風木 愁 -Syu Kazaki-

風木 愁 -Syu Kazaki-

マガジン

  • 【詩】

    心に浮かんだまま書き殴られたものたち。

  • 【日記・料理・エッセイ】

    日々の生活の中で、詩や小説とは違うなってものをこちらに。自炊料理が主になります。

  • 【ほろ酔いゲシュタルト】

    階段から始まる怪談。この世とあの世の境界で生きる意味を探す。蛇のように細く、長く綴っていきたい一作です。

  • 【紫電】

    詩・長編小説と同時進行で書き綴る、何と呼べばいいか分からないものたち。此処に残ったものは、何時か必ず武器に為る。

  • 【青い春夜風】

    悩める2人の不登校少年と、その2人を3年間担任した1人の若い熱血教師の物語。「青春とは何か?」という問に対して、3人は答えを見つけることが出来るだろうか。

最近の記事

滝壺

 季節は真冬だというのに何時間走り続けただろうか。  車で片道だけで数時間。一時間そこらでは済まない。それを往復である。しかも弾丸で、何処かに旅行へ行ったわけでも目的があったわけでもない。いや、目的はあった。腐れ縁を迎えに行くという目的が。  その腐れ縁の友人は車に乗ってからずっと頬杖をついて外の景色を眺めている。彼のもとに到着した時と車に乗せた時にそれぞれ礼と詫びとを聞き、それから僕の家に向かって欲しいと伝えられて以降、彼は地蔵のように言葉を発さずに外を眺め続けている。  

    • 風の導線

      木陰に聞いた私の行先 素っ気なく返ってきた 「しらないよ」 【鳴いたのは】 佇む野良猫で 枝のひとつから飛び降りた 仲間とでも言わんばかりに 【泣いたのは】 迷った私だった 差し伸べた手は振り払われて 猫はどこかへ消えてしまった ほろりと流れた 頬を伝って落ちた その涙を私は必死に 【拭いた】 雨は突然降り出して 慟哭の跡を隠してくれる いっそこのまま止まないで 「それでいいのかい?」 囁いたのは風だった 耳を撫で髪を揺らして 黒い空を徐々に青くして 【吹いた】

      • 夏の余命は七日間 03

        Before… 【五】 古めかしい、言葉を選ばずに言わせてもらえばおんぼろな外観とは裏腹に、内装は非常に整然としていて、絢爛豪華というわけでは無いが、どこか懐かしさを感じさせるような雰囲気だ。四人はやっと求めていた田舎の安らぎに辿り着くことができた。  打ち合わせ自体は毎年行われていることもあり、女将さんは要領・手際よく進めてくれた。お陰で堅苦しい話はすぐに終わり、買ってきてもらったお茶菓子を美味しくいただきながら世間話のフェーズに移る。 「あれま、今年は車で皆さん来たの

        • 夏の余命は七日間 02

          Before… 【四】 四人が四人とも高級旅館であったり、リゾート地の絢爛なホテルを想像していたわけではなかった。少し涼しくなった頃に田舎でのんびりできる、まぁ歴史を少なからず感じるような、そんなところだろうと思っていた。だが流石にこれは歴史を感じるどころか、少し強い風が吹けば飛んで行ってしまいそうで、この旅館の最後を見送るのは我々ではなかろうか。  外壁はひび割れ、木造の屋根はところどころ腐り落ちそうで、窓ガラスには割れ目こそ無いが曇り切って中が全く見えない。極めつけは入

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          278本
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          17本
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        • 【青い春夜風】
          33本
        • 【高度1億メートル】
          14本

        記事

          夏の余命は七日間 01

          【一】 陽炎揺れる一本道を、一台の軽自動車が駆ける。 「あーあ、貴重な夏休みだってんに。何で仕事させられてんだよ。」  ぼやくのはハンドルを握る友成。加熱式煙草を灰皿に押し込み、缶に差し込んだストローでエナジードリンクを飲む。 「君たち下見係はこれしか仕事無いんだからいいでしょ、旅費だって経費で落とせるんだから。タダで旅行行けるだけありがたいと思わなきゃ。私は実行委員長で他にも仕事山積みなの!」  語気を強めながらも口元の緩みが隠せないのは後部座席・助手席後方に座る恵。顔の周

