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アルジャーノンに花束を

読んだ


Flowers for Algernon




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名作らしくてどこでも名前があがるからずっと気になってた






いわゆる知的障がい者で、幼児くらいの知能しかなかった三十二歳のチャーリイが手術によって知能を得る代わりに何かを失ってしまう話





最近読んだ本で一番刺さった


もっと早くに出会いたかった。自分が学生の時に出会ってたら感じ方も違ったんだろうな






愛読書を聞かれたらいつも『月と六ペンス』って答えてたけど、それを超えるかもしれない









以下ネタバレ



(この本は絶対にネタバレなしで読んで欲しいというか、最後まで自分の目で読んで欲しい)

















いわゆる知的障がい者で、幼児くらいの知能しかなかった三十二歳のチャーリイが手術によって知能を得る代わりに何かを失って、また得る話



アルジャーノンと名付けられたねずみが知能を人工的に高める実験をさせられていて、迷路をくぐり抜けたりすることができるの。で、過去に動物でしか実験してこなかったその手術をチャーリイに施す







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まず最初、「けえかほおこく」の字と、句読点なし、ひらがなばかり、「きょーじゅ」「わらていた」みたいな文章に驚いた

慣れるまでちょっと読みづらかったけど、世界観に入り込みやすい



ストラウスはかせが紙に何かかいてニーマーきょーじゅがとてもまじめな顔でいった。チャーリイきみわ知っているだろうがこの実けんがしとにどんなえいきょうをあたえるかわからないのだいままでわ動ぶつだけしか実けんしていないからね。キニアン先生もそういっていましたけれどもぼくわ痛い目にあってもかまわないのですぼくわじょおぶだしいしょけんめやるつもりですからとぼくわいった。かしこくしてくれるならかしこくなりたいのです。


これから読む人とかここで読みづらくて諦めた人とか、乗り越えて欲しい




チャーリイの知能指数に合わせて文章の書き方や漢字、表現等が変化するの








そこでぼくわキニアン先生にいったのですがそんなことをきくといやになるなしじつをすればすぐにりこうになってぱん屋の仲間にぼくがりこうになったところを見せてやっていろんなことをしゃべったりしてそれからきっとぱんやき職人の見ならいにもなれるかもしれないとおもていたから。それからお父さんやお母さんをさがしにいこう。お母さんわいつもぼくにかしこくなってもらいたがていたからぼくがかしこくなったところを見たらみんなきっとびくりするだろう。ぼくの頭がよくなったのを見たらもうぼくを追ぱらたりわしないだろう。ぼくわうんとうんとがんばってかしこくなるようにするとキニアン先生にいいました。キニアン先生わぼくの手をそっとたたいてあなたならできるとおもうわといった。わたしわあなたをしんじてるチャーリイ。


IQ68の時に、周りがからかって笑うことも、「こうしたら笑ってくれるからやろう」「みんなぼくのことが好きだから笑って遊んでくれる」って思ってるチャーリイがひたすらに優しくて愛情深くて

ぼくのおぼえ方は早いとキニアン先生がいう。ぼくの報告を読んでぼくをおかしな顔で見た。あなたは立派なひとでいまにみんなの鼻をあかすでしょうと彼女はいった。なぜですかとぼくはきいた。気にしなくてもいいけどみんながあなたの考えているようないい人じゃないことがわかってもがっかりしちゃだめよと彼女は言った。神さまが少ししかおあたえにならなかったにしてはあなたという人は使いもしない頭をもった人たちよりもずっとたくさんのことをやったと彼女はいった。ぼくの友だちはみんな頭がいいしみんないい人ですよとぼくはいった。みんなぼくのことが好きでいじわるなんかしたことないですよ。するとキニアン先生の目の中になにかたまってきて洗面所へ走っていかなければならなかった。




