時に、みっともないことだと感じた。「ごめんごめん、失礼しました」「どこか行きたいところある?」「うーん、キョウコの行きたいところに行きたい
2022年7月25日 08:33
(五)二回目のデート 翌週、私はカナちゃんに買って貰ったブラウスとスカート、更にはヒールまで履いて、家を出た。慣れない服装に、地元を歩いているうちは恥ずかしかったけれど、電車の窓に映る自分を見た時には、大人っぽさを満喫できるくらいの余裕が出来ていた。この黒いマーメイドスカートは、カナちゃんのチョイスだ。私はもともとスカートこそ好きだけれど、普段選ぶのは専ら質素なものなので、この類のものは新鮮に
2022年7月19日 08:33
店内のお客さんも減った頃、お待たせしました、とイケメンなお兄さんが持ってきたのは、ガッツリ重たいミディアムステーキだった。「五百グラムあるの。食べる?」「……私はいいかな」「バレー部の名残でさ、お腹すいちゃうの!」そう言うと、カナちゃんは迷わずナイフを切り入れた。あふれ出る肉汁に小さく呻り、フォークを持った手で小さなガッツポーズをする。白いワンピースと黒い鉄板が、冗談みたいに映えて
2022年7月15日 08:24
* 百貨店を出ると、空はもう真っ暗になっていた。客引きは無視だよ、と繰り返しいうカナちゃんに手を引っ張られつつ、私は疲れもあったからか、夢見心地に幸せを味わっていた。カナちゃんの案内でオシャレなレストランに入ると、カナちゃんはステーキプレートとチャイティー、私はとりあえず落ち着くからという理由で南瓜の冷製スープを頼まされた。店員さんがメニューを回収してからしばらくの間、カナちゃんは何も言わな
2022年7月13日 08:15
(四)初デート 平日の昼間なのに、新宿は人で溢れていた。私がその混雑に驚いていると、カナちゃんがいつもこんなだよと額の汗を拭った。前髪は額に引っ付かず、サラリと定位置に戻る。「デートなんて久しぶりだなぁ」「私もだよ」 電車で移動中、カナちゃんは沢山の人の視線を集めていた。女子高生の憧れの視線から、OLの妬みの視線、サラリーマンの下品な視線まで総なめだった。そんな彼女に今、彼氏はい
2022年7月11日 12:00
カナちゃんは浪人生で、私の一個歳上だった。やけに身長が高いと思ったら、中学高校とバレーボールをやっていたらしい。しかもミドルブロッカーで、チームで一番スタイルが良かったんだよ! と、彼女自ら教えてくれた。 私が先生と電話をしていた時、カナちゃんはホームのベンチに座って、みかんを食べていたらしい。これは受験生の頃から続けている毎朝のルーティンらしく、そこはさすがスポーツマンだなと感じた。そして
2022年7月7日 08:42
(三)カナです。 目を覚ますと、そこは駅員室のようだった。ゆっくり身体を起こすと、じわじわとした痛みが膝と肘、側頭部に蘇ってきた。「おはよう」高く澄んだ声が、正面から聞こえた。その短い挨拶を、私はいまいち聞き取れなくて、思わず、え、と聞き返してしまった。「おはよう。熱中症と脱水症状だって」今日暑いもんねぇ、と、細い手でパタパタ私を扇ぎながら、その女の子は笑っていた。簡素なショー
2022年7月6日 08:22
(二)失敗 高校生の頃は、大学生はみんなイカしている存在なんだと思っていた。イカしているというのは少し古い言い回しなのかもしれないけれど、でも古臭い言葉だからこそ、私は納得出来ていた。格好よくても格好悪くても、大学生は大学生だ。授業に出ないで遊びまくる大学生も、授業も遊びも器用にこなす大学生も、苦しい苦しい言いながら机に向かう大学生も、結局のところ皆、大学生という人生の夏休みをそれぞれ謳歌し
2022年7月4日 08:32
(一)みかんのスジ カナちゃんは、私の枕元に椅子を持ってくると、静かに腰を下ろした。それは病み上がりの私を労わりたいからというより、二人きりになった部屋で、ただ所在をなくしたからのようだった。「でも、元気そうでよかったよ」余程沈黙が気まずいのか、必死に言葉を紡ぐカナちゃんに、私は申し訳なさを感じた。黙り込む私に、カナちゃんは今日も思い出話を聞かせてくれる。苦しそうに言葉を選びながら、