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短編小説作品集1

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初期の短編小説集。物語の中の日常を伝えられますように。
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2020年10月の記事一覧

【コラボ小説】『真夜中のハロウィンパーティー』 前編

【コラボ小説】『真夜中のハロウィンパーティー』 前編

10月31日。
ハロウィンの夜。

真っ暗な森の中を、更にずっと歩いていくと、
月の光に照らされて、
小さな木こり小屋が、ぽつんと建っている。

突然、木こり小屋の入口にあるジャック・オー・ランタン(お化けかぼちゃ)に、ポッと灯がともり、あなたを迎える。

「ようこそ!ようこそ!
 こんな森の奥まで、よくいらっしゃった。
 夜はまだまだ長い!楽しんでいってくださいな!」

陽気なジャック・オー・ラ

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『愛情は時々、薔薇の蔦の様に。』

『愛情は時々、薔薇の蔦の様に。』

愛情は時々、依存と束縛という形になる。

「自分のため」のはずなのに、「相手のため」という理由が行動する力となり、
それが失敗した時には、過度に自分を責めてしまう。

彼が、私の言葉や態度に振り回されてしまうことが分かると、
私は、彼ができるだけ安定していられるよう、言葉や態度に気を付けた。

「これでいいのだろうか‥。」と思いながらも、
彼が悲しむ姿を予想して、メッセージの最後には
いつも笑顔の

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『茜空に待っているのは君のこと。』(4)完

『茜空に待っているのは君のこと。』(4)完

あの夏から10年経って、あの時の少女に再会するなんて、思ってもみなかった。

再会したあの日から、僕が店の手伝いに入るようになった水曜日、
会社帰りの朱莉が店にやって来る。

というよりは、僕が彼女に会いたくて、母に店のシフトに入れてくれと頼んだのだから、僕の方がやって来ているのかもしれない。

風が少し涼しくなった頃、秋桜(コスモス)の切り花が店に並んでいた。
それを見た朱莉は、僕が中学を転校し

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『茜空に待っているのは君のこと。』(3)

『茜空に待っているのは君のこと。』(3)

帰り際、少女に名前を尋ねられた。

僕は、名字をなんて言ったら良いのか決めかねて、「章大(あきひろ)。」とだけ答えた。

ここは、自然公園と名前はついていても、森の中も同然だ。

「じゃあね、テラシマ アカリさん。気をつけて帰ってね。」
そう声をかけて、僕は家路を急いだ。

少し駆け足で進んでいると、後方から「ありがとう!」と少女の言葉が聞こえた。

くるりと振り返ると、
「僕こそありがとう。」の

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『茜空に待っているのは君のこと。』(2)

『茜空に待っているのは君のこと。』(2)

あの夏のあの日、あまりの暑さに、近所のコンビニエンスストアまでアイスを買いに行き、
帰りは自然公園を通り、近道をすることにした。

その道中、道端のベンチの上に立ち、背伸びをしながら腕を伸ばしている少女がいた。

風が吹いたら、見てはいけないものを見てしまう気がして、地面に目を逸らす。

さっさと通り過ぎてしまおうかと思ったが、
白いワンピースを着て、麦わら帽子を被っている後ろ姿を見て、
僕は妹を

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『茜空に待っているのは君のこと』(1) (『夏の終わりに思い出すのは君のこと』番外編)

『茜空に待っているのは君のこと』(1) (『夏の終わりに思い出すのは君のこと』番外編)

僕は花の勉強をしていて、別の花屋でバイトしていたけれど、
その日は母が急に熱を出したので、ピンチヒッターとして、母の店で店番することになった。

閉店間際の夜 8時、最後にやって来た客が朱莉だった。

中学1年の夏休み、一度だけ会った女の子。
彼女がその女の子だとは、すぐに気が付かなかった。

当時、背中の半ば位まであった髪は、肩くらいの長さになっていたし、
黒くて艷やかだった髪も、明るいブラウン

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