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みなとせ はる
2021年7月12日 02:06
(※今回は、暗めのお話です。ご注意ください。)彼女が、手紙を書いた主「里砂子」なのか?左手薬指に結婚指輪をしている。彼女は、私の妻なのだろうか。しかし、彼女が私の妻と仮定して、果たしてあんな手紙を書く必要があるだろうか。わざわざ呼び出さなくても、用件があれば家で話せば済むだろうに。私は彼女の顔を凝視した。篠森カイトを目にした直後、平均的な日本人である彼女の顔が印象的だとは思わない。
2021年7月15日 21:20
ハッと気が付くと、私の意識は現実世界に戻っていた。久方ぶりに息を吸った気がする。私の肺は、早鐘を打つ鼓動に合わせるように、懸命に酸素を取り込んだ。いつの間にか、Tシャツがぐっしょりと濡れるほど汗をかいて、肌に張りついている。とても疲れた──。私は行儀が悪いことなど忘れて、テーブルに肘をつき上半身を屈めた。はぁ、はぁ、と息を荒げる私を、篠森カイトは涼しい眼で見下ろしている。「篠森さん、
2021年7月8日 16:16
私が渡した白い封筒を少し眺めて「宛名はないのですね」と言うと、彼は静かに封筒を開けて、中から折りたたまれた一枚の便箋を取り出した。便箋を開くと、そこに書かれた文を読み上げる。『 明日の夜、あなたと最初に出会った場所で待っています。必ずいらしてください。いつまでも待っています。 里砂子』手紙に書かれているのは、これだけだ。便箋は、白地に月
2021年7月4日 17:38
「それは、記憶喪失ということですか。名前まで思い出せないということは、ご自身のことは何もわからないのでしょうか。いつ頃からですか?」彼は、私が記憶喪失だと知っても、さほど驚くことなく静かに尋ねた。「3か月前に、材木座の海岸で倒れていたところを三船先生に発見していただいたんです。頭を殴られていて、気づいた時には何も……。自分が誰なのか、名前さえも思い出せません。頭の検査はして、傷ももうほとん
2021年6月30日 02:17
「ここから歩いて、『篠森』さんという人を訪ねなさい。男の足なら、うまくいけば15分くらいで着けるから」三船医師に言われて病院を出てから、かれこれ30分は歩いている。しかし、一向に「篠森」さんという人の家は見えてこない。「大きな洋館だから、すぐに分かるよ。ふぉ、ふぉ、ふぉ」三船医師は余裕綽々(しゃくしゃく)で昼飯の素麺をすすっていたが、そんなに楽な道のりではないじゃないか。夏の鎌倉は、
2020年8月19日 15:57
空に青さが増し、白い雲が集まって、空に絵の具を垂らした頃、空と雲の間から、夏の妖精は生まれる。空色の馬に乗り、天から降り注ぐ陽射しの橋を渡って、一度だけ地上に舞い降りる。❋❋❋初めて足を着けたのは、木の葉だった。木々は、新緑の季節を終えて、より青を増していた。陽射しの橋はいくつもいくつも降り注ぎ、隣の葉にも、隣の木にも、妖精達が舞い降りた。夏の妖精達は馬に乗り、自