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むつぎ大賞2024

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記事一覧

とうさいばたち

 むつぎはじめ氏の個人企画、【むつぎ大賞2024】参加作品です。  突き上げるような揺れに、目の前でまどろんでいた男が飛び起きた。きょろきょろと首を振って周りを確認してから、また首を沈めるようにして眠りへと戻っていった。  この路線はいつもひどく揺れている。大きな車体を動かすために多くの馬力を使っているからだ、と昔どこかで聞いた。  駅を出た頃には乱雑だった揺れはそのうち一つのリズムへと揃っていく。まるで多くの馬の足並みが揃うように。  実際、この車体は馬たちの力で動いて

恐怖!肉食統制世界の片隅で血まみれの人喰い一族は生きていた

♪おにくにくにく、肉の国、肉の国にはにくたくさん まだ舌が回り切っていない幼い声がいくつか重なり、尾を引くように目の前をあっという間に通り過ぎる。きゃはきゃはと笑い声を上げる子供たちが大型ピックアップを運転する様は間違い探しの絵のようにどこか不気味で、そのままブレーキを踏まずトップスピードのまま治安部隊の車列に轟音をあげて突っ込み、何台も巻き込んで爆炎を噴き上げた。 制止しようと伸ばした腕はなんの役にも立たず空を掴んだままだった。嫌なにおいがする。ガソリンに何かが混じったに

光は亡く燃え堕ちて

 カウンターに六席と、空いた隅に四人掛けのボックスを切っただけの、狭い店だった。随分と古臭い形容をすれば、鰻の寝床のような代物だ。いや、凛々も鰻というものがどんなものかは知らなかったが、界隈の飲み屋としては典型的な、狭い間口の割に奥行きがある間取りを皆、そう言うのだった。  構造の再生コンクリートを剥き出しにした壁面と床。カウンターの天板はおそらく凛々よりも年上で、所々が罅割れ、縁が欠けていた。下手をすると旧時代の遺物かもしれない。それでも水道と電気、空調機が生きていて、独立

再生可能世界伝説【#むつぎ大賞2024】

 何の変哲もない戦士の死体、大陸の先住民居住区から来たと思しき風貌の魔術師の死体、そして勇者大学を出たばかりの若い勇者の死体が三者三様の姿勢で「基準塔」の床に転がされている。 返り討ちであった。彼らの奇襲は読まれていたのだ。 目的地である塔の最上階までは目と鼻の先というところだったのに。 そして残されたエルフの尼僧は、死闘を制した直後で息を荒げた遺跡荒らしに囲まれて困惑したように微笑んでいる。 降参しようと両腕をあげたら、何やら彼らを怯えさせてしまったのだ。 「何だ、その構

焜炉 #むつぎ大賞2024

 サビカスが手を止めて向き直った。先ほどまでの明るかった表情と一転して、明らかに強張っている。 「知らない。覗こうと思ったこともない」  怖いし。付け足したようなそれは独り言のようにも聴こえた。  それから彼女は、小さい身体でようやくスコップを持ち上げ、また唐辛子を巨大な釜を支える焜炉の投入口へ黙々と投げ込み始めた。  もう特産の“辛味”については話してくれない。 「悪かったよ」  僕が言うと、サビカスは振り返って少しだけ笑みを浮かべたあと首を振った。  部屋が暖まってくる

ブレイン・ブレイン | #むつぎ大賞2024

「脳力来来、脳力来来」  円形の構造物のなか。そこはただひたすらに広く、床も壁もドーム状の天井も、すべてがほの白く輝いていた。  冷たく、茫漠さすら感じさせる、漂白された空間。  そのなかで、少年少女たちは一心不乱に唱えつづけている。 「脳力来来、脳力来来」  彼らは整然と立ちならんでいる。大勢だ。千人にも達しようという少年少女たちだ。その肌、その髪、その瞳の虹彩、身に着けているローブじみた長衣まで、すべてが白い。まるで、漂白された空間に溶けこんでいるかのように。 「

アマノイワト

 ────18:45/02/09/2044  東都外郭第13地区『東都第19風雷発電所』は台風による暴風圏の真っただ中にあった。  敷地内には数百を超える巨大風車が林立し、秒速55mの強風を受け轟音と共に回転する。  屋根に叩きつけられた雨水は導線に従いひとつの濁流となり、屋根から瀑布めいてタービンを打ち据える。  無数の墓標のような避雷針群は、常にそのいくつかが轟雷を受け止め、刹那の激しい光を放つ。  同発電所統合管制室。  全発電設備は24時間体制でモニターされ、毎分ご

