まや ひろし

岩崎書店第16回ジュニア冒険小説大賞「クラウドハンター」小説で佳作受賞。 東映アニメー…

まや ひろし

岩崎書店第16回ジュニア冒険小説大賞「クラウドハンター」小説で佳作受賞。 東映アニメーション100年アニメプロジェクト「メテオギャザラー」小説と企画書で奨励賞受賞。 ゲームシナリオ、設定等作成。 唯一を分かりやすく、を目指して。

最近の記事

  • 固定された記事

えん結びの花 序

あらすじ 大知と杏月は大学生ながら籍を入れるほどの恋仲であったが幸福の絶頂だった筈の大知が凄惨な自殺をする。 親友の楓我は大知の死が信じられず杏月に話を聞く。だが杏月は今にも消えてしまいそうなほどに憔悴しきっていた。 杏月は好きな人が居るなら恋を実らせてと願いその後死亡する。楓我にはマリーと言う意中の相手がいた。 戸惑う楓我の前に突然大知の死について聞いてくる進歩が現れ風我もマリーも死ぬと言う。楓我激昂し、進歩を殴りつけてしまう。 進歩は手を出したのだからある噂の真相を探っ

    • えん結びの花 十一・刻々

       11月3日。金曜日。午前10時。 「天気は下り坂か」  昨日までの秋晴れはなりをひそめ、朝から肌寒い曇天の空が広がっていた。  始発の駅前から乗車したバスは目的地で降りるまで楓我と進歩の貸切状態だった。  街の停留所を全て素通りして市街を抜けたバスは蛇行する峠道を登り、30分ほどで山中にただ一つの停留所、柴森山峠停留所で二人を降ろし、からっぽの車体で峠を降りていった。  ディーゼルエンジン音が消えて周囲は静かになるかと思いきや、山は意外に騒がしかった。  風で枝葉が揺れて何

      • えん結びの花 十・確証

        「見守る?」 「そうだ、あいつは守るべき存在なんだ!」  進歩が今までになく感情的に叫ぶ。  雫はそんな進歩を見て切なげに目を潤ませていた。 「でも、雫さんはお前のことを……」 「それでもだ。勘違いしているだけさ」 「勘違い? いや、前から思っていたが……、そういうことを雫さんの目の前で言うか?」 「何度も言ってるよ」  えっ? と楓我が振り向くと雫はうん、と苦笑いして頷いた。  ──……なんて歪な関係なんだ。  自分にまともな恋愛経験はない。だが、それでもこの二人ほどこじれ

        • えん結びの花 九・否定

          「ハイ。楓我、なぁに?」  マリーの明るい声が鼓膜をくすぐる。 「君を食事に誘いたいんだ」 「それは……、どうしてかな?」  スピーカーの向こうの声は探るようなイタズラっぽい響き。鈴が鳴るような愛らしい声は聞くだけで気分が舞い上がりそうだった。 「マリーと一緒にソバを食べたいんだ。あの時みたいに、八年ぶりに」  少しの間、静寂が流れる。 「……私、山菜ソバがいい」  マリーの声は優しかった。 「あの時みたいな、わらびがたくさんのおソバがいいな。デザートは……」 「ずんだ餅でい

        • 固定された記事

        えん結びの花 序

          えん結びの花 八・確信

           今日も取り巻きは無く、玲王は一人だった。  怪我をしたのか、左手首にテーピングをしている。 「よう」  威勢と態度こそ以前と同じに見えるが、その声は前よりも幾分落ち着いているように感じる。 「怪我したのか?」 「ちょっとな。それより……」  玲王が進歩たちを横目で見た。 「僕たちはいい。先に用を済ませてくれ」  楓我の顔を見た進歩は妙に優しげな笑顔で玲王にどうぞ、と促す。  見た感じは遠慮しているという体だが、一瞬楓我に見せた鋭い眼差しには是が非でも何か情報を聞き出せ、と言

          えん結びの花 八・確信

          えん結びの花 七・告白

          「言え」  楓我の低い声に押されたと言うわけでもなさそうだが、進歩はため息と一緒に語り始めた。 「雫がその頃、僕に告白してきたんだよ」 「それだけ付き合いが長くて告白してきたこと、無かったのか?」 「あくまで友人としてだが雫との付き合いはそれなりだ。だが、あの時まで言葉でああもハッキリ言われたことはない。あの日、本当に突然の事だったよ」 「へぇ。受け入れた?」 「断ったに決まってるだろ! だけど……」 「告白後、二人で現象が起きるようになった、か?」 「なんでだ……。僕はフッ

          えん結びの花 七・告白

          えん結びの花 六・予測

          「ここはひと気が無くていい」  進歩は楓我を連れ、かつて杏月と話をした中庭に来ていた。  ──わざとか?  楓我にとってあまり来たくない場所ではあるが文句も言えない。それに。 「てっきり、サービス課にでも行くのかと思ってた」 「君を突き出しても何も面白くない」  暴力を振るった罪は償う覚悟だったのだが、と楓我は戸惑う。  ただ、ここまでまっすぐ来た訳では無い。進歩は途中で保健センターに寄り、止血と湿布の治療を。楓我も拳に湿布とテーピングを施してもらった。  看護師は二人の怪我

          えん結びの花 六・予測

          えん結びの花 五・困惑

           同日。午後5時。  純喫茶『和心』は今どき珍しい個人経営の喫茶店だ。  楓我が静かに一人の時間を求める時に利用している場所で、人を誘うのは大知以外は初めてだった。  小さなテーブルの上にはパンケーキプランツとも呼ばれるピレアという小さな植物がブリキの鉢植えで置いてあり、暗めな店内のアクセントになっている。  そんな馴染の店で楓我はコーヒーの味がわからないほどに緊張していた。 「くしっ!」 「寒いかい?」  マスターの林太郎が楓我に問う。ここに来てから楓我は何度目かのくしゃみ

          えん結びの花 五・困惑

          えん結びの花 四・進行

           10月28日。土曜日。午後1時。  葬儀は家族葬のためしめやかに進められた。親戚が三人来た以外来客はなく、その親戚も今は別室で休んでいる。  客間に棺が置かれ、そこにいるのは大知の両親と楓我の三人だけだった。 「慌ただしくてすまないね」  ぬるいお茶で喉を潤し、裕三が独り言のように呟く。  楓我は黙って頭を下げる。 「それに、死に顔も見せられなくて本当に申し訳ない」 「いえ、検死が必要な状態だった事は杏月さんから聞いていました」  大知の眠る棺の窓を開けることは出来なかった

          えん結びの花 四・進行

          えん結びの花 三・予感

          「ねぇ、さっき大きな声がしていたけど……」  ふと、後ろから聞き慣れない声がかけられる。 「あ、いや……」  まずい、と楓我が杏月をかばうようにしながら振り返る。 「ん? 杏月さんじゃない」  現れた女性は首をかしげて楓我の後ろにいる杏月を見つけ、その名を呼んだ。 「雫さん……」  知り合いらしく、杏月が女性の名を呟いた。 「どしたの? 顔色悪いよ? その人誰?」  雫がいぶかしげに楓我を見る。  雫は杏月より少し小柄で瞳が大きい、愛嬌のある顔立ちをしていた。  雫はどこか演

          えん結びの花 三・予感

          えん結びの花 二・発現

           10月27日。金曜日。午後4時。  楓我は図書室でぼんやりと講義用の資料を眺めていた。  頭の中の切替スイッチは行方不明のままだ。  夕方の図書室にひと気は少ない。古い紙の独特な匂いがエアコンでかき回され、その空気は実家から通っていた小学校を彷彿とさせた。  あの頃は宿坊近辺が最高の遊び場だった。子供の体力というものは我ながら凄まじく、平気で山を一つも二つも越えて駆け回っていた。  宿坊をに泊まりに来る外国人は多く、部屋には様々な言語が飛び交っていた。  楓我は同年代の子が

          えん結びの花 二・発現

          えん結びの花 一・兆候

           10月25日水曜日。午後1時。  大学のロビーは外壁一面がガラス窓になっており、街を挟んだ遠方には柴森山を含む雄大な山脈が一望できる。  ロビーでは昼食を終えた学生たちが各々自由に過ごしていた。 「……今聞いた感じだと、岬さんの悩みは、今は解消できてもこれからもきっとまた起きるかもね」 「そうなの?」  窓の前に並ぶローテーブル。その一卓に、他の学生たちとは少々雰囲気の違う男女が向かい合って何やら話をしていた。 「今の彼が本当に好き? っていう悩みは、きっと他に好きな人がで

          えん結びの花 一・兆候

          ミドナ腎臓治療経過観察記 -4-

          投薬開始後初の血液検査◆2024年6月8日  ミドナにラプロスを投薬開始して約1ヶ月。  投薬後初めての血液検査を行いました。  結果としては図1のように尿素窒素、クレアチニンの両数値が明らかに下がっていました。  尿素窒素は前回より19.8減り、クレアチニンも1.12減少。  まだ基準値より高いのには変わりありませんが、去年11月の前々回検査数値に近づくまで減少しました。  尿素窒素はあと4.5。クレアチニンに至っては0.17下がればギリギリ基準値になるまで数値が改善

          ミドナ腎臓治療経過観察記 -4-

          ミドナ腎臓治療経過観察記 -3-

          歯周病 13歳の今現在、ミドナには上下の犬歯と門歯、下顎右側の前臼歯以外の歯がありません。歯周病治療で抜歯したためです。  歯周病だと気づいたきっかけは口臭でした。  猫は口腔内が弱アルカリ性なので虫歯菌が繁殖しにくいと言われています。  ミドナには虫歯こそありませんでしたが虫歯菌と歯周病菌は同じ口腔内の話ながら別問題らしく、虫歯が無いイコール歯周病では無かったのです。  歯を痛がる様子は無く、歯石取りなどの口腔ケアを怠っていたツケが来たらしく、冒頭の口臭が気になったので獣

          ミドナ腎臓治療経過観察記 -3-

          ミドナ腎臓治療経過観察記 -2-

           投薬から半月が経過しました。  幸い体調も食欲も変わりないので、ミドナへの投薬の仕方の模索を綴ることにします。 投薬について ミドナは甘えん坊でよく鳴く猫です(夜泣きも時々すごい)。  聞き分けは悪くないと思うのですが投薬は流石になかなか慣れてくれず、久しぶりに腕に引っかき傷をつけられる日々が続いています。  腕に傷がつくようになったのはミドナを飼い始めて最初の数年以来です。最初の頃はじゃれて引っ掻き、機嫌悪くて引っ掻きの毎日でした。  傷がまぁつけられなくなるまで一年

          ミドナ腎臓治療経過観察記 -2-

          ミドナ腎臓治療経過観察記 -1-

          はじめに ミドナ腎臓治療経過観察記は我が家の猫の投薬治療忘備録です。  一連の経過を記録することでミドナの記録を残したいのと、似た境遇の方にとって何かしらの参考になればと考え、経過を綴ることにしました。  我が家の場合の症例、治療経過の記録ですので、ご参考程度にご覧いただけますと幸いです。  現在治療は投薬のみで2024年5月11日から始めたばかりです。  検査時以外通院が必要なわけではありませんので更新は不定期です。  ですが治療に関する内容だけですと流石に更新期間が空

          ミドナ腎臓治療経過観察記 -1-