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【青い春夜風】

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悩める2人の不登校少年と、その2人を3年間担任した1人の若い熱血教師の物語。「青春とは何か?」という問に対して、3人は答えを見つけることが出来るだろうか。
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#長編小説

青い春夜風 30

青い春夜風 30

Before…

【三十】 二年前に成人となり、今年で二十歳。昔「成人式」と呼ばれていた式典は今「二十歳の集い」なんて呼ばれている。準備を終えて煙草を吸っていると、照れた顔をした幼馴染が時間通りに来てくれた。
「光佑、袴か!似合ってんじゃん!」
 ずっと俺の面倒を見てくれた光佑は予告通り、黒を基調に銀のド派手な袴で登場した。本人はとっても嫌そうだけど。さて、どこから振り返ろうか。まず、中学を出るあ

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青い春夜風 29

青い春夜風 29

Before…

【二十九】 待ちに待った体育祭は、恩師の暴力によってあっけなく中止となった。翌朝、浅い眠りから覚めたのは朝の五時頃だった。雅はきっと起きているが、昨晩ビールを一杯一気に飲んでから、ずっと布団に籠って出てこない。
 昨日の暴力事件を、煙草を咥えて振り返る。いや、あれを果たして「暴力」という言葉で片付けてしまっていいのだろうか。

 登校した俺たちを待っていたのは二年前、結果的に延期

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青い春夜風 28

青い春夜風 28

Before…

【二十八】 天候にも恵まれ、テント上げや放送機器の準備といった直前の準備が終わり、他の先生方と教え子を迎える為に職員室へ戻る途中だった。自転車で三年の生徒が登校してくる姿が見えていたので、「ちょっと教室見てきます」と伝えて他の先生たちよりひと足先に教室へ向かった。
 昨日の夜、遅くまでかかってしまったが「黒板アート」というものに挑戦した。海賊漫画のワンシーンで、腕に仲間の印をつけ

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青い春夜風 27

青い春夜風 27

Before…

【二十七】「今日は早いじゃねぇか、下手すりゃ学校開いてねぇんじゃね?」
「大将は皆の気持ちを盛り上げないと!鼓舞、ってやつよ!」
「大将、なぁ。にしても騎馬戦大丈夫かよ?」
「ど真ん中に光佑いるんだから大丈夫だよ。信頼してるぜ?」
「あいよ、その信頼には応えねぇとな。」
 いつもより三十分以上も早く、俺たちは家を出た。まぁいつもがギリギリ過ぎるので何とも言えないところはあるが、こ

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青い春夜風 26

青い春夜風 26

Before…

【二十六】「今まで本当によく頑張った、グランプリおめでとう!」
 拍手喝采、喜びの余り涙を流す女子、それに引っ張られて笑いながら頬を濡らす男子。夏休みが終わり、期末試験も無事に乗り越えると、我が校は一ヶ月行事ムードが訪れる。感染症の流行でかなり小規模になったままだが、二週間で合唱練習及び本番になるコンクール。九月の下旬から始まった合唱期間、贔屓目抜きに三年三組の団結力が強力過ぎた

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青い春夜風 25

青い春夜風 25

Before…

【二十五】 夏休みのド頭で襲われてから、あれは何事だったのかと思うほど何も起きないまま、夏休みの最終日が訪れた。あれから親父は帰ってきていない。医者には雅のばーさんがその都度連れて行ってもらい、あの怪我はもう完治したと言っていいくらい回復した。

「今日の晩飯は?手伝うよ!」
「んじゃテーブルの上片付けて拭いといてくれ。メシ食ったら俺がシャワー浴びっから、先済ませちまえ。上がる頃

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青い春夜風 24

青い春夜風 24

Before…

【二十四】 安静という自宅謹慎の日々は、一日は長く感じても一週間だとあっという間に過ぎ去らせる。雅のばーさんが町内旅行から帰ってきた後も、雅はうちに泊まってくれた。寝床は一人よか狭く蒸し暑いが、時々傷が痛む時に氷を袋詰めしてくれたり、鎮痛剤を引っ張り出してくれたりと何度も何度も助けられた。