IQ185まで上がる途中、過去の記憶も経験も思い出してきて、みんなにからかわれていたこと、嫌われていたこと、に気付いてしまう

いい人だと思っていた人がいい人じゃなかったり、好かれているから笑ってくれていると思っていたことが意地悪だったとわかったり



「あんたはそういったんだ。大学に行けるくらい利口だからってぼくをからかっていいってことはないんだ。もうみんなに笑われるのはたくさんだ、うんざりだ」



そして両親に関する記憶や、理解していなくても悲しかったことや、傷ついたことがトラウマになっていて、心と身体が覚えてるの

理解できないことのもどかしさや理解したいという気持ちも、当時はもやもやとして形にならず抱いていたものもはっきりと見えてくる


チャーリイはニッと笑って隅のほうの粉ねり機のそばにある粉袋のところへ戻る。あぐらをかいて床にすわりこんで粉袋によりかかって漫画の絵を見るのが好きだ。頁をめくりはじめるとなんだか泣きたくなったけれども、なぜだかわからない。なにか悲しくなるようなことがあったかな?もやもやした雲のようなものがあらわれて消える、そしていまは漫画のきれいな色のついた絵を見るたのしみが待ちきれない、三十回も四十回もあきずに見ている漫画の絵。登場人物はみんな知っている――名前は何度も何度も人にきいた(ほとんど会う人ごとに)――それから人物の上のほうにかいてある白い風船の中の奇妙な字は、その人物が喋っている言葉だということもわかっている。風船の中に書いてある文字の読み方をこの先ならうなんてことがあるだろうか?時間さえたっぷりくれれば――せかされさえしなければ――わかるのに。でもみんな時間がないのだ。






かと言って、IQが高くなっても、情緒的経験とかが追い付いていなくて人の気持ちを理解すること、読み取ることは別

だからますます孤独になっていく

「――あなたがいま何を言っても、あたしには、自分がどう感じるかわかっているの、だから、よろしければ、あたしは、分裂した自我にしがみついていることにいたします――ご心配ありがとう」「しかしきみは、事態を実際以上に深刻に考えすぎているよ。大丈夫だよ、きみさえ、もうちょっと――」「あなたにわかってるの断言できるの?」彼女はアパートの玄関の階段で振りかえって私を睨みつけた。「ああ、あなたったら、そんなにがまんのならないひとなの。あたしがどう感じるか、あなたにどうやってわかるの?あなたは他人の心の中にずかずか踏みこむっていうの。あなたになんかわかるものですが、あたしがどう感じるか、何を感じるか、なぜそう感じるか」



しかし、このおびただしい夢や記憶の渦にますます深く引きこまれるにつれて感情的な問題は知的問題のように解けるものではないことがよくわかってくる。

だから何もかもうまくいくわけじゃないことも、IQが全てじゃないって伝えてくる




大切なものってなんだろう






知的障がい者に対する差別を受けてきたチャーリイが、自分が「笑われる側」から「笑う側」になっていたことに気付いた時の動揺や悲しさ、恥ずかしさで、「みんなちがってみんないい」なんてみんなと違いすぎない立場だから言えるんだよな~って思ってた


まともな感情や分別をもっている人々が、生まれつき手足や眼の不自由な連中をからかったりはしない人々が、生まれつき知能の低い人間を平気で虐待するのはまことに奇妙である。自分が、ほんの少し前まで――あの少年のように――愚かしい道化を演じていたことを思うと、怒りがこみあげてくる。そうして私はほとんど忘れていた。人々が私を笑いものにしていたことを知ったのはつい最近のことだ。それなのに、知らぬ間に私は私自身を笑っている連中の仲間に加わっていた。そのことが何よりも私を傷つけた。






「りこーになりたい」「ぼくわかしこくなりたい」そうやって願う、母が喜ぶし愛されるし周りと話せるからって健気に願うチャーリイと、手術で賢くなって他人を見下して孤独になってしまうチャーリイ

かしこくなりたいって強く思う気持ちのもとになっていたものは、幼少期に見ていた母の言動

愛されたいという気持ちからなんだろうな


利口になりたいという私の異常なモティベーションは人々をまず驚かすのだがそれが何から発しているかということがようやくわかったと思う。それはローズ・ゴードンが日夜願いつづけていたことなのだ。……一方私は、彼女が望んでいるような利口な子になりたいという気持を持ちつづけていた。そうすれば彼女は私を愛してくれるからだ。



