マガジンのカバー画像

【高度1億メートル】

14
夢の備忘録。
運営しているクリエイター

記事一覧

高度1億メートル あらすじ

高度1億メートル あらすじ

全寮制の大学で卒業を目前に控えているにも関わらず、卒業後の進路が決まらない青年・ヒイラギ。周りの友人は皆進路が決まっていて、それがより焦燥感を加速させる。そんなある日、コンビニで出会った金髪メッシュの男と知り合う。その男は不可解な行動を取るが、遥か彼方にいる姉に会うためだと言う。その男の言われるがままに着いて行くと、そこには無限の宙が広がっていた。

Start...

高度1億メートル あとがき

高度1億メートル あとがき

 「高度1億メートル」先日完結しました。ハートマークを押してくれた方、押さずとも読んでくれた方、本当にありがとうございました。

 今回はそこまで長いものではなく、おおよそ25000から30000字といったところでしょうか。

 この話を書こうと思ったきっかけは、本当に「夢」でした。睡眠導入剤を忘れ、浅い眠りの中、生まれて初めて「地続きの夢」を見たのです。
 普段よく夢は見る方だと思っているのです

もっとみる
高度1億メートル 11

高度1億メートル 11

Before…

【十九】「いよいよ卒業だな。長かったけど、こうやって考えるとあっという間だったなぁ。」
 ナオトとコンビニでジュースやお菓子を選びながら、ナオトの言葉を反芻する。何もかも充実していたかと言われれば、そうとは言い切れない。しかし、少なくとも俺にとって本当に貴重な四年間だった。
 同じ目標へ向かって団結して様々な課題やテストに取り組み、平日はずっと同じ環境で生活。週末には地元に帰る奴

もっとみる
高度1億メートル 10

高度1億メートル 10

Before…

【十六】 頬をはたかれたことよりも、その腕に絶句した。悲しみのあまり流れそうになった涙は、口内の、喉の水分と一緒に蒸発して消えた。
「その、腕…」
「見ればわかるでしょ!こんなんだから、わたしはここがいいの!ヒイラギはここにずっとはいられないって薄々分かってた。だから諦めるつもりでいたの、わたしだってヒイラギのこと大好きだよ!でも住む世界が違う。いつか絶対お別れの日が来るって思っ

もっとみる
高度1億メートル 09

高度1億メートル 09

Before…

【十五】「あら、おはよ。浮かない顔だねぇ。」
 その言葉は、そのままセイラにも刺さっている。彼女の表情もいつになく明るいものではない。きっと俺も同じような表情だろう。
「イロドリから、聞いた。」
 その一言だけに止め、買ってきたプリンを渡した。色々言いたいことはあるが、どこから手を付ければ良いか分からない。
「あれ、今日は一個だけ。いいの?」
「あぁ、いい。目の前でおばちゃんに買

もっとみる
高度1億メートル 08

高度1億メートル 08

Before…

【十三】「イロドリ…?」
 彼が不意に流した涙が、事態の深刻さをそのまま表していた。雲一つない透き通った青空が嫌味たらしく見える。
「すんません、僕も正直嬉しいんですけど悲しいんす。とりあえず一つ確認したいんですけど、」
 一つ呼吸を挟んで、続いた言葉。
「昨夜姉ちゃんのとこ行った時、二回ともジャンプで行きました?」
 不穏さが増す中で、真実を返す。
「いや、一回目は会いたくて飛

もっとみる
高度1億メートル 07

高度1億メートル 07

Before…

【十】 寮内に戻り、すぐさま少し冷たい水温にしてシャワーを頭から勢いよく被った。全身は冷えたが、頭の中は依然として火照っている感覚。それは髪を乾かして部屋に戻っても残っている。
 キスをした。いや、してくれたと言うべきか。凄まじい熱量で恋心が燃えているのを確かに感じながら、脈打つ心臓を両手で抑えた。部屋の鍵を閉め、布団に潜る。

