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本ときどき書評

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読書は大好きで、いい本に出会うと、この本もう一度読むと、腑に落ちるだろうなと思いはするけれど、他に読みたい本だらけ、だから立ち止まって書評なんて、なかなか書けないのです。
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社会学してみる

社会学してみる

 ここ数日、岸政彦の日記みたいな本を読んでいる。何と言うんだろう、世の中のどうでもいいようなことに如何に気づくか、社会学者の職業病なんだろうか、そういう性格故に社会学者になったのか定かではないけど、そのどうでもいいようなことを如何に文字にするかが勝負なんだと読み取ってしまう。

 例えば、読みかけの本を取り落とした時に、落としたことよりも、本に挟んでいた栞が本から抜け落ちたことにショックを受けて、

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圧巻の677ページ

圧巻の677ページ

 「荒野の向日葵」(野村 和志著)拝読させて頂きました。長い道のりを一緒に読み歩いた感覚にさせられました。障害当事者がご自身で書いた本では口述とは言え最高水準だと思います。感動しました、素晴らしい作品でした。とても自費出版の範疇に収まる作品ではないですよ。商業出版で沢山の人に読んで貰いたいと思いましたよ。

 著者の自伝という一本の物語に、関わった様々な人たちの生き様と考え方まで、加えて、その時代

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春を待つ

春を待つ

午前中は向かいの家のおじさんのFacebookサポートと、不発弾処理のために帰りの足がなくなったヘルパーの送迎、午後からは実家に寄って、送り付け詐欺に引っかかったという父親サポート、気を付けないと日曜日は、追いかけていた時間に追い越されそうになる。

せっかくの日曜日を味わうために、TOAST coffee roasterで珈琲タイム、今日の銘柄はコロンビアと東ティモールの珈琲と一番甘いケーキと宮

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日出處電子天子

日出處電子天子

過日facebookで紹介のあった「日出處電子天子」、拝読させていただきました。1992年頃のこと、世間はポケベル全盛時代あたりだったかな。ある日、ニューコアラ事務局から1900番台のIDが送られて来る。2歳の長男が寝たのを見計らって、電話のプッシュ音の後に、ジーキュルキュル、ジーキュルキュルという繰り返し音が止まると回線接続、キーボードからIDとパスワードを入力して電子会議室に入る。「こんばんは

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寅さん

寅さん

朝から、別府ブルーバードで上映中の「えんとこの歌」を、今日、明日のどのタイミングで観ようか迷っていた。聞かない方がいいような気もしたが、かみさんに聞いてしまった。今日は何か用があるのかと。すると、何もないとの返事、お父さんはと返って来たので、映画を観に行くと答えると、即座に私も行くと返して来る。何を観に行くのか知ってるのかと聞けば、知らないと言う。映画ならなんでもいいのかと聞けば、そんなことはない

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山猫珈琲

山猫珈琲

今朝のトイレ読書は、湊かなえのエッセイ「山猫珈琲」、性能上がる三種の神器の話が面白い。長男の嫁として初めての土地に嫁いで行くと、最初は3日をおかずに泣いていたのに、10年もすると、「聞き流す」「やり過ごす」「なかったことにする」という三つの技が身に着き、歳を重ねる程に性能が上がって来るという話に、うんうんと頷いていると、トイレの外で朝からトイレの本読みは止めて、漏れると家族の声がする。やれやれしば

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物語のなかとそと

物語のなかとそと

朝が来たことを教えてくれるのは、
鳥のさえずりだったり、
漂うコーヒーの香りと
優しい声であったりしたことがあっただろうか。
頑張って記憶を遡ってみても、
そんな経験はない。

今は大方、尿意が朝の訪れを知らせてくれる。
5時前だったり、6時前だったり。
眠気をまとったままトイレに行き、
再び寝なおすも、二度寝していいんだという安心感からか、
眼が覚めてしまう。
枕元には夕べ読んでいた江國香織著

