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たけのこの里・開封実況実食プレイ

 友人の「たけのこの里・開封実況実食プレイ」の書き起こしです。


「なんか美味いらしいじゃん? 美味いのか、本当に?
 今までたけのこの里もきのこの山も食ったことのない、そんなオレが人生で初めてたけのこの里を食べて感想を言う、ただそれだけの動画。なんでたけのこを選んだかっていうと別に理由はない。オレの勘。
 前置きはさておいて、とりあえず袋から取り出してみよう。

「...なんだこれは? 緑...目に優しいパッケージ。その中に、たけのこが6つ並んでいる...と。っていうか空も緑色なんだな、大丈夫かこいつら? 目まい起こすだろ普通。そんな苦難、神から与えられし試練を乗り越えながらこいつらはここで生活していると。...普通引っ越すだろ、そんなに”里”を作りたいのか。
 っていうかあれだな、”里”って言うわりには数が少ないな。里じゃなくて一家だよ、たけのこの一家。うん。よく見たら原っぱの中に家がある、2つ。3人家族と3人家族、もしくは4人家族と2人家族。こいつらが死んだらこの里は滅びるな。限界集落で暮らす罪なき6人をオレが今から食す...と。そう思うと覚悟が要るな。まあいいや、しょせんたけのこ。

「っていうかこの箱どこから開ければいいんだ? 開け方を教えてくれ、開け方。開け方がどこにも書かれていない...おいおい待て。開け! ...開かないな。もう一度試してみよう。開け! ...なんだこれは? どーこーかーらー開ーけーれーばーいいの? 開け方を教えてくれ! それらしいボタンは付いてないのか? 宇宙船の脱出装置みたいな赤いボタンは。...無いな。
 おいオレは開封すらさせてもらえないのか? たけのこ達の必死の抵抗。総力戦だな、だとしたらオレも容赦はしない。お前らがその気ならオレも本気で潰す。まずは相手の軍事力を測定しよう、オレは昔策士として鳴らしてたんだ...。カロリー、667? ゴミみてぇな弱さだな。
 ...ん? ああ、こっから開けるのか。箱の手前側に開けるところがあった。命拾いしたな。でも結局お前らがオレに食われることに変わりはない。じゃあ今からお前らの最後の姿、勇姿をこの目に焼き付けるとするか。

「...なんだこれは? 箱の中に袋がある、二重シールド。頑丈だな...。そこまでして食われたくないのか。っていうかパッケージも緑色なんだな、統一感がある。
 ...もしかしたらオレの覚悟が足りないのかもしれない。罪なきたけのこ達を食らうオレの覚悟がまだ一定のレベルに達していない、と。分かった。祈りを捧げよう。この世の生きとし生けるもの、全てに祈りと感謝を。オレが今から犯す大罪を、神よ! どうか許してくれ! ...よし祈った、開けるぞ。

「...なんだこれは? めちゃめちゃたくさんある。6人家族じゃないのか、竹やぶに隠れててオレの動向を監視していたのかもしれない。これだけ居れば確かに”里”だな。そこは認めよう。それにしてもみんな形が整ってるな、個性がない。まあ、たけのこに個性を求めても仕方がないか。
 今のところ美味そうな気配はないな、ただのチョコレート。そうか、段が互い違いに付いてるからたけのこなのか。たけのこのエッセンスはそこにしか感じられない。じゃあきのこの山はきのこなんだな。
 ...これ本当に美味いのか? 例えばチョコパイなら見た目だけで美味そうって思うんだけど、このたけのこからはそういう雰囲気が微塵も感じられない。クラスにいたことは覚えてるけど名前を思い出せないタイプだな。何の印象もない。
 あの、友達の家で食うお菓子って自分の家で食うよりも美味く感じられるじゃん。”友達の家で食べる”っていう特別性が見た目と美味さを底上げしてるんだろうな。でもこのたけのこに関しては、友達の家で出されても絶対に美味そうとは思わない、断言する。こんな見た目で美味いわけねえだろ。もちろん自分で買おうとも思わないな。
 ...ひょっとしたらオレは騙されているのかもしれない、世間に。この高度に発達した情報社会、何が本当で何が嘘なのか分からない、荒れに荒れ狂った情報の渦にオレは今まさに飲み込まれて沈みゆく途中にあるのかもしれない。そういった世相、真理をたけのこの里が身をもって教えてくれる。ダメだ! みんな騙されている! ...良い啓蒙動画になるな、これは。
 しかし、乗り掛かった舟。相手に情けをかけるなどもっての外。オレも本意ではないが、とりあえず一つ食べてみるとしよう。ヒィ...。
 ...なんだ普通に美味えじゃん。ああ、こんなサクサクしてるんだ。っていうか全然味はたけのこじゃねえな、見た目だけか。普通の美味いチョコレート菓子って感じだな、うん。

「...あれだな、やっぱ見た目には騙されちゃいけないってことを教えてくれたな、たけのこの里は。見た目が弱そうなクラスの隅っこにいる奴でも、実は隣町で番長張ってた、そんな驚きがあったな。お前らも騙されんなよ」

(おわり)

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