          夏の余命は七日間 01

          リーチングアウト 01

          【一】 枯れた田園にひとつ、煙草を吹きました。  最後に窓辺で煙草を吐いたのは十一月の最後の日曜日でしたね。今は十二月も終わりに差し掛かり、年末の空気が北風に乗って差し込んでくるようでした。十一月と比べて身体は瘦せ細り、髪の色は情けなく抜けましたが、精神に生気は漲っております。  鬱とは死を飼い慣らすか、喰われるか。SNSでこんな文言を目にしたことがあります。その言葉に準えるならば、私はあの日間違いなく喰い尽くされてしまったのです。完全に敗戦です。灰になり、廃となってしまった

          リーチングアウト 01

          【詩】死にたかったあの夜へ

          勇気を優しく抱いて飛んだ夜は 呆気なく真白な天井へ着地した 世界は何処も彼処も真っ暗で 墨汁みたいな海に浸された心 あのときの気持ちが時々ちらっと 排水溝から顔を出してわらうんだ 俺もわらって「さよなら」を渡す 少し懐かしくて ちょっぴり淡く ほんのり苦くて かすかに切ない 天日干しした心臓にひとつ虹がかかった 静かに泣いたあの日 真赤に怒ったあの日 次の「こんにちは」はいつだろうか 今度会う時は笑って酒でも酌み交わそうや 俺は今日も生きている 死ぬ日まで生き

          【詩】死にたかったあの夜へ

          【詩】息吹

          春を置き去りにした夏が 置いていかれた春に追いつかれた そんな気がした数時間だった ブリーチをかけた黒髪の逆再生 そんなことを思わせる散り行く桜 青々とした緑がまた季節を思わせて わたしはまよえる旅人だ こころはまるで宇宙の星屑 ちっぽけなわたしは 消えてしまわないように光をはなとう 夜風にひとつうたをのせて 賑やかに騒ぐかわずの様に  慌ただしい毎日に筆を置きがちですが、  何かを綴ることは忘れずに生きていきたいものです。 風木愁

          【詩】底

          薄明るい沼の底から 膝を抱えて空を見る 雀が一羽、空の彼方を 燕が三羽、水面の際を 足首に絡まった粘つく水草 擡げる手首は届かないまま 差し伸べてくれたその手に 絡める指はとても温かくて 消えてしまいそうな儚い思い出 片手は蓮の茎、片手は貴方の指 さようならを伝えて花に添える 春の酸素が迎えてくれる

          【詩】最後のさようなら

          白い吐息が流れる空へと 「よろしくね」を放った 季節外れの楓の造花 ひらひら揺れていた 凍った雪が太陽を映して 「あぶないね」と話した 深海のくらげたちが ふわふわ泳いでいた あざらしたちに囲まれて 「さようなら」を伝えた これで最後のさようなら 今度はずっとよろしくね

          【詩】最後のさようなら

          激動の年末年始でした。今年また何か書ければな、と思っています。よろしくお願いします。

          激動の年末年始でした。今年また何か書ければな、と思っています。よろしくお願いします。

          傷跡にkissを 忘れないように

          【詩】I live...

          「without you I can live.」 それはなんと逞しくて それはなんと寂しいな 「without you I can't live.」 そんな人生にしたいなって。

          Needs.

          単純な一言 「必要」 そのひとことがもらえるだけで ぼくはいきていたいって思えるんだ

          01 死神

           夜蜘蛛は殺せ。  数年前に他界した祖母の言葉である。これは地域によって異なり、私が住むこの地域では真逆であったことを約一年前に知った。  度数の低い酒で無様に酔い、多少覚めたもののこのぶつけようの無い衝動は止まらない。よくもまぁ住まう家まで戻ってこられたものだ。  木が話しかけてくる。「この高さは丁度良いぞ」と。一時停止を無視する車が怒鳴り散らしてくる。「悔しかったら飛び込んでみろ」と。時間が囁いてくる。「無駄だ」と。  無性に苛立ちながらラム酒にコーラを注いで乱暴に箸で

          【詩】かたち

          胸の中で靄靄していたそれを 声に出して形作ってしまった 目を背けていたそれは熱を帯び 激しく 燃えて わたしをただただ狂わせていく 気づいてはならなかった 覚えてはいけなかったの 一度形を成したそれは 何度目の最期を迎えるのだろう 必ず崩壊する時は来るのだから そっとしておけばよかったのに 今の今を大切にすればいいのに 訪れない未来に仄かに期待して またそうやって悔やむのだろう