 もう、いっそ夢の中で暮らしたい。
 生きていよう

もっとみる
高度1億メートル 06

高度1億メートル 06

Before…

【九】「おぉ、びっくりしたぁ。しばらくぶりだね。どーしたの?」
 自分が一番行きたくて、一番会いたい人の目の前に降り立つことができた。袋を開き、プリンを差し出す。
「こないだお金もらったから、お使い行ってきたよ。」
「やったぁ。でも、それだけじゃないんでしょ?ヒイラギ分かりやすいから。顔見ればだいたい分かるよ。一緒に食べよ。姉ちゃんが話を聞いてやろう。」

 今日のプリンの甘さは

もっとみる
高度1億メートル 05

高度1億メートル 05

Before…

【七】 着地した場所は、まるでいつも煙草を吸うコンビニの裏手のような場所だった。初めて、イロドリと会った場所。
「これ、どうぞ。姉ちゃんが世話になってます。」
 缶珈琲を差し出されるまま受け取り、二人で煙草に火を灯し合った。
「突然畏まっちゃって、どうしたんだよ。」
「さっき色々話してて、姉ちゃんすげぇ嬉しそうだったんす。僕もちょくちょく会ってますけど、姉ちゃんがあの場所に着いて

もっとみる
高度1億メートル 04

高度1億メートル 04

Before…

【六】「何泣いてるの。自分から告白しといて、結果も聞かずに泣くんじゃないよ。」
 撫でられた頭皮から脳へ、セイラの温かさが伝わってくる。貰ったぬくもりが、氷河を溶かして目から零れさせる。涙が空っぽになるまで、セイラはずっと俺の頭を撫でていた。

「なんかごめん、もう二度と会えないような気がして。」
 言葉を話せるようになるまで、かなり時間がかかった。ようやっと真意を伝えられた。く

もっとみる
高度1億メートル 03

高度1億メートル 03

Before…

【五】 高度・1億メートル。今まで一度も考えたことのない桁値。今自分は、そこにいる。不思議な少女と一緒に。夢の、中で。
「1億メートルって、キロメートル換算したら1万キロか。」
「当たり。すごいでしょ?」
「すごい。夢の中ってのがまた。」
 のんびりまったり、間近の月を見上げながら団子を食べる。こんな贅沢なお月見は二度と経験できないだろう。最後のひと玉を食べ終えた時、足元に先程シ

もっとみる
高度1億メートル 02

高度1億メートル 02

Before…

【四】 声が聞こえた。確かにイロドリを呼ぶ声が聞こえた。声の主は、きっとイロドリの姉であろう。しかし見渡す限り、漆黒の世界にキラキラ光る物体しか見当たらない。
「上だよ、上。あら珍しいね。お客さんだ。」
 声に従って首を上に向けた。するとさらに信じられないものが目に映った。
 そう遠くない場所に誰かがいる。その誰かはこの広大な黒き世界に寝転がっていた。と言うか浮いていた。
「姉ち

もっとみる
高度1億メートル 01

高度1億メートル 01

【一】 「焦燥」。
 五年前の三月、俺を一言で表現するならばこの二文字だけで十分だった。何ならお釣りが出る。「焦」の一文字だけでも事足りる。大学卒業を目前に控え、行先不明のまま時は惨く流れていた。あの日までは。

 俺は約束を破ることをここに宣誓する。

【二】 全寮制の大学に入学して、三年と十一か月と二週間が経った。
 その大学は教師を志す者を育てる学部があり、その学部は全寮制だった。俺は、別に

もっとみる
【詩】銀河

【詩】銀河

貴方はそこで待っていてくれた
優しくて温かくて柔らかな微笑
そんな貴方を、忘れないように
私はこれから夢物語を残すんだ

貴方はきっと怒るだろう
夢の中で私に見せた激昂
それを遥かに上回るほど
貴方はきっと怒るだろう

貴方を裏切る形になっても
私はこれから見た夢を語る
世界の最後に笑ってくれた
貴方のことを忘れはしない

私の呼吸が
私の鼓動が
私の脈拍が

終わりを迎えてしまった後に

貴方と

もっとみる