催眠:不安や緊張と友達になろう

●不安や緊張を引き起こす原因

不安や緊張は、その2つの言葉を並べるだけで、とてもネガティブな印象を持っています。しかし、考えてみてください。もし不安や緊張が全くない状態になったとして、あなたにとってそれは健全な状態でしょうか?

不安が全くない状態、不安が全くない生き方、それはきっとあなたにとって何の刺激もないつまらない世界です。人は不安を克服することで達成感を得たり、解消することで精神的な成長をすることができます。不安を感じることは、未来に起こりうる危険を察知することですから、問題を回避するためにも必要な本能なのです。

また、緊張についても同じく、人は力みと弛緩によって心身のバランスを取ります。力みを解けば緩み、緩みを締めれば力が入る。これのバランスが取れていないと、まっすぐ歩くこともできないでしょう。全ての関節に力を入れないようにしてみてください。そうしたらまず立てないですよね?

では、ここで不安や緊張を引き起こす原因について考えてみましょう。

これらの原因には、主に外部からの刺激が挙げられます。

たとえば、太陽が沈み暗くなれば、「暗くて心配」という不安が生まれます。太陽が昇り、太陽に当たることで「朝だ、学校/仕事にいくぞ!」という緊張が生まれます。これらは極めて日常的な反応です。

実のところ、「よくない不安や緊張」というものは存在しません。心身にとってよくないこととは「長期に渡って、外部からの刺激を受け続けること」だというべきでしょう。

人の心はゴムと同じように、押されれば凹み、引っ張れば緊張するものです。しかし、ゴムであってもドンドン伸ばし、その状態を継続してしまうと切れやすくなったり、伸びてしまったりするでしょう。そうなると元の状態に戻ることができない。これが心身症の発症ロジックです。

そして、伸びてしまった心のゴムを戻すためには、何らかの治療が必要になります。でも、軽微な不安や緊張が一時的に生じているのであれば、いきなり治療することはありません。まずはそうなりにくい心を育成していくことで、結果的に心を成長させることができるようになります。

昨今、災害などによって強い環境変化の刺激が、心身に長期のストレスを与えていることでしょう。こういった方々に対して、今回は、不安や緊張と仲良く付き合っていく方法をお話いたします。

●不安や緊張と手を繋ぐ

人は「自分が知らない情報が存在する」ことや「自身の影響力がおよばない状態」などに対峙すると、不安や緊張が生じます。そして、それらの情報に対して、脳が「怖い」というシグナルを発信することで、見えないモノを探そうとし始めます。これが不安の発生起点になります。

たとえば、「暗い」という1つをとっても・・・

視界が見えづらい
見えづらいところから何か出てきそう
自分に危害を加える何かだったらどうしよう
この暗さを解消する手段が無い
どうしよう、怖い・・・

といった流れです。

不安が生まれるとそれらに対し、様々な対応バリエーションを過去の記憶から探し始めるのですが、パターンに当てはまらないときに、人は恐怖します。恐怖を感じると身体が硬直しますのでここで緊張が生まれるわけです。これらの緊張と不安が長期に継続すると、先ほど挙げたように、心身に悪い影響が生じ始めます。

心療内科や精神科では、これらの強度の不安などを不安症、強度の緊張など緊張症、強度の恐怖などを恐怖症といった分類を行いますが、これらの症状は催眠療法で十分緩和することができます。

ちなみに、精神医学的には「対象のない恐れの感情」を「不安」、「対象のある恐れの感情」を「恐怖」と定義していますが、催眠療法においては、これらを総じて「自律神経、特に交感神経が敏感になりすぎている状態」と捉えています。

催眠療法では、副交感神経優位となる催眠状態を活用し、「病的な不安」を「正常な不安」に変化させていくことで、それらを受け止めるための心の器を作っていきます。

しかし、毎回催眠療法を受けるわけにもいかないというのが現実ですので、これらの不安や緊張と一人で対峙していく必要があると思います。

重篤な不安症などに発展する前に、自身の心の力で「正常な不安」に変えられたら、きっと生きることがとても楽になるでしょう。不安や緊張は敵ではありません。常にあなたのそばで、あなたを守る存在なんだと考え、対話をしていきましょう。

●日常生活における不安や緊張を緩和する方法

なにが原因が分からないけれど、不安になる・緊張するといった場合には、総じて「寝れない」という症状がついてきます。寝れないことで脳が緊張しはじめると、より強い不安や緊張になってしまうので、そうならないために、日常生活における不安や緊張を緩和する以下の方法をとってみてください。

