見出し画像

えん結びの花 九・否定

「ハイ。楓我、なぁに?」
 マリーの明るい声が鼓膜をくすぐる。
「君を食事に誘いたいんだ」
「それは……、どうしてかな?」
 スピーカーの向こうの声は探るようなイタズラっぽい響き。鈴が鳴るような愛らしい声は聞くだけで気分が舞い上がりそうだった。
「マリーと一緒にソバを食べたいんだ。あの時みたいに、八年ぶりに」
 少しの間、静寂が流れる。
「……私、山菜ソバがいい」
 マリーの声は優しかった。
「あの時みたいな、わらびがたくさんのおソバがいいな。デザートは……」
「ずんだ餅でいいかい?」
「グッド!」
 マリーの声が喜んでいた。それはきっと気のせいではない。
 迎えに行くと言ったがマリーは自分から行きたい、と和心まで来てくれた。
 それからしばらくは八年前の思い出話に花が咲き、マリーの希望でもう一度実家にビデオ通話することになった。
 支払いを済ましマリーを伴って店を出た楓我は、すぐ近くにある小さな公園のベンチに座り電話をかける。すると今度は祖母のキヨも加わり、まるで久しぶりに再会した親戚のように会話が盛り上がった。
「また宿坊に来てね、マリーちゃん」
「はい。おソバ食べたいです!」
 女性三人の会話は途切れなく続き楓我はほとんど口を挟めなかった。話は尽きなかったがバッテリーが保たなくなりようやくまた今度、と電話を切る。
「あー楽しかった! 楓我、今日のおソバはどこに連れていってくれるの? 風林坊のおソバもだけど、今日のおソバも楽しみにしてるよ」
 公園を出てソバ屋に向かう道中、マリーは子供のようにはしゃいで問いかける。
「ハードルあげられても困るけど、田舎のソバに負けない味だと思うよ」
「Wow! 楽しみ」
 その後、店で食べたソバは宿坊でマリーと一緒に食べたソバと同じくらいに美味かった。
 マリーも喜び、その笑みを見ていると本当に胸がいっぱいになる。
「満足してくれた?」
 店を出ると空はすっかり鈍色に染まり少し欠けた満月が浮かんでいる。
「大満足! 今度は風林坊のおソバだね」
「でも、ここのソバよりは美味くないかもしれないよ」
「そんな事無い! お母さんに失礼」
 マリーは楓我の額を指でつついてこら、と子供に叱るように諫める。
 すべての仕草が愛おしい。
 これが夢心地か、と楓我は心地よさに浸る。
「これからどうするの?」
 月を背負い、マリーが首を傾げる。その姿は昼間がひまわりのような明るさだとすれば、今は幻想的な百合の花のような妖しさをにじませていた。
「マリー、今日、これから……」
 八年越しに蘇った記憶からつながった気持ちを今、形にしたい。
 うるさいほどに高鳴る心臓を押さえながら言葉を選んでいたその時、複数の人影が近づいてきた。満月に照らされた顔には見覚えがある。
「佐々木さんの……友人?」
 さすがに取り巻きとは言えない。隣りにいるマリーは何? と戸惑っている。五人のうち後ろから来た小柄の男がずい、と楓我の前に来ると切迫した様子で言った。
「あんた、玲王から相談受けてたよな」
 走ってきたのか声はかすれて今にも息が上がりそうになっている。
「昨日受けましたけど。それが何か?」
「昨日……。じゃあ、玲王の事は知らないよな?」
「知らないって何のことです? 相談を受けてその後は普通に別れましたけど」
 楓我の返事に眉間にしわを寄せた男は脱力した様子で肩を落とした。
「言いにくいんだが……」
 男が楓我の隣にいるマリーを見て言いよどむ。
 楓我はその口ぶりににわかに不安を沸き立たせた。
「楓我、私は気にしないで。あなたたち、楓我になんの用?」
「ああ、あんたも玲王に色々ちょっかい出されてたよな? いい印象はないだろうけど、聞いてくれるか?」
