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短編小説 「恋」

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楽しい恋、切ない恋、人生恋に恋して生きる。 1日の終わりに誰かの恋をちょっと覗いて眠りにつくのも悪くない。
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記事一覧

バーチャル遠距離

バーチャル遠距離

あらすじ:
好きな人にフラれた。それでもとても優しい「ごめんなさい」だったのに、受け入れきれない。「受け取るあたしの器の問題だ」透子がそう思って意識的に足を向けた場所とは。
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 フラれた。
 5年勤めてる会社の、3つ年上の、とっても憧れてた人。

 その日はもう週末の金曜。休日の土曜がすぐ来て

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ホワイトクリスマスの祈り(6)

ホワイトクリスマスの祈り(6)

※全6話
あらすじ:
12月23日、日奈子にとって主任 水木との、最後のランチタイム、のはずだった。 2人が折り重ねていく言葉で綴る、優しい大人の恋物語。

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「特別なクリスマス」

 同じ社内にいる20代の女子たちを通して、至る所で惚れた腫れたを見てきた。始まることが出来るだけいいじゃない

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ホワイトクリスマスの祈り(1)

ホワイトクリスマスの祈り(1)

※全6話
あらすじ:
12月23日、日奈子にとって主任 水木との、最後のランチタイム、のはずだった。 2人が折り重ねていく言葉で綴る、優しい大人の恋物語。

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「火曜のあなたがほしい」

 ふと「日曜のあなたがほしい」ってセリフなんの歌詞だっけ?と日奈子は目を細め青空を見上げる。
 表参道ヒ

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ホワイトクリスマスの祈り(2)

ホワイトクリスマスの祈り(2)

※全6話
あらすじ:
12月23日、日奈子にとって主任 水木との、最後のランチタイム、のはずだった。 2人が折り重ねていく言葉で綴る、優しい大人の恋物語。

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「君だけが知ってる」

 水木よりも20は若いだろう男性のウエイターが枯らした声で、本日はご予約ありがとうございますと頭を下げる

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ホワイトクリスマスの祈り(3)

ホワイトクリスマスの祈り(3)

※全6話
あらすじ:
12月23日、日奈子にとって主任 水木との、最後のランチタイム、のはずだった。 2人が折り重ねていく言葉で綴る、優しい大人の恋物語。

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「あなたと買ったブローチ」

 日奈子のスーツの左襟にはツリーとは異なるが小さなスノーフレークのブローチがある。思わず右手でそっと撫

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ホワイトクリスマスの祈り(4)

ホワイトクリスマスの祈り(4)

※全6話
あらすじ:
12月23日、日奈子にとって主任 水木との、最後のランチタイム、のはずだった。 2人が折り重ねていく言葉で綴る、優しい大人の恋物語。

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「君に揺れる」

--街がクリスマスに衣替えすると明るいのに淋しくなります、すこし。

 コートを取って立ち上がった時、さっきの

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ホワイトクリスマスの祈り(5)

ホワイトクリスマスの祈り(5)

※全6話
あらすじ:
12月23日、日奈子にとって主任 水木との、最後のランチタイム、のはずだった。 2人が折り重ねていく言葉で綴る、優しい大人の恋物語。

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「クリスマスイブ、あたしのわがまま」

 六本木駅からほど近いイタリアンバルは個室が1つあったけれど、席がブッキングされていて20代

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ファーストデートの夜が明けて

ファーストデートの夜が明けて

2回目の成人式を迎えるのも、あと片手で数える程度にその時が近づいてきている。

大人になるのは「過去」が増えていくことで、それはなんとなく生きづらさを感じることが増える。今まで通ってきた道から経験したことで、未来の行く手を狭めてしまう自分に出会うことだ。

人間はよく出来ているもので、あたしの場合は高性能に出来上がっているのかよく過去を忘れる。

都合よく美しいものや事だけが、頭の中の壁面に

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深呼吸はルソーで -4-

深呼吸はルソーで -4-

□深呼吸はルソーで

***

図書館が入っている教育センターの一階には「カフェ・ルソー」がある。扇型の店内は入り口付近のレジから奥の席まで一目で見渡せた。皆、一席ずつ空けてソファ席に腰掛け思い思いの時を過ごしている。

私は図書館が好きだ。働く仲間も、静かなその空間も本も。だから例え休みの日でも、職場の近くで過ごすことも嫌ではなかった。

土曜の休みの日、ルソーでお昼を取ろうと開店の時間に

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深呼吸はルソーで -3-

深呼吸はルソーで -3-

□俺の日常

朝焼けに煙草の煙が霞む。
その時、ピコンと携帯のタイムスケジュールが音を立てて知らせたのは「本、返却日」だった。
少しでも苛立ちを軽減させるために2本目の煙草に火をつけた。

緑は相変わらず引きこもっていた。ダイニングに置かれたあの本は読まれた形跡がない。彼女は「読んでる」と主張するものの、俺が置いた位置から1ミリでも動いた形跡がないのだ。12/10の今日が返却日だとは散々吹き込ん

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解禁です。大賞作品が収録された短編集が3/1に発売予定です( ^ω^ ) 念願叶ったりでございます。
https://beans.kadokawa.co.jp/blog/product-info/entry-1491.html

深呼吸はルソーで -2-

深呼吸はルソーで -2-

□私の想像

朝焼けを眺めながら髪を乾かす。コンテディショナーを変えてから髪の通りがいい。
シンプルな壁掛けカレンダーに目をやる。今日は12/10。白鳥晃は返却に来るだろうか?

髪をすきながら自分の指を見つめると、白鳥晃の細く長い指を想像した。彼の指には指輪が一つもはまっていなかった。独身なのか、それともこれから結婚を控えているかはまったく分からない。考えても考えても答えにはたどり着かない。ド

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深呼吸はルソーで -1-

深呼吸はルソーで -1-

□白鳥晃という人

私はストーカーじゃない。言っておく。私は、絶対にストーカーではない。

でも時々自分はストーカーの癖があるじゃないかと思わざるを得ない。

図書館司書としての私は、気になるあの人から本を受け取っては、彼の生活の一部を垣間見るような気がしていたから。

彼はあの本をまだ返却に来ない。

私はその人を脳内で「白鳥晃」と呼び捨てにしている。

「名は体を表す」と言われるのは本当

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白くて透明な恋 -2-

白くて透明な恋 -2-

『ちょっと早いけど、明けましておめでとう。今年もよろしく。あと、報告だけど、佐伯と付き合うことになりました』

昨晩の黒岩からのメール。何度読んでもその文字たちは滲みも溶けもしないし流れもしない。そこにはもう昨日とは違う黒岩が存在していて、言葉を交わさなくても思い合えている誰かがいるのは明確だった。

元日の朝、枕から顔を引き剥がすように体を起こすと、昨日の自分を引きずるように枕が湿ってい

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