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【コラボ小説】『真夜中のハロウィンパーティー』 前編

10月31日。
ハロウィンの夜。

真っ暗な森の中を、更にずっと歩いていくと、
月の光に照らされて、
小さな木こり小屋が、ぽつんと建っている。

突然、木こり小屋の入口にあるジャック・オー・ランタン(お化けかぼちゃ)に、ポッと灯がともり、あなたを迎える。


「ようこそ!ようこそ!
 こんな森の奥まで、よくいらっしゃった。
 夜はまだまだ長い!楽しんでいってくださいな!」

陽気なジャック・オー・ランタンが、口の中の蝋燭(ろうそく)の灯を大きく揺らしながら話し始めると、
ギィっと音を立てて、木こり小屋の扉が小さく開いた。

扉の隙間からは、オレンジ色の光が漏れ出し、
ワイワイ・ガヤガヤと、たくさんの話し声や笑い声が、音楽に乗って聴こえてくる。

あなたは扉の取っ手を押して中に入ると、
そこには、賑やかなパーティー会場が現れる。

木こり小屋の20倍の広さは優にありそうな、
豪華な応接間。
薄暗い室内を、沢山の蝋燭の灯りが妖しく照らしている。

テーブルには、マグマの様に沸き立つシチュー、
蜘蛛の形を象ったパイ、真っ赤なゼリー、
色とりどりの液体が入ったグラスなど、
たくさんの料理や飲み物らしきものが並び、
話し声の他にも、テーブルの周りを駆け回る、子どもの笑い声や足音も聞こえる。

いくつかのジャック・オー・ランタンが、
参加者達の頭の上を飛び回り、その顔を映し出す。

ここに集まった多くの‥、
いや、全ての者が、
魔女や、ドラキュラ、フランケンシュタイン、狼男などの有名なモンスター、
光る瞳や鋭い牙を持った者、
白い布を纏ったような足のないお化けの姿をしている。

中には、猫やリスなどの動物もいて、
時々、蝙蝠(こうもり)がバサバサと部屋の中を飛び交っている。

これは、仮装ではない。

今宵、真っ暗な森の奥深くで開かれるは、
本物のモンスターやお化け達のハロウィンパーティー!

⊰᯽⊱┈──╌❊╌──┈⊰᯽⊱

「トリック・オア・トリート!
 お菓子くれなきゃ、いたずらしちゃうぞ!」

白い布を被ったようなお化けの子ども達が、
ふわふわと空中に浮きながら5人ほどやって来て、
魔女の周りをグルグルと回りながら取り囲んだ。

「とびっきりのお菓子をあげるから、いたずらしないでくださいな。」
と、魔女が用意していたキャンディーを一人一人に渡すと、子ども達は大喜び。

子ども達は、「キャッ、キャッ」と笑い声をあげると、魔女からもらった色んな色のキャンディーを、すぐに口に放り込んだ。


すると、何と言うことでしょう。
お化けの子ども達はそれぞれ、
大きな狼男に、地から這い出したゾンビに、
藁でできた案山子(かかし)に、
まっ黒な鴉(からす)に、羽の立派な蝙蝠(こうもり)に、変身した。

「ハロウィンて楽しいな♪」
「ハロウィンて楽しいな♪」
「♪(案山子)」
「カァー♪(鴉の鳴き声)」
「バッサバサ♪(蝙蝠の羽音)」

変身した子ども達は、歌いながら
思い思いの方向に散らばった。


それを見ていた他のお化けやモンスター達は、われもわれもと、魔女に殺到した。

滅多に姿を現さない、あのドラキュラ伯爵でさえ、
「私の愛すべき友人の蝙蝠達にも、ぜひそのキャンディーをいただきたい。」
と魔女の元にやって来るほど、大人気だった。

魔女の魔法のキャンディーは、口に入れると小さな火花が飛び出す。
赤や黄色、青やピンク、緑色に橙色、
色とりどりの小さな花火があちこちで弾けて、パーティー会場を彩った。

「やれやれ‥。」と、たくさんのキャンディーを配り終えた魔女が椅子に腰掛けると、
白猫のロイがひょいと飛び跳ねて、魔女の膝の上に乗った。

魔女が、
「お前はキャンディーいらないの?
 みんなと遊んで来てもいいのに。」
と言うと、
ロイは、
「あなたがいればいいですよ、俺は。」
と答えた。

ロイは、魔女の使い猫の一人で、2歳になる雄猫だ。
2歳と言っても、人間では24歳ほどに相当する、立派な大人猫。
騒がしい場所が苦手で物静かだけれど、
優しい性格で、いつも魔女の側にいる。

星空色のワインのグラスをかたむける魔女の膝の上で、気持ち良く撫でられながら、
ロイの視線は、ある少女に向かっていた。


その少女は、入口の扉を背にして、キョロキョロと何かを探している。

人間の歳で言えば、18歳位の少女。
腰まである長い長い真っ直ぐな髪も、
大きな瞳も、闇夜の色をしている。

「うまく変身したな。」と、ロイは思った。

あの少女が、黒猫のルナの変身した姿だと、
ロイにはすぐに分かった。

ルナは、1歳になる黒猫の女の子で、
ロイと同じ魔女の使いをしている。
まだまだ子どもで好奇心旺盛なルナは、
魔女に頼み込んで、今日一日だけ人間の少女にしてもらったのだ。

「キャンディーで変身して遊べばいいじゃないか。」とロイが言うと、
ルナは、
「ロイのバカ!何にも分かってない。
キャンディーじゃ、何に変身するかわかったものじゃない。女の子じゃないと意味ないの!」
と、プンプンと怒ったのだった。

少女になったルナは、どきどきしながら、辺りを見回していた。

「あの人は、どこかしら。

 天井に届いてしまいそうな、背の高さ。
 猫を10匹だって抱きしめられそうな、たくましい腕。
 煉瓦(れんが)の壁みたいに、がっしりとした肩。

 傷だらけの顔は、喧嘩が強い証拠。
 首に突き刺さった大きなネジが、とってもクール。

 こんなに人がいたって、あの人がいれば、私にはすぐに分かるわ。」

黒猫の視力は、暗い中でこそ発揮される。
その瞳は怪しく光り、「彼」を捉えた。


彼の名は、フランケンシュタイン。
大きな身体を持つ、無口な男。
その昔、殺人鬼だったとか、復讐に燃えていたとか、そんな噂もあるけれど、
ここにいる誰もが今の彼に抱くのは、実に温厚で、優しい男という印象だ。

ルナも、例外ではない。

黒猫のルナが生まれて間もない頃、
ロイを追いかけて木を登ったものの、高い木から降りられなくなってしまったことがあった。

小さな身体は恐怖で固まり、脚はガタガタと震え続けていた。
小さなルナが「誰か助けて!」と心の中で叫んだ瞬間、
大きな手が突然伸びてきて、その青白い大きな掌(てのひら)に、すっぽりと身体が包み込まれたのだった。

子猫のルナを救ったのは、フランケンシュタインだった。
その日から、ルナにとってフランケンシュタインは、ヒーローとなった。
ずっと、彼に恋している。


後編に続く。
後編は、菜戸つみれさんの記事へジャンプ🦇✨

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