三つ子の魂百までというけど、やっぱり自分の子どもにも愛を伝えることって大切だなって思う

子育てしたことないけど、私がテストで一位を取りたかった理由も、成績をあげようと思った理由も、多分両親(や周り)から褒められたいから、認められたいからだと思うし

「言わなくても伝わるよね」はいろいろ経験して行間を読むことを覚えた大人同士だから成り立つだけであって、子どもにはやっぱりわかりやすいくらい大きな愛をあげることが大切なんだろうな




天才になって語彙力や知識もレベルが高いはずなのに、母に会った時に口から出てくる言葉が白痴の時と同じ「マアアア」だったのが、切なかった










わたし自身も知識を得ることはとても好き、学ぶことも読むこともとても好きで賢くなりたいって思うことも沢山あるけど、人を見下すことはしたくないって常日頃思ってる

知性や教養は人を見下すために身につけるものではないから


でも、チャーリイが賢くなってきた時のパン屋さんの仲間たちやアリスの言葉で「チャーリイと話していると劣等感を抱く」「自分がみじめ」ってあったけど、わかる

「もちろん、ある意味では、あなたは正しいのだと思う。あなたに比べれば、あたしは頭が鈍いほうだわ。近頃、あなたに会うたび、あなたと別れてから、あたしって何につけてものろまで愚鈍だという惨めな気持で家に帰るの。それから自分が言ったことを吟味しなおすと、こう言えばよかったと思うような気のきいた言葉が見つかるの、それであたし、あなたといっしょのときに、そう言わなかったのが口惜しくて自分を蹴とばしたくなるの」「だれにでもあることだ」「以前には思いもよらなかったけど、なんとかあなたを感心させたいなんて思うの。でもあなたといっしょにいると、だんだんに自信がなくなってしまうの。いまじゃ、あたし、自分のなすことすべてに動機を訊ねているありまさよ」

自分にできないことができる人や、自分が知らないことを知っている人を前にするとたまに抱く感情

でもこの話の中でパン屋の仲間たちや、周りの人は、どこか無意識にチャーリイに対して優越感を持っていたんだよね。それが劣等感へ変わる



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新しいことを学んで世界が広がっていくときって楽しいしワクワクするよね、その感覚が何よりも好きかも

だからチャーリイが楽しみながら学んでいたところ共感した




だけど自分の知能が上がって周りが馬鹿に見えて、「みんなと仲良くするために」「みんなに笑顔でいてもらうために」かしこくなりたかったのに、賢くなったら人が離れていくの。皮肉だな






そして、人工的に知能を与えられたねずみのアルジャーノンがどんどん退行していくのをそばで見ていたチャーリイ

アルジャーノンが死んだ時、花を供えて涙を流すの

自分を重ねて見てしまって、自分の結末を知ってしまうよね




アルジャーノンのように、知能のピークに達してから怒りっぽくなったり運動神経が衰弱したり、退行していくチャーリイ

読んだ本の内容も忘れていく

最後に学んだものから順番に忘れていくのだけど、アリスと気持ちが通じ合って愛を知って、このまま時間を止められたらと思う反面無情に進んでいく時間

その時のチャーリイの言葉が切ない

なんとかしていままで学んだものに少しでもしがみついていなければならない。おねがいです、神様、なにもかもお取りあげにならないでください。







「ぼくは実験を後悔していない」「あたしもよ、でもあなたは以前もっていたものを失ってしまった。あなたは笑顔をもっていた……」「うつろな、愚鈍な笑顔をね」「いいえ、あったかい、心からの笑顔よ、あなたはみんなに好かれたいと思っていたから」「そしてみんなぼくをかもにして、ぼくを笑いものにした」「ええ、でもね、なぜみんなが笑うのかあなたにはわからなかったけれど、みんながあなたを笑っていられるうちはあなたを好いてくれるんだってわかっていた。そしてあなたはみんなに好かれたかった。あなたは子供のように振るまって、みんなといっしょになって自分を笑っていた」「悪いけど、いまは自分を笑う気にはなれないんだ」彼女は泣くのを必死にこらえていた。ぼくは彼女を泣かしてやりたかったのだとおもう。「だからこそ、ぼくにとっては学ぶことが重要だったんだ。そうすればひとがぼくを好いてくれるとおもった。友だちができるとおもった。こいつはお笑いだねえ?」「高いIQをもつよりもっと大事なことがあるのよ」


