雨宮桜花

もの書くうさぎ。百合小説とか、その他諸々。

雨宮桜花

もの書くうさぎ。百合小説とか、その他諸々。

マガジン

  • 雨宮WIP

    未完結、シーンのみの小説作品まとめ。 主に企画ものです(逆噴射小説大賞、むつぎ大賞)。

  • 雑文書き

    小説ではない雨宮の文章類。企画ものもあります。

  • 短掌編集

    Noteにある短編、掌編作品まとめ。完結のみ。 新旧いろいろ、企画参加作品も含みます。

最近の記事

処方箋:純粋な幸せ、0.5mg

 苦しみも悲しみも、貧困も戦争も、ぜんぶ過去のこと。わたしにはちょっと重たい汎用タブレット、ストレージの隅っこに収まった、歴史の教科書に載っている。  溢れかえるくらいのたくさんの幸せで、みんな満たされているのに、くぅちゃんはいつも難しい顔をしていた。 「くぅちゃん。くぅちゃん?」  さて、初等教育課程の授業は、ここでやっと中休み。  授業はだいたい、退屈だ。何をしているのかもよく分からない試験の次くらいには、あんまり好きじゃない。  伸びをしながら隣の机を見る。そこにくぅち

    • ドレスメイカ

      「そんな噂、馬鹿げていませんか。デバイスが人間に成りすます、なんて」 「確かに見たことも聞いたこともないが、どうだろうね」  我ながら暢気な話だったと、茉莉は思う。脈絡のない話をし始めたからか、それはどうにも態とらしく、小首を傾げた。 「前にそんな話をした覚えはあったが、与太話とばかり。なるほど姿形は似ていなくもない、しかし君は詩織じゃないな」 「いいえ、私は詩織です。それ以外の何に見えるというんです」 「分かるさ。ドレス自体は隅まで良く出来ている、しかし動かしてみれば人間

      • なんか生きてます。

         あけましておめでとうございます。一年の2/3がもう無くなりましたが、いかがお過ごしですか。雨宮です。  このテキストは逆噴射小説大賞2023ライナーノーツの予定地でした。非常に今さらながら。  今となっては語ることもなし……箸にも棒にも掛からなかったのもご愛嬌というもの。たまにはコテコテの厨二ネタを触りたかったし、訳の分からぬマイナー過ぎるネタも弄りたくなったので後悔はしていないです。上限まで撃ったという結果も残ったことだし。  来年も興味と性癖に忠実に行きます。忙しそうだ

        • 光は亡く燃え堕ちて

           カウンターに六席と、空いた隅に四人掛けのボックスを切っただけの、狭い店だった。随分と古臭い形容をすれば、鰻の寝床のような代物だ。いや、凛々も鰻というものがどんなものかは知らなかったが、界隈の飲み屋としては典型的な、狭い間口の割に奥行きがある間取りを皆、そう言うのだった。  構造の再生コンクリートを剥き出しにした壁面と床。カウンターの天板はおそらく凛々よりも年上で、所々が罅割れ、縁が欠けていた。下手をすると旧時代の遺物かもしれない。それでも水道と電気、空調機が生きていて、独立

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        • 雨宮WIP
          11本
        • 雑文書き
          13本
        • 短掌編集
          3本

        記事

          スーパースピードアグレッション!

           狙う的はあの舐め腐ったクソ女の乗艦、真っ白な大型フリゲート。生きてるうちに一発ブチかましておかないと気が済まなかった。 「紗良! 主機もう少し出して!!」 「ムリ! 両舷全力いっぱい!! マジでブッ飛ぶっ!!」  機関チェックモニタに齧り付いた紗良が、全力稼働中の高速ディーゼルエンジンより喧しい悲鳴を上げる。無線機要らずの大声だ。  45ノットを超えると、水飛沫も豪雨と大差ない。高速艇用の六点式シートベルトで座席に括りつけられても、風圧で座席から吹き飛ばされそうな錯覚に

          スーパースピードアグレッション!