師匠と弟子、そして世界の卵

「で! これはいったい! 何なんですか!?」 「君ねえ、追われている真っ最中にそんなこと聞くもんじゃあないよ?」 「追われている最中だから、せめてその原因が何なのか知りたいんです!」  四脚蟹の魔導モーターが唸り、さらに言いつのろうとする弟子の言葉をかき消した。横向きの蟹がはじかれたように駆け出した瞬間、周囲に茫洋とした魔法陣が浮かび上がる。 「召喚陣!?」 「だねえ」  青白い光から赤い塊が飛び出す。塊は六本足で大地に降り立つと、勢いよく蟹へ向かって駆け始める。夜の暗闇の中

日緋色の鋼鉄装甲

「よくぞ見得を切った! 少年!」  その声はジョーンにとって聞き覚えのある声だった。ゆっくりと瞼を開くと、足元に影が落ちている。恐る恐る顔を上げ、太陽を遮るものを瞳に写した。 「……! ……白い……鋼……」  見たことのない鋼鉄装甲だった。純白の装甲に、全身を巡る血潮の如く赤い線が揺らめくように光っていた。  背には身の丈程の物干し竿のような棒が備えられている。色合いと表面材質から見て、白い鋼鉄装甲と同質の素材らしい。  フェイスメットの下の素顔は伺い知れないが、声から

発狂頭巾二世 ep.32 レガシー・オブ・ザ・マッドネス

 発光灯が青白く照らし出す書物棚の壁の向こうに、その男はいた。 「八」  貝之介は一歩踏み出して、男の名を呼んだ。  呼びかけに、八はゆっくりと振り返った。 「遅かったでやすね」  ぴちゃり、と八の自立繊維草履が水たまりを踏んだ。水たまりを構成する紫色が自立繊維の力場から逃れるように空白を作った。紫の液体は貸本屋、馬鈴の亡骸から流れ出た人工血液だった。胸につきたてられた非振動カタナの傷口から紫色の川はなおも流れ出ている。  馬鈴の半機械の巨体は八の背後で一つの書物棚を守るよう

星海を掃く者 ―ANYTHING < HUMAN―

 〈青耀〉がゴルディアス同調によってその指令を受け取ったのは、彼が零点振動リパルサーで恒星『全天星表番号69335688922687829160204592150189』系の第十二惑星に住む蒼生の頭上に、第二衛星を落とした時だった。奴婢共がダイソン球建設のための立ち退き要請に抵抗したためである。  “帝国”こと〈大八巨大数洲〉は上古より蒼生の頂点に御して多元宇宙に照臨し、自らの御稜威でもって乾坤から海隅の蒼生に至るまでを照らす天帝の資産の一つに数えられる。その伝宣を担う帝国府

サイバーパンク・サーヴァント #むつぎ大賞2024

本作品は「むつぎ大賞2024」の投稿作です。 「彼を殺した凶器はこれだよ」  マスター・アイリーンがポリ袋かかげる。中には弾丸がはいっていた。硬い何かに命中したらしく、潰れていた。 それを見たサイバー魔法使いの男が鼻で笑った。 「バカバカしい。被害者は戦闘用義体の完全サイボーグだ。その弾丸は被害者の装甲に弾かれてる。大方、どこかのチンピラにでも撃たれたのだろう。死因は私が診断した通り、脳停止ウィルスによるものだ。おそらくどこぞのダークネットにアクセスして感染したのだろう

LIGHTS!COLOR!ACTION!#むつぎ大賞2024

「どぅあ~め!アンタが扱うには9年早いザマス!」  極彩色に輝く中年の女性がモノクロの少年の頭に指示棒を幾度もペシペシと叩く。 「いいだろ!妹の誕生日にピンク色のケーキにしてやるって約束しちまったんだよ!だから!赤と白の使い方を教えてくれよ先生!」  少年が女性の極彩色に輝く服の裾を掴み揺らす。そのたびに衣服から輝きが飛び、周囲に僅かに色彩を与える。  机に当たれば机がめきめきと音を立て隆起し木になりかけ。教室の角の水槽に当たれば水流が巻き起こる。女性はその現象を見てフ

ノイズゴースト・ハンターズ

「えー……諸君らも知っているとおり、彼が作ったコイルの塔での無線送電システム。この実験が成功したことにより第二次産業革命が起こり、世界中の電気という電気は全て無線で送信されている。」 眠い。 寝るととんでもなく怒られるから寝ないようにして窓の外を眺める。 全く、昨日も寝るのが遅かったというのに、この先生はそんな学生のことを考えることすらしない。いや、それをこの先生に求めるのも酷な話か。 そもそも我々の活動は両親にすら知られていないわけだ。我々が昨日行った大立ち回りとそれにより