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串カツ田中でデートを楽しめたら、本気の恋だと思う。


試着室で思い出したら、本気の恋だと思う。

という有名なキャッチコピーがある。

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尾形真理子さんがルミネの広告にあてたコピーである。試着室で服を試す時、「この服、あの人のタイプかな?」とか「この服を着てあの人と海に行きたいな」などと思い出す人は本当に好きな人だ、というような意味であろう。無意識にやってしまう行動からその奥に潜む感情を的確に言い当てたハッとするようなコピーだ。

このコピーがあまりにも好きで、「〇〇したら、本気の恋だと思う。」というコピーを考えるのに一時期ハマった。

もはやルミネとか関係なく大喜利感覚で、

「最後の1つのたこ焼きを譲ってしまったら、本気の恋だと思う。」
「門限を忘れたら、本気の恋だと思う。」
「歯についた青のりを愛しく思ったら、本気の恋だと思う。」

みたいな。

でも、歯についた青のりを許せるか幻滅してしまうかは、わりと個人の許容範囲にもよってくる気がする。こう考えてみると「試着室で思い出す」というシチュエーションはかなり普遍的だ。多くの人に共感されるコピーを考えてみようとしたが、考えれば考えるほど自分の恋愛観が色濃くにじみでてしまった。

だから、この際、自分の恋愛観を前面に押し出したコピーを考えてみた。

結果がこれ。

串カツ田中でデートを楽しめたら、本気の恋だと思う。


コピーとしてはセンスのかけらもないが、正直に作った結果、こういうコピーになった。

オシャレなお店でデートするのが苦手だ。オシャレなお店が苦手なわけではない。オシャレな友達や家族となら、しばしば行ったりもする。ただ、男の子とオシャレなお店に行くのが極度に苦手。

夜景が見えるレストランだの、最新スポットにできたオープンキッチンのイタリアンだの、オシャレなお店に連れて行かれると、ものすごくソワソワする。

緊張ではない。こっ恥ずかしい。

ほの暗いオシャレな雰囲気の中、スパークリングワインで乾杯なんかしちゃった日には、「私たちってそういうキャラだったっけ!?」と心の中でツッコミが止まらなくなる。こそばゆくて死にそうになる。

普段からそういうハイソサイエティな生活をしている人となら、そんな違和感もないのかもしれない。でも、普段ワンコインランチで済ませているサラリーマンの男の子が、同じくワンコインランチで済ませている私のためにちょっといいレストランを予約してくれて、お皿にちょびっとしか盛られていない料理が出されて、「少なっ!」と叫んでしまった心の声を口にすることなく、慣れている風を装ってナイフとフォークでカチャカチャ食べ、ワンコイン×10~20くらいの値段を支払う――という一連の流れがもうこそばゆくて死にそうになる。

世の男性は女の私なんかよりずっとロマンチックだ。いや、ロマンチックな女性を喜ばせるためのロマンチックな気遣いが身についているのだろうか。「クリスマスだからオシャレなレストランを予約しなくちゃ」とか「プロポーズだからいいホテルを予約しなくちゃ」とか、そういう考えを持っている男性が世の中にはたくさんいるということがとても不思議。

「かっこつけなくてもいいのに」と思ってしまう。クリスマスは家で映画でも見ながらゆっくりお鍋をすればいいし、プロポーズは家のお風呂でしてくれればいい。

飾らない日常がいい。かっこつけない現実がいい。

デートも気張ったレストランじゃなくて、リラックスできる居酒屋や肩ひじ張らずジーパンで行けるチェーン店がいい。そういうお店で自分たちのお金で等身大の幸せを買いたい。

だから、串カツ田中。

目の前で手際よく揚げられていく串カツをハフハフ言いながら一緒に食べたい。「二度漬けダメだよ?」とか言いながらたっぷりソースをつけて、熱い衣を冷たいレモンサワーで流し込みたい。

一人で食べてももちろんおいしいけれど、好きな人の横で食べる串カツは格別だ。7割増しくらいにおいしく感じる。そして、めっちゃ幸せ。「おいしい!」と「楽しい!」の洪水で、ひとときの間、カウンターで目を閉じて幸せに溺れる。

そこには、ムードもスパークリングワインもいらない幸せがある。

以前、男の子からデートに誘われて私が提案した居酒屋に行ったら全然盛り上がらなかったことがあった。帰り道、「なんか馬が合わないな」と思っていたら、彼が「もう少しムードのある店の方がよかったね」と言った。そしたら盛り上がったのに、と言わんばかりに。

違うのに。

言えなかった。

盛り上がる人とだったら居酒屋でもちゃんと盛り上がるよ?
今まで付き合ってきた人とは串カツ田中でもめちゃめちゃ楽しかったよ?
ムードのあるレストランに行ったって、私たちじゃ盛り上がらないよ?

とは。

俵万智さんの歌集「サラダ記念日」の中にこんな歌がある。

君と食む三百円のあなごずしそのおいしさを恋とこそ知れ


君と食べれば一皿300円のあなごずしもおいしくて、そのおいしさを恋だと知ったよ。そんな意味だろうか。好きな人と食べれば、たった300円のあなごずしもひとしおにおいしく感じるという、恋の魔法を詠んだこの歌。「好きな人となら一本120円の串カツでめちゃくちゃ幸せになれる」という先程の持論と(恐縮ながら)とても似ている。だから、この感覚も冒頭の「試着室」みたいに普遍的なのかもしれないと思う。

お金をかけずとも、ムードなんてなくとも、一緒にいるだけで幸せな気分になれる時、本気の恋だと気づく。


だから、串カツ田中でデートを楽しめたら、本気の恋だと思う。


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※ルミネの広告の画像はこちらからお借りしました。



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