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Suchmosが怖い

こんばんは。服飾大学で出会った「みっぽ」と「キキ」がサブカル的な態度でコンテンツについて対談形式で語る「サブカル女子って呼ばないで」です。

今回は現代city popの代表格、Suchmosを見たときに私たちが感じた怖さにも近い感覚の正体について考察してみたいと思います。

目次
■Suchmosが怖い
■「和製ジャミロクワイ」の名付け親
■"圧倒的偽物"と"圧倒的本物"
■city pop、EDM、そしてLDH
■Panasonic BeautyのCMも怖い
■今夜はブギー・バック
■Suchmosが怖い原因は自分の中にあった

■Suchmosが怖い

キキ 今回のテーマは「Suchmosが怖い」だけど、これは元々、この前公開した『日本語見直そうキャンペーン〜YO!と言わないラップ音楽〜』や『ファッションの大学に入ったらファッションを仕事に出来なくなった話』を書いているときに度々出てきたワードなんだよね。

みっぽ そうね、だいぶ寝かせちゃったね。笑

キキ 日本語見直そうキャンペーンでは、簡単に言うと雰囲気や音作りに重きを置いた音楽のブームから、徐々にフリースタイルダンジョンやなんかに見られるような「日本語」に重きを置いた音楽のブームに移行してきているんじゃないかというような話をしたよね。

みっぽ そのときに言っていた「雰囲気や音作りに重きを置いた音楽のブーム」の筆頭がまさにSuchmosだから話題に上がったね。

キキ その次に書いたファッションの大学に入ったら〜、では、派手な髪色やタトゥーなんかを選択して自分のアイデンティティにしたり、自分らしさを作っていく付け足していく、ファッションで自分を武装することに対する考え方なんかについて書いたね。

みっぽ そのときにも、文章を書きながらよく「Suchmosが怖い」って話してた。

キキ 今回はなぜ私たちは怖さを感じるのか、怖さの根幹には何があるのかを深掘りしてみようか。

■「和製ジャミロクワイ」の名付け親

キキ Suchmosについて書くに当たって、彼らが注目されるようになるまでの道のりについてもインタビューとか色々調べてたら、いくつか気になる記述があったんだよね。

——2014年にはフジロックの「ROOKIE A GO-GO」に出場してるよね。
HSU「今のマネージャーが僕らをライヴで見つけてくれて、そこで、『<ROOKIE A GO-GO>に応募してみたら?』ってアドバイスをくれて。そしたら合格したんで、出演して……って感じで。でも、当時は積極的にライヴをやってたって訳じゃないよね」
KCEE「誘われて、月1~2って感じだった」
TAIKING「しかも友達に誘われて出るぐらいで」
ーーSuchmosで名前を上げるというような意識は強くなかった?
OK「そんなに強くなかったですね。だけど、フジロックに出れたのが、1stシングル『Essence』やアルバム『THE BAY』を作るキッカケになりましたね」

みっぽ この「友達に誘われて月1~2回ライブする程度で、Suchmosとして名前を上げるという強い意識も持っていなかった」っていうの、すごく気になる。

キキ そうなの。こういう「肩の力抜けてる感」が、私たちみたいな論考で自分のアイデンティティを固めていくタイプからするとちょっと怖いんじゃないかなと思って。

みっぽ 分かる分かる。ガツガツやってきて成功したんじゃなくて、「マネージャーに勧められて」「友人に誘われて」その流れでここにいる感じに羨ましさとかも感じているのかなぁ。

キキ 素のままの自分に自信がなくて自分自身に色々付け足したくなっちゃう私たちには、「そのままの自分自身を周りが評価してくれてここまで連れてきてくれた」という雰囲気が怖いのかもね。

みっぽ そうね。でも実は、色々調べているとこのマネージャーさんがいかに頭良く引っ張ってきたのかが分かるんだよね。

キキ さっきの、フジロックへの応募を進めたマネージャーさんだ。

プロモーションにあたり、金子(註:マネージャー)はあえて音楽業界や音楽媒体を避けて、スタイリスト、アパレルのメディア担当者、セレクトショップの店長など、感性が豊かで発信力のある人たちに「和製ジャミロクワイ」というコピーを添えてプロモーション盤を配った。

みっぽ このマネージャーさんの頭のキレる感じというか、ターゲットとしている層にうまくウケるようにマーケティングしている感じが表には見えてこないから、本人たちの「肩の力抜けてる感」が色濃く出るんだろうね。

■"圧倒的偽物"と"圧倒的本物"

みっぽ このツイートを見たとき、「あ、Suchmosは"圧倒的本物"なのかもしれない」ってちょっと思ったんだよね。実際にはそれをコントロールしているマネージャーさんが黒子としているかもってことは置いといて。

キキ なるほどね。椎名林檎とか、あとは蜷川実花とかもそうだと思うんだけど、彼女たちって「分かりやすく演じる」ことに長けている印象があるかも。"圧倒的偽物"っていうことは、圧倒的に作り込まれた、作り上げた世界を持っているってことよね。

みっぽ そうそう。それに対して宇多田ヒカルは、「自分の世界で、自分の世界の方を向いて」作品を作り出しているわけじゃない。そしたら外の世界の人たちから結果的に評価されたっていう。

キキ その感じがSuchmosの「Suchmosとして名前を上げるという強い意識も持っていなかった」っていうのにちょっとリンクするように感じるのか。

みっぽ そう。彼らは「演じている感」「自分たちを作り込んでいる感」をあまり外に出さない印象だから。

■city pop、EDM、そしてLDH

キキ ちょっとまた違う角度からの話なんだけどね。アウトプットこそ全然違うけれど、ヤンキー界隈におけるLDH系の音楽や、クラブ界隈のEDM系の音楽なんかと、Suchmosがやっていることって根本は同じなんじゃないかな。

みっぽ あ〜。ターゲットの層が明確で、その人々にとっての共通言語のような存在感を持っているところとかかな?