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親鸞

親鸞

二泊三日のJRでの東京出張は、昨年2月1日に亡くなった自立生活運動の活動家の川元恭子さんの追悼集会、命を削りながら、沢山の個人や団体を支援し駆け抜けた様子が、出席者全員から語られるにつけて、川元氏が大きな存在であったこと、残された私たちには、その志をつなぐ使命があることが伝わって来た。往復のJR車中で「親鸞」上下(五木寛之著)読了、障害者運動の活動家と宗教者「親鸞」がシンクロして、心が躍った。一方

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共倒れ社会を超えて

共倒れ社会を超えて

野崎泰伸著「共倒れ社会を超えて」を読みました。ちょっと難解でしたが、自分より他者が不幸であること、私はまだマシなんだと思う個人の思考のメカニズム、集団や社会の思考のメカニズムなど、知らないうちに他者を差別することで、現場の幸せや豊かさの均衡を保っている、そんなことを気付かせてくれる本でしたよ。もう一冊は、「 紙つなげ!彼らが本の紙を造っている-再生・日本製紙石巻工場」このドキュメンタリーが面白かっ

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ズレている支援

ズレている支援

いい本に出会いました。知的障害者の重度訪問介護を手がける中での日々の支援を思考錯誤した話でした。支援とは、テキストや実技で覚える技術は本の僅かで、後は利用者さんと押し返す切れ目のない関係性の中から身に付けて行くもの。一つの支援のスタイルがいいからと安心していると、時間の経過と共に、利用者さんも変化して、ヘルパーも変化する、廻りの環境も変化する。何もかもが揺れ動き変化して行く中で、同じ支援がいつまで

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表現力のこと

表現力のこと

本を読んでいて思うのが、作家の表現力の凄さですね。見たこと感じたことを、どう表現して伝えるか。村上春樹、夏目漱石、皆さん、凄いです。ここまで言葉に置き換えられるのかと感心させられてばかりです。私たちの日常はひどいものです。秋の夕焼けを観て感動した時に、そのことをどう伝えますか。「凄く綺麗だったよ」ダメですね。「もう超感動、とても言葉に出来ない。」これもダメだなぁ。「沈みゆく太陽の眩しい残照が落ちて

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蜩ノ記

蜩ノ記

この前、「蜩(ひぐらし)ノ記」という時代小説を読んでみたけど、二つほど良いところがありましたよ。時は1600年代、百姓と武士、さらには主君と家臣との関係の中で物語は展開されます。良かったことの一つは、幼い頃に川べりで見かけただけの主人公と娘、きっと今風に言えば、あの子イケてるなぁ程度か、それ切り二人はそれぞれの人生を歩き始めるも、40数年の時を経て、なお、あの時に抱いた淡い恋心、決して成就されるこ

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文庫のサイズ

文庫のサイズ

4月のある日のこと、明林堂書店に寄って、何気に文庫本を眺めていたら、どうも変、絶対におかしい、まだ寝ぼけているのか、老眼が悪化したのか、どう目を凝らして見ても、文庫本が縮んで見える棚がある。いやいや、そんなことはないわと、新刊本のあるところにひとまず退避、この世界に何かが起きているのか、カフカの変身にも似た違和感に後押しされて、再び文庫の棚へ移動、チラッと周囲を見て、誰も居ないことを確認、縮んで見

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紋切型社会

紋切型社会

「紋切型社会」武田砂鉄著を読んだ。まあ社会全体が波風を立てないことを基準に言葉を選んで使っているのではないかというような話。適当に引用するとこんな感じ。五体不満足の乙武 洋匡 氏とHIV訴訟原告の川田龍平氏、世間は乙武くんと呼び、川田さんと呼ぶ、高校野球は選手を君付けで呼び、国会でも議員を君付けで呼ぶ。指名手配の容疑者は犯罪が確定していなくても呼び捨てだ。かの24時間テレビ、今年は D

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