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チョキロール(仮名)部の思い出
中学生の頃、チョキロール(仮名)部に入っていた。私は小学生の頃からチョキロール(仮名)をやっていたし、同じ小学校から上がってきた友達も皆チョキロール(仮名)をやると言ってきたので、入るのが当然のようになっていた。本当はバスケ部にも興味があって見学に行ったのだけど、シューズが床と擦れる度にキュッキュッと甲高い音が鳴るのが嫌で一日しか行かなかった。
どこの中学でも何の部活でもそうだと思うけど、先
1/31 ばーちゃん
「ばーちゃん?」
線香の煙越しに誰かが立っていた。僕はそれを直感的にばーちゃんだと思った。風が強く吹いて、線香から立ち上る煙が傾き、その姿がはっきりと見えた。
「...太郎かい?」
ばーちゃんは、初めは怪訝そうな目つきをしていたが、僕の姿を認めるとパッと花が咲いたように笑った。
「太郎、一年ぶりかな?」
「ばーちゃん、今日会ったでしょ。そんで死んだでしょ」
死んだ途端ボケたというのだろうか。
1/29 夏休みの自由研究、って話
「アリジゴクがウスバカゲロウに羽化する瞬間と、ボウフラが蚊に羽化する瞬間どっちが見たい?」
週刊誌の表紙になりそうなくらい高く澄み渡った夏空だった。入道雲の真ん中に飛行機が突っ込んだ。庭の樫の木にセミが10匹以上止まって、同じ教室に閉じ込められたようにリズムを合わせて鳴いていた。
「んー?」
横に座っている弟がこちらに顔を向けた。
「ボウフラ」
弟は一言で答えた。
「なんで?」
「アリジゴ
1/28 下駄箱の向こうの彼、って話(下)
(上)はこちらから。
イタズラを始めてからすぐに夏休みを迎えた。その間もずっと「今度は何を仕掛けてやろうか」とばかり考えていた。夏祭りの夜店で売られているホットドッグの串、かき氷のストロー、蚊の死骸。抜けるような夏空の下、縁側で入道雲を眺めていると、アイディアはどんどん浮かんできた。
秋。腐った銀杏、首なしトンボ、栗のイガイガ、柿のへた。その他大勢。
冬。泥にまみれたひとつかみの雪、彩
1/27 下駄箱の向こうの彼、って話(上)
下駄箱の向こう側の彼に私が接触し始めたのは、入学して3か月が経った頃だっただろうか。
私が通う高校は明治○年に創立された歴史深い伝統校だ。建てられて以来一度も改築されていない木造校舎は県の指定文化財になっているくらいだが、学生の間ではひどく評判が悪い。黒く色ずんだ床は歩くたびにギイギイと音を立て、底が抜けたらどうしようとこわごわと歩く。教室の扉は1週間に1回ワックスを塗らないと開かなくなる。
1/26 河童の川流れ、って話
河原を散歩していると河童が川で溺れていた。
珍しい、泳げない河童もいるんだなと最初は冷ややかな目で見ていたが、河童が立てる水しぶきがあまりにも大きく、不安になった俺は声を張り上げた。
「おい!大丈夫か!」
河童から返事はなく、手足をばたつかせて今にも沈みそうな有り様だ。
「今助けてやるから待ってろ!」
俺は河童が溺れている地点まで近づき、急いで服を脱ぎ始めた。すると、
「来るな!」
河
1/25 脳が咲いちゃった、って話
幼稚園のときの話。
ある日、知恵ちゃんとままごとをしていたら「ポコッ」とワインの栓が抜けたような小気味良い音がして、「なんだろう」と顔を上げたら知恵ちゃんの頭のてっぺんから何かが勢いよく噴き出ていた。
それは文字と記号と数字を重ねて適当に線を間引きしたような、読めそうで読めない何かだった。色とりどりに彩色されて、しゃぼん玉のようにしばらく宙をふわふわと漂ってからパチンと弾けてしまう。
知
1/24 飛び出た財布、って話
フィクションです。
その日は、太陽がテラテラと照りつけて地面には陽炎がユラユラと揺れてそうなほどの猛暑日だった。
京都はいつのシーズンも観光客が多い。春は円山公園の夜桜、夏は祇園祭りの山鉾、秋は嵐山の紅葉、冬は雪の降り積もった寺社仏閣と、まあどの季節にも“映えてる”ものがあるのだ。人並みはずれた人酔い体質を抱えている私は、いつの季節も自宅で丸まっているのが常だったが、その日は何かの用があ
1/23 人魚の解剖、って話
この前の医学部の解剖実習で、
人魚の解剖をしてたとき、
同期の男の子がまず耳をそぎ落として、
それを持って走って壁にピタッとくっつけて、
「壁に耳あり!!!」
をやってて、
「あ、人魚でもやるんだ」
と、少し嫌な気持ちになった。
人魚の腹を裂いたら薄ピンク色の卵がたくさん、
ポロポロこぼれ落ちて、
それを見た同期の女の子が、
「これって魚卵でいいのかな? 人卵なんて言葉ないよ
1/22 朝焼けを掴んだ、って話
朝焼けが綺麗で、
手を伸ばしたら、
どんどん腕が伸びていって、
「あれ?」って驚きが全身に走る前に、
気付いたら朝焼けを掴んでて、
意外と卵みたいにブヨブヨしてるんだなと思って、
「潰すか」
力いっぱい握ったけれど、
潰れなくて、
そういえば私の握力は10も無かったな、
と少し気が緩んだら、
指の間から朝焼けがつるりと落ちて、
ポヨンポヨンと2回くらい弾んでから、
スッと
1/21 外国人のおじさんが私を幸せにしてくれた、って話
駅のホームで電車を待ってて、
後ろから何か話しかけられたので振り向くと、
外国人のおじさんが立ってて、
「ここに行くにはこの電車で合ってる?」
というようなことを聞かれて、
小さな声で「Yes...」と返したら、
おじさんは非常に機嫌良さそうに、
親指を天に突き立てながら、
「Good!!」
と満面の笑みで言って、
その光景を見た途端、
私の頭の中で「パパパーン♪」とファンフ