 晴野先生が来てから一週間が経った頃、親父が帰ってきた。八月になったばかりのクソ暑い日の

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青い春夜風 23

青い春夜風 23

Before…

【二十三】 家路を走る車の中で、ぐちゃぐちゃだった頭の中をひとつひとつ整理しようと試みる。
 午前中の部活までは、特に大きな問題も無くいつも通りだった。熱中症対策で午前七時半開始のため、定時より一時間早く出勤した。午後はリフレッシュするために休暇を取得。行きたいラーメン屋があったので、そこで美味いもんでも食べてから買い出しに行って、夕方くらいからのんびりしようと決めていた。

 

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青い春夜風 22

青い春夜風 22

Before…

【二十二】 意識が「おかえり」を告げた頃には、四人の客人は既に帰っていた。沢山のお菓子とジュースを残して。
「やーっと起きたか。俺まだ鼻血止まんねぇんだけど。やってくれたぜ。」
 頭がぐらぐらする。物理的にもそうだが、昨日のダメージも残っているのだろう。
「ってぇ、今何時だ…?げ、俺どんだけ寝てた?」
「三十分ないくらいじゃない?疲れてたんだろ。あとさ、そのさ、ありがとうな。あい

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青い春夜風 21

青い春夜風 21

Before…

【二十一】「光ちゃん、本当に大変だったわね。」
 雅のばーさんに医者へ連れて行ってもらい、幸いと言っていいものかは分からないが折れたアバラは一本で、バンドをして痛み止めを服用していれば夏休みが終わる頃にはほぼ完治が見込める、と診断を受けた。
「ばーさん、すんません面倒掛けて。ありがとうございました。医者代は親父が帰ってきた時に、ワケ話してお返ししますんで。」
「いーのよ、いつでも

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青い春夜風 20

青い春夜風 20

Before…

【二十】「…ってことがあってな。悪いが、もしかしたら休み明けに迷惑掛けることになるかもしれねぇ。」
 放課後、雅の商店で久々に店番しながら勉強していると、木ノ原と小関が訪れてきて今日のトラブルを報告しに来た。
「マザコンの林に、ネチネチの森田か。あいつらタチ悪いからなぁ。でもまぁありがとねん、三組はあいつらの言いなりから外れたわけだ。」
 最近の雅はこのネタになると妙に張り詰めた

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青い春夜風 19

青い春夜風 19

Before…

【十九】 土日を挟み、今日の登校日を最後に夏休みへ突入する。
「何で今日授業あるんすかー?一日くらいいいじゃん!」
「仕方ないだろう、カレンダー通りに行くとどうしても今日一日は登校日になっちまうんだから。五時間目は授業潰して学活なんだから辛抱しろ。」
 うぃーす、と木ノ原を筆頭にかっ怠そうなクラスメート達を宥めながら朝のホームルームを終えた。正直俺だって休みにしてほしかった。祝日

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青い春夜風 18

青い春夜風 18

Before…

【十八】「お疲れさん、参謀。乾杯。」
「おっつー!かんぱい!」
 学級レクでの雅の功績を称え、今日は俺ん家で飲もうという話になった。学校に戻ってから約二ヶ月、お互い支え合い、平野や篠、吉田といった長い付き合いの連中の手も借りながら、何とか順調に学校生活を送っている。五月の実力テストの結果には自分自身驚いた。中一の時のテストなんて下から数えた方が辛うじて早い、くらいの成績だったので

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青い春夜風 17

青い春夜風 17

Before…

【十七】 連休が終わり、祝日が無い上に三年生最後の大会で大忙しな六月も文字通り駆け抜けるように乗り切って気付けば夏休みを目前に控えている。俺が持つ部では結果を残せず、市内大会で三年生は引退となった。頑張り抜いた三年とともに、俺も悔しさと感動の涙を流したものだった。

 連休明けに突然解消された三年三組の不登校問題は、ひと月半で僅かに、しかし確かに学級の色を変えた。元々高いポテンシ

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