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短編小説33「君が殺される物語」

「お、おい、やめろよ……やめろよ何なんだよそれはぁっ!」

 目の前の男に腹を幾度となく刺される。

「ぐぶぅ……うぶっ、ばびゃっ」

 二人の間に何があったのか、強い憎しみ無しに、こんなに何度も刺されるものだろうか。その場に力なく崩れ落ちる少年には理由がわかっていたのかはわからない。真っ赤な液溜まりだけが波を打ちながら動いていた。
 少年を殺した男は通行人に紛れ込んでいく。

「一昨日未明に発見された少女の遺体ですが、地元の高校2年生、赤木美香さんと判明しました。なお犯人は以前消息不明となっております。次のニュースです」

 街頭ビジョンにニュースが流れていた。

「…………」

 人の流れの中に一人、少年が大型ビジョンを見上げている。今のニュースに関係があるのか、歯をキツく食いしばって見ているようだ。

「お~い、りっく~ん、なに突っ立ってんだよー、行くぞー」

 制服をはだけた少年が手を降って呼んだ。

「おー、今行くー」

 りっくんと呼ばれた少年は駆け寄っていく。食いしばっていた歯は開いて笑顔である。

「こないだ見つけた店いこーぜ、ケーキ好きな男が少なくてさぁ。りっくんいてくれてマジ助かるわ」
「一人で行くのはキツイもんね」

 放課後ケーキを楽しむ男子二人。《珈琲喫茶‐ミラクル銀三‐》のケーキが最高だという噂を聞きつけ、お気に入りの店となっていた。
 通行人の一人が二人と同じ道を歩いて行く。

「たーやん、実はあそこケーキ屋じゃないって知ってた?」
「は? うっそぉ、じゃ何屋なんあそこー」
「喫茶店らしいよ」
「たしかに!! 珈琲喫茶って書いてあったね!」

 ケーキの美味さにケーキ屋として覚えられてしまった《ミラクル銀三》だが、無理もない。ケーキの種類は数十種類と、並のケーキ屋よりも豊富だからだ。
 そのケーキ屋、いや、《珈琲喫茶‐ミラクル銀三‐》の入り口に男が一人立っている。少年二人を見て動かない。

「うっしゃーー、とうちゃーーーく! 今日どれにする!?」

 抜群の笑顔で店の扉を開く焚積(たきづみ)は理智(りち)が付いて来ていないことに気がついた。その後ろで理智は店先に立っていた男と話しているようだ。

「どしたん、りっくん」
「よくわからない。この人がさ」

 言った瞬間、男は理智の首根っこを掴み人気のない所に引っ張っていく。

「おいっ! なんだあんた! りっく、ぐうぅっ……」

 理智を取り戻そうとした焚積は男に蹴り飛ばされた。焚積の身体は宙に浮き背中から落下していく。仰向けになる焚積にどうすることもできない理智は、首が絞まっているようで声が出せない。そのまま、更に奥へと引きずられていった。

「待てよ……」

 焚積は立てない。芋虫のように這いつくばって少しずつ進むだけだ。男は焚積からは見えなくなっていた。
 理智は拘束を解かれ、地面に転がされる。男の目は何を考えているのかわからない、どこを見ているのかもわからない無である。理智は――殺される――。そう思った。

「なんだよあんた……誰だよ……美香の、美香の事件のやつか?」

 さっきのニュースで判明した被害者の名前『美香』彼女は理智の幼馴染であった。だから、その犯人という可能性のある、目の前の男に怒りを向けようとする。

「や、め、ろ、よ!!」

 焚積が後ろから男の背中を蹴り飛ばしてきた。やっと動けるようになりはしたが、力を振り絞っての蹴りだ。ふらついている。しかし、後ろからの不意打ちだ。男は頭から前に滑り込むように倒れた。

「たーやん、ありがとう。でも逃げて」
「ほら、手掴んで!」

 焚積は理智に手を伸ばして引っ張ろうとする。しかし理智はその手を取らない。美香の敵でも取ろうとしているのだろうか。

「僕はこの人に聞きたいことがある」
「りっくん! こいつはマジでヤバイって! いこう!」
「おまえ、一昨日女の子に会ったか!? あのニュースのやつはおまえか!? おまえが美香を殺したのか!?」

 理智はすごい剣幕でまくし立てた。焚積はしかたなく無理やり理智を引っ張りあげると思いっきり走り出す。

「美香をやったのかぁ!!!」

 理智の叫び声が遠のいていく。

――――――――

 追いかけるのを諦めたのか、男は君の方に首を向けた。

「おまえはずっと私を見ているな。さっきから全てを見ていたろう?」

 男は、そちらに向かっていく。
 逃げろ。
 右手には今まで同様サバイバルナイフ。
 逃げろ、今、君の横に立っている。
 頭上へ振りかぶり

「口封じだ」

 君はあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ


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