          天使の蝶

           空に響く旋律。白く灼けた街の骸。  天使殺しは稲妻を走らせるように、左右へ折れながら駆ける。  狩りの獲物を追うように、風切り音が耳を掠めた。  自動拳銃のグリップを握り締める。こんなことを長く続けてはいられない。銃弾は言うまでもなく、体力も集中力も有限なのだから。    躊躇いなく、半ば崩れた壁を跳ぶ。束の間、視野が大きく開けた。  白大理石の彫像じみた、細い体躯と一対の翼。  光の亡い、灰白の眼。    天使の眼が、機械的に天使殺しを捉えた。  咄嗟に、左手でナイフを

          天使の蝶

          雑文書きという愉しみ #呑みながら書きました

           Q.呑んどる場合か? ようつべのマイクラ肝試しいいよね。  A.呑んどる場合だ。ついでに書いとく場合だ。デンカレとAsrielと少女病はいいぞ。  というわけで今回もこそっと参加。身体は睡眠を求め精神は娯楽を求めていますが敢然と呑み書きをやる。  へっだーは写真はうちの子です。銀髪が祈(いのり)で灰髪が謳(うた)。かわいいでしょう。  しかしいっつも極限状態で書いてんな雨宮。  実はレギュ上飲み物は酒であるう必要はないが、ハイボール作って呑んでます。このアル中野郎。

          雑文書きという愉しみ #呑みながら書きました

          お前はミートソースを作って食え #AKBDC2023

           よく来たな。私は雨宮だ。  私は百合を書いているがまだお前に見せる気はない。今書いているテキストをnoteに載せたが最後、このアカウントは十秒後に月より遠くまで爆破されることになっている。    代わりに、今回は真の男に相応しいミートソースのレシピを伝えよう。作って食え。  もちろんこれを読んで、お前や私のアカウントが空高く吹き飛ばされる心配はしなくていい。 ・真の男に必要なミートソースのリスト  真の男は多くを必要としない。  つまり、タマネギと挽肉、そしてケチャップ

          お前はミートソースを作って食え #AKBDC2023

          指の練習に #呑みながら書きました

            なんかこういう月らしい。企画は前から知ってたけどちょうどいい。ちょうどシードルがある。りんごの朝明ですね。お酒。  つまみにキットカットを添えて。  ふぃぃ。辛い。端麗です。れっつごー。疲れてるのですぐ回るはず。  故会って死ぬほど労働してる。仕方ないね。夏コミの原稿が英会陰永遠に終わらない。  百合。百合。重めのやつ。いつもの雨宮。  まあ死んだりはしないけどえっちはする。どうやって???(’ちょうど悩んでいる)  合法おねおり、いやおねロリ。しっかりしてATOK。

          指の練習に #呑みながら書きました

          Existence

           命尽きるまで天使が途切れることなく詠う旋律の意味を、正確に知る者は誰もいない。  ただ天使殺しの銃弾は理解よりも迅速に破壊を齎し、銃声は旋律を掻き消した。  人形を連想させる、表情の無い相貌が白く砕ける。制御を失った肉体が、焼け焦げ、煤けたコンクリートの瓦礫へと頽れた。  いや、銃声が天使の旋律を圧したのは一瞬だけだった。自動拳銃の短い速射は、巡察隊を先導する天使を一体、撃ち斃しただけだ。  天使は個体の識別が付かない。虚ろな灰白の瞳が十二、一斉に天使殺しが潜むコンクリート

          全ては物語のために《少女病完結に寄せて》

           少女病について書こう書こうとは思いつつ、相変わらず筆が乗らないまま大晦日まで来てしまった。  まさか今年の出来事は今年のうちに……というほど殊勝な生き物でもなし、だいたいインターネット上でも少女病という同人音楽グループを何人が知っているのか、と思うと投稿する手も鈍る。  しかしながら、終わらせておくべきなのだろう。少女病がその終わりとなるラストアルバムを発表し、長く停滞していた物語を終わらせたのだから、私も布教兼備忘録としてここに残しておく。  まとまりのない文章ですがご容