この技法は、自己催眠における自律訓練法を簡易にしたものですが、私は自律訓練法全てを習得するのにはとても長い時間を要しました。せっかく効果が高いので、エッセンスだけでも取り出せないかと考えた技法が以下になります。これはとても効果が高いので、ぜひお試しください。それから、ゆっくりと寝て脳を休めることが、不安や緊張を解消する最も最適な療法です。

<実施環境>
●できるだけ大きな刺激音の無い場所を選んでください。
●直射日光が当たるところは避けて、光の刺激はできるだけ減らした場所にしてください。
●寝る前など、その後にリラックスが継続できる場所であることよいでしょう。

<準備運動>
①足を肩幅まで広げ、まっすぐ立ちます。

②両手を肩の付け根につけて、肘で円を描く様な感じで前後5回ずつぐらい肩をゆっくりと回します。

③次に、両手をリラックスした状態でだらんと下げてた後に、肩の力でギューッと両腕を持ち上げて力んでください。そして、一気に脱力します。これを3回繰り返します。

④椅子に座り、背中を背もたれにきちんと付けて身体の力を抜いてください。

⑤両手を太ももの上にのせ、手の平を上に向けて、楽な姿勢をとってください。

⑥目を閉じて、鼻からゆっくりと空気を吸い込み、お腹を膨らませます。大きく吸ったら3秒ほど停止し、口からゆっくりと長めに空気を吐きます。これを5回繰り返してください。

⑦深呼吸が終わったら、目を閉じたまま普通の呼吸に戻り、両手に意識を向けてみましょう。ぴりぴりする感覚やジンジンと少し温かくなっているでしょうか。ゆっくりと目を開くと、あなたは今、とってもリラックスしていることを実感できるかと思います。

⑧ゆっくりと目を開いてください。少し視界がボンヤリしているかもしれませんが、首の力、肩の力がスッと抜けていることが分かでしょう。

<簡易リラクゼーション法>
①両手を太ももの上に載せた状態で、軽く目を閉じてリラックスしてください。つらくなければ首を少し前に倒してください。

②目を閉じたままで、右手の平を見つめ、そこに意識を集中して行きます。そして、意識が集中してきたら、「右手がずしっと重くなる」と小さな声でぼそぼそとつぶやいてください。右腕が太ももにず~んと沈み込んでいくようなイメージをしながら、自分の呼吸を吐く度に、ず~んと重くなるイメージをしてください。

③だんだんと、だんだんと右手が重くなり、自分の右手がまるで自分のものではないような、ふわっとした感覚が出てきます。「持ち上げようと思えば持ち上がるが、ぐったりと疲れたように重くなる」と考えてみてください。右手にそんな感覚が膿まれてきたら、次は同じように左手が重くなるイメージをしてください。

※本来の自律訓練法では、この後に四肢に発展し、全身の重感に進みますが、そこまでは必須ではありません。

④両手が重く、だる~くなったら、その部分に意識を向けてください。楽に呼吸ができるでしょう。そして、息を吐くごとに、今度は両手がポカポカと、温かくなってきます。頭の中で、ホッカイロを両手に乗せているようなイメージをしてください。じんわりと、じんわりとその暖かさが、手を通して身体の中に染みこんできます。とても気持ちが楽になります。

⑤その暖かさを、心の中で全身に伸ばしていきましょう。まるでバターを熱いパンに塗るように、熱したバターが全身に広がっていくイメージです。ほわ~っと暖かさが全身に広がります。

⑥そんなポカポカした落ち着いた状態であっても、あなたの頭はすっきりとしています。

⑦全身の力みが緩み、色々な部分の関節が少し伸びるような不思議な感じ、そしてそれはとてもリラックスした落ち着いた状態です。

⑧落ち着いている状態が実感できたら、心の中で以下の言葉を3回唱えてみてください。(自分の言葉でもかまいません。)
「いま私は、とても落ち着いています。そして、気持ち良く呼吸ができます。
ゆっくりと呼吸をするたびに、全身に新しい空気が染みこんでいきます。
とても心地よくリラックスしています。」
⑨そのまま寝られるのであれば寝てしまってもよいのですが、もしその後、しっかりと目を覚ましたければゆっくりと起き上がって、手足の力の入り具合を確認した上で、冷たい水などをゆっくりと飲んでみましょう。きっと頭がすっきりとして疲れが取れているはずです。

重さを感じることは、イメージさえできればそれほど難しいものではありません。逆に、重さや暖かさを明確にイメージができないのであれば、実際に重い物を持ってみたり、温かいものを持ってみたりすることで、イメージをしやすくなるかと思います。

心に新しいパターンをいれるために、体感しイメージする。これを繰り返すことで心はどんどん成長していきますので、不安や緊張といきなり真っ向から向かい合うのでは無く、緩やかに仲良くなってみてください。

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