 マリーが頷く。
「玲王が……死んだんだ」
 驚きのあまり思わず手にしていたスマホを落としそうになる。
「冗談……」
「冗談なんかじゃない! 最近あいつは変わったんだ。俺達これからは楽しく付き合えるって思っていた。それなのに……」
 まさか、と楓我の手が震える。
「あと、もう一つ。あんた藍子さんのこと知ってるよな」
 声が出ずただ頷いた楓我の肩にマリーがそっと手を置く。
「藍子さんの入院先で玲王は倒れたんだ」
 男の言葉を聞いた楓我は弾かれたように顔を上げた。
「あ、藍子さんは?」
 男が顔を歪め少しの間その場に沈黙が流れる。そして。
「藍子さんも……。昨日、死んだ」
 息を呑んだ楓我の隣でマリーが口を抑えた。 
「そんな! 俺、昨日会ってるんですよ? 元気そうだったのに!」
「あいつは……、弱いところを見せようとしなかったんだ」
 男が力なさげに小さくかぶりを振る。
「将来社長になる人間は人に余計な心配をかけないように振る舞うもんだって、最近よく言ってた。あいつ、それを実行してたんだ」
 もしかして玲王が昨日会いに来たのは、次はないと悟っていたのか?
 ──俺は、その覚悟に気づかなかった?
 楓我は頭を抱えてその場にしゃがみ込む。
「楓我?」
 気遣わしげに楓我の隣にしゃがんだマリーが楓我の顔を覗き込む。
「最近、玲王はあんたのこと良く話しててさ。だから、話すべきだと思ったんだ」 
 男同様、周りにいる四人の友人たちも一様に落ち込んだ顔をしている。楓我が立ち上がると気を落とさないでくれ、と慰めを置いて五人は帰っていった。
「楓我……。大丈夫?」
「マリー。本当にごめん。こんな大切な時に俺……」
「ううん。私、今日は帰るね。落ち着いたら連絡して。待っている」
「……ありがとう」
 顔を上げた楓我にマリーが優しく唇を重ねた。
 驚く楓我にマリーが囁くように言う。
「あなたは優しくて強い。だから大丈夫。おやすみなさい」
 その瞬間、マリーが輝いて見えた。心臓が爆発しそうなほどに高鳴る。
「おやすみ、マリー」
 マリーは夕闇の雑踏の中に紛れて姿を消した。マリーの輝きは光の道となって遠くへ遠くへと伸び、残像のようにしばらく輝きを残している。
 唇が熱かった。マリーがくれた幸せと、またしても知己を失った悲しみがないまぜになり、どうしても涙が止まらなかった。

 11月2日。木曜日。午後5時。
「これで三件目か」
 大学の図書室。
 楓我はテーブルに頭を突っ伏して何度目か数えきれないため息をこぼし、前に座る進歩は天井を見上げて腕組みをしている。
 その隣には雫も同席し、楓我の様子を心配そうに見ていた。
 まるで天界から地獄の奥底にある阿鼻地獄まで突き落とされた気分だった。
 進歩は顔に貼った絆創膏を指でかきながら眉をひそめ、口をへの字に曲げている。
「なんで……二人が……」
「その友人の話をまとめると、最初はちょっとした疲労かと思って念のための入院だった藍子が昏睡状態になった。それを知り大慌てで面会に来た玲王。だが病室に着く前に玲王も倒れてそのまま入院。藍子は玲王に会うこと無く意識不明のまま死亡。そして玲王もまた意識が戻らないまま翌日に後を追った、か」
 演者のような口調で話した進歩が小さく息を吐く。
「あの時、俺が、佐々木さんが無理していたって気付いていれば……」
「気付いて、何が出来る?」
 進歩の遠慮のない言葉が胸に突き刺さる。
「進歩くん」
 雫が進歩を戒める。
「現実逃避するな。植物の影響が少ないのが謎だが、玲王は死んだ。藍子もだ。俺たちも理不尽な死に近づいているかも知れないんだぞ?」
 言い切った進歩の言葉に雫が身をこわばらせる。