          全ては物語のために《少女病完結に寄せて》

          何を書くにしても原稿は続く《逆噴射小説大賞2022結果発表&追いライナーノーツとなんか》

           今更ながらお疲れ様でした。ヘッダー写真は自前で買ったコロナビール。実質的に大賞賞品。  私は二次選考止まりでしたが、むしろよく行ったもんです。どうせ通ってないと思って大騒ぎしましたが申し訳ない…汗  こちらが今回のやつ。読んで。読んで?(圧)  読まれは世界を救う。ありがとうございます。  最終と講評までは辿り着けませんでしたが、とにかく何かに当たったんだろうなぁと思うと、嬉しいものです。  感想もたくさんあればあるほど嬉しいので、半永久的にお待ちしております。お待ちして

          何を書くにしても原稿は続く《逆噴射小説大賞2022結果発表&追いライナーノーツとなんか》

          無理解、不理解、理解されようとすらしない。《逆噴射小説大賞2022ライナーノーツ》

           よく来たな。割と冗談抜きで。  ほぼ一年ぶりの雨宮です。久々にMexicoを吸いに来た。去年は転職今年はコロナ(幸い濃厚接触で済みました)、私事でいまいち腰が入らない中での参戦でしたが、ともかく今年も一発めり込ませて来ました。いい気分だ……。  今回の投稿分はこちら。これのライナーノーツをやります。  今年で3週目、パルプ小説というやつは相変わらず霞の如き様相で、何が何やらさっぱりとはいえ。  細かいことは抜きにして、最高にワクワクドキドキドライブさせてくれるテキストがパ

          無理解、不理解、理解されようとすらしない。《逆噴射小説大賞2022ライナーノーツ》

          ソドムの城郭、或いは微睡む人形

           それなりに長い間、城郭の稼業に親しんだ依莉も、瑠花のことは詳しく知らない。  代わりに噂や冗談紛いの話なら、いくらでも客や同僚から聞かされた。そこで彼女は、眠らず、食事も摂らず、誰かと情を結ぶこともない、性処理と売春のためだけに生まれたのだと、大袈裟な畏れと軽蔑をもって扱われた。  住み込む必要もないのに、瑠花は日々のほとんどを城郭のバックヤードで過ごす。怜悧な顔立ちは常に退屈そうで、フロアの乱痴気騒ぎ以外に動くことはなかった。  逆に、フロアへ出る前に固形物を摂ることは、

          ソドムの城郭、或いは微睡む人形

          祝祭と冬の終焉り

           最後に寝間着を着て眠ったのは、いつだったろうか。フランツィスカ・ヴィンターは、粗末なチェック柄の毛布から這い出してブラウスのボタンを留め直す際、そんな些細なことを考えた。  寝起きの頭で記憶を辿ってはみたものの、具体的にいつが当てはまるのか、フランツィスカは思い出せなかった。日々の軍務の繰り返しが、細やかな記憶を摩滅させてしまったらしい。  年が明けたばかりで、多少の暖房が焚かれていても室内は肌寒い。無意識下で急かされるようにフランツィスカは靴下とズボンを穿き、ズボン吊りを

          祝祭と冬の終焉り

          金木犀

           ふわ、と甘い香りが鼻孔を擽った。それだけで普段と変わらない大学の構内が、何となく新鮮なように感じられた。  晴れているせいで陽気は少し暑いぐらいなのだが、それを埋め合わせてあまりあるほどの涼やかな風が、心地好い。金木犀の香りに誘われるままふらふらと歩いていると、不意に軽く背中にかかる重みを感じて、私は立ち止まった。 「聖奈」 「紗夜、どうしたの?」 「見かけたから、つい」  それを待っていたかのように、彼女は後ろから肩を抱くように腕を回しながら、私の名前を呼んだ。柔らかで心