焦り、悲しみ、苦しさ、そういう感情の中で流れていく時間で、どんどん忘れていく彼だけど、アルジャーノンのお墓に花を供えることは忘れないの。周りにねずみのお墓に花をそなえるなんて、って呆れられても、特別なねずみだったからと言って続ける


そして最初に働いていたパン屋さんに戻って、そこで前にいなかった人に少し嫌がらせを受けてしまうんだけど、そこで前の仲間たちが守ってくれる

あとでギンピイが悪い足をひきずてきてチャーリイもしだれかがおまえを困らせたりだましたりしたらおれかジョウかフランクをよべおれたちがかたをつけてやるからなといった。おまえにわともだちがいるってことをおぼいといてもらいたいなそれを忘れるなよといった。ありがとうギンピイとぼくわいった。それで気ぶんがなおった。ともだちがいるのわいいものだな……


知能をまた失い始めても、あたたかい感情を得たチャーリイのこの表現のあたりからわたしダメだった、涙目だった




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アリスのこともキニアン先生とまた呼んだり、自分が書いていた経過報告も読めなくなったり、著しく退行していってしまうんだけど、それでも手術のことは後悔していなくて、少しの間でもたくさんのことを見て知ることができて家族にも会えた、って

そして最後、人に笑わせておけば友達を作るのは簡単だ、というチャーリイ


知ったことを忘れていくこと、愛している人に愛を伝えられないこと、覚えられないこと、寂しいし悲しいから手術せず前のままの方が幸せだったんじゃないかっていう意見もあるだろうけどわたしはチャーリイの言うとおり少しでも広い世界を知ることができて、友だちの存在にも改めて感謝できるようになって、幸せだったと思う




最後の二、三ページで泣き始めて一番最後、ついしんを読んだ後しばらくぼうっとしてからわんわん泣いた


本でこんなに泣いたの初めてかもしれない


今まで出会った本で一番好きなタイトル















真実を知りたいと思う一方では知ることが恐ろしかった。

知らない方が幸せなことなんて数えきれないほどあるけど、何も知らない方が幸せなのか

友達ってなんだろうとか

知性ってなんだろうとか、何に役に立つんだろうとか


人権についてや、動物実験についても、なんとなく考えさせられる



正義とはなにか?ぼくのあらゆる知識を総動員してもこういう問題を解く役にはたたないというのは皮肉である。





読みながらわたしの脳もフル回転していたような感覚










ヘミングウェイの言葉を思い出した

“Happiness in intelligent people is the rarest thing I know.” 










手術前のチャーリイも、手術後のチャーリイも、同じ人間ということ

ぼくは人間だ、一人の人間なんだ――両親も記憶も過去もあるんだ――おまえがこのぼくをあの手術室に運んでいく前だって、ぼくは存在していたんだ!



IQ180の天才でもIQ60の、文章内で言うと白痴でも、人に愛されて認められたいっていう気持ちは同じ




アルジャーノンのお墓に誰かがお花を供えてくれてますように、とか、チャーリイが幸せに過ごせますように、とか、本の中の登場人物に対してでも自然と思う














そもそも翻訳が素晴らしすぎた。原文で読みたいな




「知能だけではなんの意味もないことをぼくは学んだ。あんたがたの大学では、知能や教育や知識が、偉大な偶像になっている。でもぼくは知ったんです、あんたがたが見逃しているものを。人間的な愛情の裏打ちのない知能や教育なんてなんの値打ちもないってことをです」



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