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『夏の妖精』
空に青さが増し、白い雲が集まって、
空に絵の具を垂らした頃、
空と雲の間から、夏の妖精は生まれる。
空色の馬に乗り、
天から降り注ぐ陽射しの橋を渡って、
一度だけ地上に舞い降りる。
❋❋❋
初めて足を着けたのは、木の葉だった。
木々は、新緑の季節を終えて、
より青を増していた。
陽射しの橋はいくつもいくつも降り注ぎ、
隣の葉にも、隣の木にも、
妖精達が舞い降りた。
夏の妖精達は馬に乗り、自由に飛び回っている。
❋❋❋
濃緑の葉を馬の蹄がふわりと蹴って、
シュワっと弾ける 川の水飛沫、
ぬめっとした 黒光りする魚の背びれを
代わりばんこに渡っていく。
水辺のミズキンバイの花びらで、一休みした。
麦わら帽子を見つけると、
小さな子どもの大きな瞳を覗き込み、
笑い声を上げ、潤んだ瞳の黒さを随分と眺めていた。
暫くすると、また駆け出した。
七色に光る 額を伝う汗、
スイカ色に染まった 柔らかな指先、
弾けそうな瑞々しい とうもろこしの粒、
夏の妖精は、次々に渡っていく。
その先が限りのない世界であるように、
日の出ている間、馬の脚が止まることはなかった。
❋❋❋
夜になると、
夏の妖精は駆けるのをやめ、
屋根の上で空を眺めていた。
その日は、空に帰って行く者の声を聴いた。
また来るね。元気でね。
微かな声は、藍色の空に溶けた。
流れ星が空から零れ落ちた。
夏の妖精は、掌で星を掴むと、
それを頬張った。
❋❋❋
暫くの間、日が出ているうちは駆け続け、
夜になると星を見ている日が続いた。
ある日、荻の声を聴いた。
夏の妖精は、強い風に吹かれ飛ばされてしまった。
秋がやって来たのだ。
完
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