「悪い……。進歩だって調子良くは無さそうなのに」
「説法屋に心配されるほど悪くはないさ」
「雫さんも大丈夫?」
「うん。平気だよ。元気元気」
 雫が微笑む。だがその表情には隠しきれない不安がにじみ出ていた。
「都市伝説の方は何か新しい情報はあったのか?」
 進歩はああ、と鋭い視線を向ける。
「恋愛、まじない、占いとかそういう類の都市伝説めいた話をネットで調べた。まぁ、カスばかりだったね」
 進歩は置いていたタブレットの電源を入れ、情報を映し出す。
「しょせんネットは個人の見解のるつぼだ。信ぴょう性の『し』の字も無い、データの無駄でしかないゴミ情報が渦巻いていたよ」
 聞いているだけで楓我もめまいを覚える。
「でも、類似した噂やら何やらから一つ、ようやく調べても良さそうな都市伝説情報を見つけた」
 タブレットをタップしてファイルを開くとそこには一行、文が書かれていた。
「『縁結びの花伝説』? これって伝承の?」
「いや、内容は全く別物さ」
「この『えん』って、縁のことか?」
「さぁね。これ関連のページ見るとみんなひらがななんだよ」
「……なんでひらがな?」
「不明さ。どのページ見てもそれについては特に書かれていない」
「じゃあ、内容は?」
「珍しい話ではないね。誰かに片思いしている人がいると、願いを叶える花をくれる誰かが現れる。その花をもらって、相手が受け取ると両思いになるって寸法さ」
「うん、普通だな」
「だけど、その後が少し変わっている」
 進歩がタブレットの画面をスワイプして見るように促すと、そこには不穏な言葉が続いていた。
「……晴れて両思いになり、そして結ばれた二人は……死ぬ?」
「そうなるらしい」
「結ばれたら死ぬって。結ばれる意味無いだろ?」
 悪趣味どころじゃない、と楓我は憤る。
「僕に言わないでくれ。でも、知っている現象には当てはまる。だから照らし合わせて考えてみた」
 進歩はごく真面目な表情で楓我を見て話し始めた。
「花っていうのは、象徴なんじゃないかと思う。こういう都市伝説には元々話に尾ひれがつくものだしね」
「ああ」
 楓我が頷く。
「誰かが人の幸せを、恋人同士の幸せを呪ったんじゃないかと思う。自分に幸せが来なくて、他人の幸せを呪う。これはまぁ、よくあるよね」
「人を呪うっていうのは……そうだな。特に幸せな人は呪われやすい」
 楓我は悩み相談をしていたはずなのに、いつの間にか裏切った、振った相手を呪う片棒を担がされかけたことが何度もあったことを思い出し、肩をすくめる。
「そして、呪うだけじゃ飽き足らず、わざと幸せの絶頂まで持ち上げてから突き落とすように仕向けた。そういう風にも考えられる」
「ひどいな……。だけどありうる。そんなこじれきった恨み辛みの相談も……まぁ、聞いたこと無くはない。ちょっと胃が痛くなる話だった」
「僕ならそんな話を聞いたら胃がねじ切れるな。て言うかそいつの首ねじ切るな」
「進歩はそういうの耐性ありそうだけどな」
「そういうのを話している人間自身が嫌なんだよ」
「……そうか。にしても悪趣味がすぎる」
「考えた奴に言ってくれ。それで説法屋はなにか掴んだのか? 玲王たちが死んだグチを聞いて欲しいだけなんて言わないでくれよ?」
 進歩は楓我を値踏みするような目で見る。
「……まず、呪いは誰かから伝染するんじゃないかと思う」
「さっきの僕の話と同じでは?」
「違うよ。その人は他人を呪うためじゃなくて幸せにしたい、そう思って祝福しているつもりなんじゃないかって思うんだ」
「祝福してないよ」
「聞いてくれ。で、呪われてから死に至るまでの期間は、もしかしたら変えることが出来るかもしれない」
「それは詳しく聞こう」
