巳崎怜央

ただいま一次創作百合小説『蜜柑』執筆中 ーーー 都内で役者をしたり、台本を書いたり、演…

巳崎怜央

ただいま一次創作百合小説『蜜柑』執筆中 ーーー 都内で役者をしたり、台本を書いたり、演出をしたりしています。

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  • 『蜜柑』

    ある女子大生の初恋の話 不定期更新 / 一次創作百合小説

  • 『蜜柑』一気読み

    長編連載中の『蜜柑』をひとまとめに

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みかんの白いやつってあるでしょ【『蜜柑』1. みかんのスジ】

(一)みかんのスジ  カナちゃんは、私の枕元に椅子を持ってくると、静かに腰を下ろした。それは病み上がりの私を労わりたいからというより、二人きりになった部屋で、ただ所在をなくしたからのようだった。 「でも、元気そうでよかったよ」 余程沈黙が気まずいのか、必死に言葉を紡ぐカナちゃんに、私は申し訳なさを感じた。黙り込む私に、カナちゃんは今日も思い出話を聞かせてくれる。苦しそうに言葉を選びながら、ただただ真摯に、私と向き合う。 「みかんの白いやつってあるでしょ? あるよね」

    • 『幸福サブスクリプション』|下・短編

       その後世界が変わるのに、そう長くはかからなかった。半年後に計上された下半期の自殺者・行方不明者の数は過去最高で、でもそんなこと言われないでも分かるくらい、明らかに子供の声が聞こえなくなった。景色が心なしか色褪せて、ほんの少し、街が臭くなった。  もちろんこうなるまでに、全くの抵抗がなかったわけではなかった。たとえば例の調査委員会が、「ブルーバードの服用を必ずしも否定するわけでは無い」という見解を度々認めてくれたり、厚生労働大臣が主導のもと、政府が手当たり次第の財政改革に励

      • 『幸福サブスクリプション』|上・短編

        〔ブルーバードは食後に三錠——〕 〔クサイ・エンドリフィンの良いところ——〕  会場の前の人達は、複数枚並ぶお節介な看板を横目に捉えながら、長い長い行列が消化されるのを待っている。ここはこの区唯一の、第12回目・定期カウンセリング会場。今日は平日ともあって、並んでいるのはサラリーマンやOLばかりだ。多分私と同じように、わざわざこのためだけに午後休を取っている——もしくは取らされている人達だろう。  クサイ・エンドリフィン。なんだか妙ちきりんな響きだけど、これはれっきとした

        • 自己紹介

          こんばんは、こんにちは、おはようございます。 巳崎 怜央(みさき れお)です。 2022.8.1時点での自己紹介を載っけます。 プロフィール 身長155cm 北国産まれ関東育ち 好きな地方は九州地方 都内在住 IT勤務 好きなもの  映画やアニメを見たり、音楽を聴いたり、読書をしたりすることが好きです。  今好きな映画は「ラ・ラ・ランド」「魔法にかけられて」「塔の上のラプンツェル」とかです。恋愛ブームです。あと最近見た中じゃ、「ゼロの焦点」(前まで砂の器っ

        • 固定された記事

        みかんの白いやつってあるでしょ【『蜜柑』1. みかんのスジ】

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        • 『蜜柑』
          9本
        • 『蜜柑』一気読み
          1本

        記事

          (日記) お昼時に深夜テンションになるこの現象ってなんなの

          これは日記です。てかもはや雑記です。 私元々、かなりの夜型なんですよね。 いや夜型っていうか、どっちかと言うと夜とか午後とか、一人でいる時間が大好き型なんです。一人が好きだからこそ、1人でいられる夜の方がテンションが高くなりがちで。対照的にやっぱり午前中は、どうしても眠くなったりとか、ごろごろしたくなっちゃったりで、この性はもうほんと昔昔から変わらないです。 またこれは別にテンションに限ったことじゃなく、本当に、何につけても夜の方が捗っちゃうんです。皆が寝たりご飯を食べた

          (日記) お昼時に深夜テンションになるこの現象ってなんなの

          あざとさの分だけ【『蜜柑』5. 二回目のデート②】

          カナちゃんがお手洗いに行った隙に、私はスマホを開いて、新宿のデートスポットを調べ始めた。思えばデートなんて生まれて初めてだ。どこに行けばいいのか、何をすればいいのかなんて知らない。カナちゃんのエスコートを頼っていることが、しょうがないことだと思うと同時に、みっともないことだと感じた。 「ごめんごめん、失礼しました」 「どこか行きたいところある?」 「うーん、キョウコの行きたいところに行きたい」 「女の子同士って、どういうとこにいくんだろう……」 「——あとは、やりた

          あざとさの分だけ【『蜜柑』5. 二回目のデート②】

          香りが好きなの【『蜜柑』5. 二回目のデート】

          (五)二回目のデート  翌週、私はカナちゃんに買って貰ったブラウスとスカート、更にはヒールまで履いて、家を出た。慣れない服装に、地元を歩いているうちは恥ずかしかったけれど、電車の窓に映る自分を見た時には、大人っぽさを満喫できるくらいの余裕が出来ていた。この黒いマーメイドスカートは、カナちゃんのチョイスだ。私はもともとスカートこそ好きだけれど、普段選ぶのは専ら質素なものなので、この類のものは新鮮に感じる。シルエットは女性らしいし、生地の薄い裾のあたりのレースも、すごくかわいい

          香りが好きなの【『蜜柑』5. 二回目のデート】

          『蜜柑』1.

          (一)みかんのスジ  カナちゃんは、私の枕元に椅子を持ってくると、静かに腰を下ろした。それは病み上がりの私を労わりたいからというより、二人きりになった部屋で、ただ所在をなくしたからのようだった。 「でも、元気そうでよかったよ」 余程沈黙が気まずいのか、必死に言葉を紡ぐカナちゃんに、私は申し訳なさを感じた。黙り込む私に、カナちゃんは今日も思い出話を聞かせてくれる。苦しそうに言葉を選びながら、ただただ真摯に、私と向き合う。 「みかんの白いやつってあるでしょ? あるよね」

          『蜜柑』1.

          恥ずかしさと楽しさがごちゃ混ぜ【『蜜柑』4. 初デート③】

          店内のお客さんも減った頃、お待たせしました、とイケメンなお兄さんが持ってきたのは、ガッツリ重たいミディアムステーキだった。 「五百グラムあるの。食べる?」 「……私はいいかな」 「バレー部の名残でさ、お腹すいちゃうの!」 そう言うと、カナちゃんは迷わずナイフを切り入れた。あふれ出る肉汁に小さく呻り、フォークを持った手で小さなガッツポーズをする。白いワンピースと黒い鉄板が、冗談みたいに映えていた。また前のめりの彼女は、押し当てるようにナイフを動かすもんだから、上手く肉を

          恥ずかしさと楽しさがごちゃ混ぜ【『蜜柑』4. 初デート③】

          『釣り』| 短編

           俺の叔父さんは海釣りが趣味だった。俺が帰省した時ですら、いつも決まって家を留守にして、日本中の海に行っているものだった。  対する俺は、インドア派もこれ以上ないほどのインドア派で、夏場の外出なんてありえなかった。これは三十超えた今だって変わっていない。動画見てゲームして、タイムラインを巡回して、また動画見るの繰り返し。こんな生活を続けていたもんだから、いつの間にかここまで肥えてしまったんだとも思う。叔父さんとは似ても似つかない、ぶよぶよな腹と腕周り。  ただこんな俺でも

          『釣り』| 短編

          チャイティーって混ぜるの?【『蜜柑』4. 初デート②】

           *  百貨店を出ると、空はもう真っ暗になっていた。客引きは無視だよ、と繰り返しいうカナちゃんに手を引っ張られつつ、私は疲れもあったからか、夢見心地に幸せを味わっていた。カナちゃんの案内でオシャレなレストランに入ると、カナちゃんはステーキプレートとチャイティー、私はとりあえず落ち着くからという理由で南瓜の冷製スープを頼まされた。店員さんがメニューを回収してからしばらくの間、カナちゃんは何も言わないで、私が落ち着くのを待ってくれた。時々、大丈夫? とだけ聞いてくれた。また少し

          チャイティーって混ぜるの?【『蜜柑』4. 初デート②】

          彼氏募集中【『蜜柑』4. 初デート】

          (四)初デート  平日の昼間なのに、新宿は人で溢れていた。私がその混雑に驚いていると、カナちゃんがいつもこんなだよと額の汗を拭った。前髪は額に引っ付かず、サラリと定位置に戻る。 「デートなんて久しぶりだなぁ」 「私もだよ」  電車で移動中、カナちゃんは沢山の人の視線を集めていた。女子高生の憧れの視線から、OLの妬みの視線、サラリーマンの下品な視線まで総なめだった。そんな彼女に今、彼氏はいるのだろうか。彼女がいても、おかしくはない。 「てことは、彼氏募集中?」 「

          彼氏募集中【『蜜柑』4. 初デート】

          遊ぼっか【『蜜柑』3. カナです。②】

           カナちゃんは浪人生で、私の一個歳上だった。やけに身長が高いと思ったら、中学高校とバレーボールをやっていたらしい。しかもミドルブロッカーで、チームで一番スタイルが良かったんだよ! と、彼女自ら教えてくれた。  私が先生と電話をしていた時、カナちゃんはホームのベンチに座って、みかんを食べていたらしい。これは受験生の頃から続けている毎朝のルーティンらしく、そこはさすがスポーツマンだなと感じた。そしてその時も彼女はやはりみかんの皮をひん剥き、ひと房ずつ口に運び、最後に一番大きいひ

          遊ぼっか【『蜜柑』3. カナです。②】

          こんな子がいたら絶対見逃すはずがないのに【『蜜柑』3. カナです。】

          (三)カナです。  目を覚ますと、そこは駅員室のようだった。ゆっくり身体を起こすと、じわじわとした痛みが膝と肘、側頭部に蘇ってきた。 「おはよう」 高く澄んだ声が、正面から聞こえた。その短い挨拶を、私はいまいち聞き取れなくて、思わず、え、と聞き返してしまった。 「おはよう。熱中症と脱水症状だって」 今日暑いもんねぇ、と、細い手でパタパタ私を扇ぎながら、その女の子は笑っていた。簡素なショートカットが風になびく。その声と動きが、風鈴を彷彿とさせた。 「カナです。必修で

          こんな子がいたら絶対見逃すはずがないのに【『蜜柑』3. カナです。】

          大学生はみんなイカしている存在なんだと思っていた【『蜜柑』2. 失敗】

          (二)失敗  高校生の頃は、大学生はみんなイカしている存在なんだと思っていた。イカしているというのは少し古い言い回しなのかもしれないけれど、でも古臭い言葉だからこそ、私は納得出来ていた。格好よくても格好悪くても、大学生は大学生だ。授業に出ないで遊びまくる大学生も、授業も遊びも器用にこなす大学生も、苦しい苦しい言いながら机に向かう大学生も、結局のところ皆、大学生という人生の夏休みをそれぞれ謳歌しているんだ。あの頃の私は、そういう勝手な印象を「イカしている」という響きに都合よ

          大学生はみんなイカしている存在なんだと思っていた【『蜜柑』2. 失敗】

          2020年、今年のまとめ。

          【はじめに】私、ちょっとした台本みたいなものこそ書いた経験はあるものの、こういうものを書いた経験はほとんどありません。というか、こんな内容をnoteで書きおろすってのがふさわしいことなのかも、そもそもわからん。 そんな感じで、書き出しから存分に迷いつつ、徐に筆を進めていきたいと思います。 巳崎怜央です。都内の私立大学に通いながら、演劇活動をしています。 今年、2020年は大変な年でした。新型コロナウイルスが猛威を奮い、大学の授業も軒並みオンラインになりました。 そんな中、

          2020年、今年のまとめ。