キキ そうそう。それ故その言語が分からない人たち=その界隈外の、ターゲット層ではない人たちが存在しないかのような怖さを生み出してるんじゃないかな。

みっぽ ただこの中でLDHだけちょっと違わない?彼らはそのターゲティングをヤンキー層からマイルドヤンキー層にまで落とし込んで、コアなターゲット以外の存在も認知してうまく取り込んでいる印象。

キキ 確かに。だからこそこの3つの中で一番マス寄りというか、世間一般に広く知られているのかもね。

■Panasonic BeautyのCMも怖い

みっぽ このPanasonic beautyのCMも、初めて見たときにSuchmosに対するのと同じタイプの怖さを感じたかも。ターゲティングが完璧で、ターゲットに入れなかった自分のことが、まるで見えていないかのような世界。

キキ それ分かる。すごい私情を挟むんだけど、このCMが確か2017年頃でしょ?わたし、新卒で入った会社で疲弊してた頃なんだよね。

みっぽ キキが体力的にも精神的にも忙しく会社員してた頃だ。

キキ そう。「忙しい人」っていう、メッセージ上のターゲットには自分は含まれているはずなのに、自分が明らかにターゲットではない、それどころか自分みたいなひとはそもそも最初から存在していなかった世界線みたいに感じるくらいに完璧で隙がなくて。電車のサイネージ広告で仕事帰りに見てちょっと泣きそうになったの覚えてる。笑

みっぽ こういう同年代も実在してるってことを思い出しちゃうんだよね。自分はなんでそっち側じゃないんだろうなって急に考えちゃうやつ。

キキ そうそう。落ち着いて冷静に見たらSuchmosもこのCMもすごく格好良いのに。自分自身の捩れのせいで心がざわつくというか。

■今夜はブギー・バック

キキ 話を戻すと、私が今までで一番「Suchmosが怖い」って感じたのはこのWEB CMを見たときかもしれないなぁ。

みっぽ このCM本当にすごくいいんだけど怖いよね、分かる。

キキ ここで表現されているどの時代にも、確実にここには現れていない人たちっていうのが存在していて。じゃない方って言うのかな。でもどの時代にもその人たちがそもそもいなかったんじゃないかってくらいに存在が見えないんだよね。

みっぽ 自分の青春時代の年代のシーンを見ても、全く懐かしさを感じられない、自分ごと化できない人たちっていると思うんだよね。

キキ それだけブランドのマーケティングとして、ターゲットとしたい人たちに深く突き刺さるクールな施策なんだよね。

みっぽ そうなの!ものすごく格好良いCMなの!

キキ で、その年代が流れ行くこのCMのトリ=(CM放映時の)現代を象徴するアーティストがSuchmosなわけでしょう?

みっぽ このCMはラスト、"WHAT'S  NEXT?"というメッセージで締めくくられてるじゃん。CM放映が2016年だから、まさに今こそがその"NEXT"の真っ只中。数年後に振り返ったとき、今はどんなムーブメントだったと捉えられるんだろうね。

■Suchmosが怖い原因は自分の中にあった

みっぽ 結局、自分たちで自分のアイデンティティを考えて、選んで、付け加えて、なんとか自分らしさを形成してきた私たちのことを、Suchmosは片手で飛び越えて行ってしまうような感覚が怖さの元にあるのかもね。

キキ 「え、だってこれ格好良くない?」くらいの気軽さで自分らしさを作れる「センスの人」への憧れだよね。

みっぽ 「〜なやつもうGood night」ってセンスの人の詩だよなぁ。改めて聴くと、格好良いよねやっぱり。

キキ 今まで抱えてた怖さは、自分のセンスでやってきたら、気が付いたらここにいたんだよね、っていう風に見せることが上手な彼らの雰囲気が、「私たちみたいなひとのことは見えてもいないんだろうなぁ」って無意識的に感じさせるところから来てたのかもね。

みっぽ でも今回、この文章を書くに当たって調べていくうちに、裏にこういうマーケター(マネージャーさん)がいることが分かって、なんとなく怖さは減ったかも。

キキ そうね、センスの人たちへの憧れがあるあまり、センスの人たちのオモテ面にしか目が行かなくなっている自分たち自身の視野の狭さも大きな原因よね。まああとは、わたし達の好きな音楽が基本泥臭くてバッチバチなライブする人達ってとこもあるよね。笑

みっぽ そうね。「売れてぇよ!!」ってはっきり言いながらライブしたり、今の音楽シーンに中指立ててるような人たちを普段見ている影響も少なからずあるね。笑

キキ これからは自分自身の捩れは置いておいて、今までよりも素直にSuchmosの格好良さを受け止められるかも。笑

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