 進歩が顔を寄せてきた。雫も一緒に顔を寄せる。
「杏月さんはある女性から応援されて、それで大知に告白した。でも杏月さんの場合はその前から大知を好きだったし、大知も杏月さんを好きで両思いだった。だけど、二人がいきなり籍を入れるまで急進展したのはその女性に会った後だ」
「時間的に確かかい?」
「確かだ。植物がうまく育たないと言っていたのもその頃からだった。佐々木さんも好きな人がいるなら頑張れって背中を押してくれた女性がいたと言っていた。それで勇気をもらって藍子さんに告白したそうだ」
「……恋の応援なんて良くある話だが……。もしもその女が同一人物だとしたら何かしらの要因があると疑ってしまうな」
「可能性はある。あと……。俺も杏月さんに似たようなことを言われた。そうしたら急に度胸がついたような気がして、へんな自信が湧いて、そしてマリーに告白して……」
 ふと、別れ際のキスがフラッシュバックして、楓我は首を振った。
「説法屋が花を弱らせられるようになったのは、その頃で合ってるのかい?」
「ああ。誰かから応援された杏月さん。そして俺も杏月さんから応援されてた。そんなふうに、呪いは人から人へ伝染るんじゃないか?」
「呪いの伝染……。まぁ、人を呪うようなやつなら、呪いを広めようという下品な考えを持っていてもおかしくない」
 あくまで呪いがあったとしてだが、と進歩が付け加える。
「……だとしたら、元を断つとかそういう話は無理なのか? 下手すればねずみ算だ」
「もしかしたら怨恨の「えん」とかけてるのかもね」
「くだらない。きっとアップしたのは無関係な奴だ。自分に関係ないと思うと色々余計な頭が働くからね」
 進歩が吐き捨てる。
「あと」
「まだあるのか?」
「俺は佐々木さんにも似たようなこと言われた」
「は?」
 あまり表情を崩さない進歩が思わず呆けた顔を見せた。
 雫も思わず目を丸くする。
「現象が強くなったとかそういうのはないけど……。俺、今どういう状態になっているんだろうな?」
「呪われた奴二人にそろって呪いを伝染されるって、なんだいそれは?」
「いや、だから呪いと決まったわけじゃないし……」
「説法屋、君はマリーが好きなんだろう? 告ったんだろ? ならば、彼女にも感染っているのかい?」
「昨日の夜、それとなく聞いてみたんだけど、植物を触っても別に変わらないって言ってた」
「愛しのマリーのことだからそこらへんはきちんとしているんだろうね?」
「茶化すな。俺の現象は……」
「見ただけで枯らせられるようになったか?」
「そんな訳あるか! 変わらない。いや、むしろ弱まっている気がする。いくら触ってもわずかに色褪せるくらいだよ」
「そうなの? それ、逆だよね? みんな恋が進むにしたがって現象が強くなるっぽいのに。私と進歩くんみたいに」
「僕と君は違うからね」
 まだ言う? と雫がむくれる。
「それで、呪いの期間を変えられるかもってのはどういう事なんだ?」
「呪いの進行を変えられるかもしれないっていうのは、佐々木さんと藍子さんで思ったんだ」
「どうして?」
「佐々木さんと藍子さんは、最初に佐々木さんが告白した後、しばらくして不仲になっていた。理由は佐々木さんの態度が悪くて藍子さんが愛想をつかしかけていたからだ。きっとあまりにも問題があると呪われた状態でも別れる事は出来るのかも」
「それで?」
「俺が知る限りだと大知と杏月さんの場合、枯れる現象が起きてから亡くなるまでおよそ半年」
「半年……。そういえば具体的な期間は気にしてなかったね」
「進歩から聞いた友人二人も、春に告白して秋頃に亡くなっている」
「……それも半年だね」
 雫が喉を鳴らす。
