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人生が100秒だったら:プロローグ

私に起きたことを100秒くらいに縮めてみよう。人生最期の瞬間、まぶたにフラッシュバックされるっていう、あんなふうに。

「今日、私のところに戻ってきてくれることにした、昔のあることについて」

今日も何も新しいことは起こらなかったなんて言うのは、間違ってるって思うな。「そのこと」はまるではじめて起こったことのように、今日、私のところに戻ってきてくれたのだから。私が抱きとめて書き留めてあげなければ、「そのこと」はこの世界に存在しないも同じなんだ。

いいかい。
この世のすべてのことは、そんなふうに
「誰かが愛して抱きとめてあげなければ存在しないも同じ」なんだ。

ほんとはもうたった今、風は吹いていて、「その何か」は少しずつ消えていってるのに、誰も気づいていないだけなのかもしれないんだ。

だから
今日みつけたものは、たとえそれが何年も前のできごとだったとしても、今日起こったことなんだ。

君の肩にそっと一休みしている「そのこと」が
小さな透き通った羽根を広げて飛んで行ってしまう前に。誰も思い出してくれる人のいない永遠の砂嵐に飲み込まれてしまう前に君はそれを言葉という手に触れることのできるカタチに抱きとめてあげなければならないんだ。

だから
もう何も書けないと言っていた私には、本当はたくさん書くことがあったのだ。もう死んでしまったと思っていた私は、本当はまだたくさん生きているのだ。

時間はたっぷりある。
でも締切りもある。
今日来るかいつ来るか、教えてもらえない終わりの日まで、締切りを味わうがいい。締切りは季節のようにそこに暮らしている人を豊かにする。

「今ここにいるものは、明日ここにいるとは限らない」

命と同じように
締切りはいいものだ。


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