「だけど佐々木さんと藍子さんは、去年のクリスマスにおそらく発症して、そして先日亡くなった。他と違うのは途中で仲が疎遠になっていることだ」
「……たった三つしかサンプルがないのがアレだが、二件と比べて明らかに長いようだ」
「本当に恋仲の二人を呪うのが目的だとしたら、不仲だと呪いが進行しないのかもしれない。もしかすると、そのまま呪いが消えるかもしれない」
「当てずっぽうの絵空事とは、言えないな。だが……」
「まず、本当に呪いなのか?」
「説法屋が言うとなんか面白く思えるね」
「俺は別にオカルトとかそういうのを盲目的に信じている訳じゃない」
「まぁ、恋愛、恋の感情が呪いの侵食に関わるなら、僕と雫は管轄外のはずだしね」
「それさ、聞きたかったんだけど、本当に二人の間にそういう感情はないのか?」
「無い」
 楓我の問いに進歩は即答する。
「こいつは何かに頼りたいって思っていて、それがたまたま僕なだけさ」
 本人の前で言うか? と思ったが雫は慣れっこなのか苦笑いしているだけだった。
「でも、実際に植物が弱る現象が起きている。雫さんも、お前も進行している」
「だから呪いの要因は愛情以外かもしれないだろう? どっちにしても……」
 進歩の顔が曇る。
「死を回避する方法がわからない」
 沈黙した重い空気が流れる。
「恋人同士……。男女……、オスとメス。周りの植物を弱らせる……?」
 雫がむぅ、と眉根を寄せている。
「雫?」
「ううん、ちょっとね。気にしないで」
「なにか具合が悪いの我慢してないだろうね?」
「ないない。そういう時は進歩くんにはちゃんと話すよ」
「じゃトイレかい?」
「進歩くん!」
「よし、元気なようだ」
「もう……」
 俺は何を見せつけられているのか? と楓我は眼の前の空気に戸惑う。
「とにかく、呪いが好いている者同士に起きるっていうなら……」
「別れないと死ぬぞ、とでも言って回るのかい? 僕と雫みたいなのはどうなる?」
「なぁ、しつこいけどお前と雫さん、本当に違うのか?」
「違う」
 雫は雫で頬を膨らませつつも、まぁそうくるよね、と苦い顔でかすかに笑う。
 ──これは、進歩の意地とかではない。
 楓我は悟る。
 感情は人によって受け取り方が違う。恋愛と言ってもその感情を一括りにすることなんて出来ない。たとえ呪いだとしても、恋人同士限定の愛や恋をそんな正確に区別なんて出来るのか? 家族愛はどうなる? ペットへの愛情はどうなる? 対物性愛は? そんな都合よく限定的に呪えるものなのか……?
 考え込んでいた時、タブレットが倒れる音で我に返る。
 進歩が頭を押さえていた。
「どうした?」
「……なんでもない」
 言いつつ、進歩は肩を震わせていた。
 雫が慌てて肩を抱く。
「ただの頭痛さ。ていうか、時々頭の中が妙にハッキリと……つまり興奮状態になるんだ。脳内麻薬だろうな。それが勝手に過剰に分泌されているらしい。その影響だと思う」
「何もしてないのにそれはおかしくないか?」
「どうせ色々おかしいさ。これもあれかい? 呪いの影響なのかもね?」
 進歩はおどけたように笑う。
「進歩、本当に呪いかどうかなんて考えようがない。一つ、とにかく試してみよう」
 楓我が雫を見て、雫は私? と背筋を伸ばす。
「雫さん、こんな事言いたくない。でも、しばらく進歩と距離を置いてみないか? 少なくとも悪化が防げるかもしれない」
「駄目だ!」
 息をするようにOKするかと思いきや、進歩が拒否してきた。
「なんでだよ?」
「雫は、僕が側にいなくちゃ駄目だ」
「進歩、やっぱりそれは愛情だろう? なら尚更……」
「違う。雫は……見守るべき存在だ。恋愛対象じゃない!」
 進歩は叫ぶように否定した。

この記事が参加している募集

#創作大賞2024

書いてみる

締切: